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縄紋杉がわれを呼ぶ!

九州・屋久島バックパック・ツーリング  16日間

『サイクル・スポーツ』 1996年10月号リーダーズレポート投稿記事より

一昨年夏は北海道、昨年は東北一周と日本列周回計画をほぼ順調にこなしつつある今年は九州に挑戦することとした。
 九州の海岸線に沿って走るコースを計画したが、ツーリングの目玉を何処にするか考えていたところ、幸田文さんの『木』(新潮、1992)という本を手にする機会があった。そこには屋久島の縄紋杉への熱い想いと、晩年になって執念で訪れたいきさつが記されていた。そのうえ、サイスポ誌95年5月号の体験レポートで、屋久島ツーリングをされた方がリタイアとか。そんなこんなで、私もぜひ屋久の古代杉訪問を組み込むことにした。 屋久島では下りもでも岩石ごろごろで押しっぱなし

7月30日早朝、穏やかな航海を終えて門司に到着。  さっそく、愛車を点検してから関門橋にむけてスタート。福岡から玄海国定公園の志摩町まで走る。これで初日の走行距離は140キロである。  次の日以降は、唐津 、佐賀、有田、佐世保、西海橋、大瀬戸、長崎、牛深、阿久根を経て8月3日夕方鹿児島に到着。 この5日間では、長崎から天草のサンセットラインがベストコースである。パンクが1回あったのみで、快調な走りであった。  鹿児島北港から毎朝一便というフェリーに自転車ごと乗り込む。エメラルド色の海と船の周りを舞うトビウオの光る様子を楽しみながら、4時間で屋久北側の宮之浦港へ到着。
 船内で地図を調べたり、案内嬢から話しを聞いたりしながらコースを検討する。縄紋杉へは、もっとも近い荒川登山口から4時間歩く必要があるとのこと(つまり往復8時間)。なんとしてでも今日中にその荒川登山口まで行かなければならない。
 炎天下、立っているだけでフラフラになるほどの亜熱帯の海岸道路を走り出す。約20キロほどで安房へ。そこから、いよいよ九州最高峰宮之浦岳を主峰とする1000メートル以上の山々40座が連なる山岳ルートを登り始める。
 完全舗装の道路だが、平均10%位ほどあるきつい勾配のため、約8キロの登りは結局押しっぱなしとなる。標高800メートルの屋久杉ランドへの分岐点までで3時間もかかってしまった。めったに車も通らない照葉樹林帯の中をただ一人、黙々とバイクを押し上げていると心細くもなるが、太古の昔からの森が静かに歓迎してくれているような不思議に充実した気持ちにさせてくれた。ただ、路上に平然と出てくる沢山のヤクザル達は「なんと物好きな・・・」と思ったにちがいないが。 大事な朝食用ごはんをサルに持っていかれそうになる

 結局、日没直前に目的の荒川登山口に着く。誰もいない駐車広場に手早くテントを張る。満天の星空の下で夕食を楽しんだのはよかったが 、危うくテントの外においた翌朝用のご飯の入ったコッヘルを屋久ザルにもっていかれるところだった。 テントの外に置いた人間が、悪い!
 翌朝目覚めると、空はよく晴れてている。これなら大丈夫と登山準備をしていると6時ごろ営林署の人が見回りにくる。登山道の様子や装備について尋ねる。
 その結果、軽装で構わない。水は途中補給ができるとのことで、Tシャツ、ショートパンツ、運動靴に小さいウエストポーチというクロスカントリー風の超軽装で7時にスタート。

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 初めはとうとうと流れる谷川に沿ったトロ鉄路を2時間楽に歩き、大株歩道入り口から鉄路に別れをつげいよいよ屋久の巨木の林が始まる。  ところがそのころから、屋久名物の雨が間断なく降りしきり、杉林を白く煙らせ始める。やはりいくら軽装でいいとはいえ、合羽は必要と反省した。 約20分ほどで標高1000mに達し、ウィルソン株に着く。推定樹齢三千年という大木を前に、7000年余の縄文杉への期待が増す。  登山道も、人の背丈ほどにうねる杉根を乗り越えたり、巨大な根のほこらをくぐったりとなにやらジャングルジムの趣となってくる。  それから40分で高さが40mにも達するという大王杉に到着。さらに30分ほど登りつめると、あった! ついに雨で煙る古代杉林のぽっかりあいた斜面に、まるで時空を超えた存在のような縄紋杉が古代杉の大皇后のように静かに佇立していた。7200年も生き続けた生命の重々しさがひしひしと胸に迫ってくる。 屋久島周回路は絶好のサイクリングパラダイス

 後ろ髪を引かれる思いで帰路に着き、午後1時半にはテントに戻る。雨の中でインスタントラーメンをつくって昼食にしてから、キャンプを撤収して下山を開始。
 だが滝のように雨水が流れる道ではブレーキが効かな。恐ろしいスピードで安房まで駆け降り、古代杉訪問を終えた。
なお、島内で出会ったサイクリストからは、「よく荒川登山口まで自転車で行きましたね」と感心された。ほかのアプローチとしては、安房に自転車を置きヒッチハイクなどで登山口に行って、日帰りで縄文杉を訪れるか、屋久杉ランドあたりに自転車を置き山小屋泊で宮之浦岳と縄紋杉を回ってくる本格登山のコースがあるそうだ。
 さて安房からは海沿いに南下し、平内で海中温泉を楽しみキャンプ泊。翌6日は、ハワイのダイヤモンドヘッドににているモッチョム岳の千尋滝に立ち寄ってから宮之浦港発13時20分のフェリーで鹿児島に向う。  屋久島は約100Kmの周回が可能というから、この亜熱帯の島は国内有数のサイクリスト・パラダイスと言えるのではないだろうか。今回は、台風6号による不通箇所があり、それを果たせなかったのだが。
 鹿児島港に戻り、キャンプ泊。7日にはもう一つの登山目標にしていた開門岳(924m)を目指して指宿にまわる。麓から登り2時間かけて上り頂上に達する。錦江湾、池田湖、佐多岬、硫黄島、竹島など素晴らしい眺望である。  指宿の近くの山川港から錦江湾をフェリーで渡り、大隅半島を横断。佐多岬は自転車が乗り入れできないとのことでパス。志布志、さらには野生馬のいる都井岬へ至り、日南フェニックスラインを経て宮崎。10日のことである。
 宮崎では親戚宅に泊めてもらい半月ぶりに畳の上でゆっくり寝ることができた。予定ではあくまで九州一周だったが、台風12号が接近で大分を回るのを断念、宮崎からのフェリーで川崎に戻る。 ”一周”にちょっぴり欠けたのは残念だが、16日間の旅を無事終えることができた。
 なお装備はいつもどうり、リアサイドに食材、米、ガソリンコンロとシュラフ、着替え、レインウエアなど。フロントサイドにテント一式と飲み水用3リットルボトル、ハンドルバックにカメラ、地図、洗面用具などを積み込んでいる。
 今回も、たくさんのサイクリストなどと交流ができた。九州一周中の佐賀の高校2年生、ヒッチハイクで沖縄に向かっていた慶大生、都井岬で出会った武蔵大学サイクリング部のグループ、宮之浦岳を踏破したペアのサイクリスト・・・皆さん楽しい思い出をありがとう。 データ
・全走行距離・・1030Km
・費用・・6万4千円(フェリー代含む)
・車種・・フジオリンピックOT21


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First Drafted Sept. 29 1997
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