lagoon symbol

レニー・エアース


夜の闇を待ちながらラゴンダ ほかRIVER OF DARKNESS, (C)1999田中靖訳 講談社,2001

『ウィリアム・メリックはラゴンダの銀色のボンネットの下から頭をもたげた。額はオイルでべっとりと汚れている。彼はなえたほうの腕をこすり、思い通り動いてくれない手首をマッサージした。しばらく目を瞑って気を取り直すように顔面をぶるぶると数回振ってから、またボンネットの下にもぐりこんだ。
 旅発つ直前、庭師のホプリーを含めて家族の者全員が玄関口に集合して、おたがいに別れの手を振っていた。そのとたん車のモーター音がぴたりと途絶えたのだった。ウィリアムがいざ両目にゴーグルをぴったりはめようと手をのばしたと思うや、車が咳き込み、身震いするのをメリック夫人は聞きつけた。つぎの瞬間、車は黙りこくってしまった。
 セルフ・スターターのない旧式モデルだったので、クランク棒を回して蘇生させようと数回試みたのち、彼はみんなに車から降りるように命じ、スーツケースをくくりつけた革帯をはずしてボンネットを引き上げた。』

--COMMENT--
 「・・時は1921年、イングランド・サリー州の美しい田園でおきた猟奇殺人事件・・」という紹介文だったのであまり好みではないかな〜と思ったのですが、いざ読み出すと、緻密なプロット、スコットランド・ヤードのマッデン警部補など魅力的な登場人物、息も切らせぬ展開・・で大いに楽しめました。こんな面白いサイコ・スリラーは久しぶりです。  車についても、名前しか知らない当時の名車がたくさんでてくる。サリー州の領主が捜査用に提供してくれたロールスロイス、地元の女医の"二人乗りの赤いウーズレー"、事件に巻き込まれた弁護士事務所の若者の"中古のモリス"、犯人自身のハーレー・ダヴィッドソン、お抱え運転手として預かったベントリー・・など、こんなに沢山のクラシック・カーを登場させたミステリーは初めてではなかろうか。(2002/05/18)


作家著作リストL Lagoon top copyright inserted by FC2 system