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BANKS, RUSSELL / ラッセル・バンクス

大陸漂流 シボレーステーションワゴン
トヨタバン、他
CONTINENTAL DRIFT , (c) 1985 早川 、 1991

『ボブ・ドゥーボイズには、何が起こっているのか解らなかった。なぜなら、この雪の降る12月の夜、ディーポ通りに面したバーの階上の暗い粗末なアパートメントで服をきているとき、彼の人生の物語がいま始まりつつあることなど知らなかったからだ。自分の人生の物語が、その唯一の物語が始まる瞬間を知る人は、たとえいるとしても希である。
 彼は倹約家だ。バタリック通りの北のはずれの労働者居住地区に、築75年のガタのきた2世帯住宅を所有し裏の半分を彼が“ヒッピー”と呼ぶ4人の若者に貸している。ボートも一艘持っている。キットで組み立てた13フィートのボストン・ホェイラーで、モーターは16馬力のマーキューリー社製船外機。それから、かなり使い込んだ緑色のステーションワゴンがある。シヴォレーの1974年型で、トランスミッションは相当の曲者だ。カタマウント貯蓄貸付組合にはローン=家とボートと車の=があり、残高は2万2千ドルを僅かに上回る。
死んだ父親にならって民主党に投票し、時々は妻と子供を連れてミサにも出る。彼の神への信仰は政治家への信仰と同じ性質のものだー存在は信じるが、何の世話になるつもりもない。彼は妻を愛し、子供達を愛している。そして彼は、自分の人生を嫌悪している。』

--COMMENT--
久しぶりにミステリー作品からはなれて、アメリカの底流にあるブルーカラー層の家族の、夢と怒りと挫折を描く本格的なリアリズム小説を手にしました。
 登場する車は主役ではありませんが、各々の人、シーンを補うものとして適役ででてきます。
酒屋強盗の黒人男女の乗る“プリマス・ダスター”、同時進行する別ストーリーのハイチでの“おんぼろのトヨタの白いバン”、物語が終わってボブの家族の将来の姿の中にでてくる末娘の“日本車の赤いファーストバック・クーペ”など。(91/12)


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