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BEINHART , LARRY /ラリー・バインハート

ただでは乗れない ゴルフ、ジャガーXJ-12 NO ONE RIDES FOR FREE , (c) 1986 早川 、 1987

『農家につくと、鮮やかなイエローのボックス型ゴルフが、ブリティッシュ・レイシング・グリーンの低く流れるようなジャガーの脇にとまっていた。なんというファッション風な言い回しか。
 フランコと私はやぶの陰に隠れて待った。ウッドがでかけたら私がなかにはいり、フランコが外をかためる。出かけなければ、出かけるまで毎晩ここへ通う事になる。
メルの帰りぎわ、ウッドはじっと立ち、小型のディーゼル車が発進していくのを見つめていた。その顔は沈んでいた。向きをかえて自分の車に視線を向けると、その表情も変わった。ブリティッシュ・グリーンを汚している泥は侮辱であり、内装の汚れは人柄の欠点を表している。
 彼は家の中へ入った。次に出てきたときは、スーツからチノ地のズボンと古いシャツに着替えていた。片手にフライト・バッグ、もう一方の手には掃除機をもっていた。地面にタオルを敷き、バッグから掃除用具を取りだした。ミンク・オイル、光沢剤、靴磨クリーナー、ぼろ布、小型の箒、ちりとり、ブラシ、スポンジ、バフ、まるで、これから手術でもするかのようだ。
 私は苛立ちにため息をついた。これから行われることを思うと、うんざりだった。フランコが魔法瓶のコーヒーをすすてくれた。サムビューカーが入っていた。うまかった。』

--COMMENT--
 元ジャンキーの私立探偵トニイ・カッセーラがSECの重要証人を追ううちに、その証人が殺害されてしまい自分も事件に巻き込まれていく。私にとっては初めての作家であるが、アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞をうけた処女作品。
 ジャガーがこの証人である弁護士の車であり、トニイが張り込みをしているシーン。本文中にはジャガーとしかでてこないが、この章節のタイトルが“XJー12”となっており、かなり車にこだわっているハードボイルドであることが窺えた。 (94/09)

最後に笑うのは誰だ 日本車 FOREIGN EXCHANGE , (c) 1991 芙桑社 、 1992

『小型で安くて低燃費という経済性こそ、日本人が市場に参入するさい追求した目標である.しかし、1990年には、ほんとの意味でお買い得は高級車ということになり、猫も杓子もBMWや、メルセデスや、ジャガーを買うようになった.ホンダはアキュラを開発した.
トヨタはレクサスニッサンはインフィニティといった具合、ムサシにはエレガントがあった.アメリカに比べ輸入制限がはるかに厳しいとあって、ドイツでは四万五千ドル以上、オーストリアでは五万五千ドルを上回る.
 ハヤカワは1台もっていた.出発したのは25分後で私と3人の女たち.ハヤカワの車は俺達の後ろ、尾行者がいるとすれば彼の後ろだ.』
『「これこそ命をかけても惜しくない仕事だと信じているからだ.かりに君が人種差別意識にどっぷりつかった海兵隊員だろうが、ヒッピーだろうが、捕鯨禁止と環境保護を叫ぶ社会改良主義のいくじなしだろうが、私はいっこうに構わない.我々が立ち向かっているのは何だと思うかね?企業社会だよ.アメリカの産業が日本人にどれだけこっぴどくやられているか、君は理解しているにか?」
「いい製品を安い価格で売るからさ」俺はいった.
「GMの傲慢な経営者がちっぽけな東洋人なんか相手ににはならんと高をくくって、二流の製品を売り続けた、ということもある.シボレーに乗ってからトヨタのハンドルを握ってみれば分かるんだよ.十年前にも当惑させられたけど、事情は今も変わらない.それに彼らは気がつかなかった.俺を仲間に引き込む必要なんかない」』

--COMMENT--
これこそユーモア・ミステリーの真骨頂ともいえる茶目っ気が楽しいが、オーストリアのスキー場で出くわす相手が日本人ビジネスマンであり、日本の伝統、文化、経済社会が多分に皮肉をこめて随所で語られる.ムサシなんていう仮メーカー会社名は高斎正さんのクルマ小説にもでてました. (92/09)


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