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BLOCK, LAWRENCE /ローレンス・ブロック

泥棒は詩を口ずさむポンティアック THE BURGLER WHO LIKED TO QUOTE KIPLING (c) 1979早川 1994

『クゥイーンズボロ・ブリッジを半分ほど来たところで、ふと燃料計に目をやると、針は左端の大文字のEのところを過ぎていた。途端に橋が一マイルも延びて見えた。イースト河のど真ん中で、ガス欠のために舌打ちする自分の姿が目に浮かんだ。クラクションの洪水の中で立ち往生しているところへ、やがてお巡りがやってくる。最初は奴らも理解のあるところを示すだろう。どじなドライバーと言うのは世にいくらもいるのだから。しかし、彼らの同情心も私が盗難車を運転しているという事がわかって、跡形もなく消え去る。そして、こんなふうに思うことだろう。どうしてこいつはガソリンも調べないで車を盗んだりしたんだろう。
 やつらの考えるのと同じ事を私はつくづく考えた。そしてアクセルベダルをなるたけそっと踏むようにして、ガソリン節約について社会学者達が広告で言っている事を、思い出す事につとめた。急激な発進は止める。急ブレーキは踏まない。寒い朝でもエンジンを暖める時間を、必要以上に長くとらない。どれもこれももっともなご意見ではあるけど、それがどれだけ効果があったかはわからない。とにかくハンドルを握りしめてエンジンが止まり、世界が終わるのを今か今かと待ちかまえた。
 が、そのどちらもおこらなかった。橋を越えて一ブロックばかり行ったところに、シェヴロンのガソリン・スタンドがあって、そこで満タンにしてもらった。車は腹をこすって這いずり回る旧式のポンティアックで、そのエンジンはエネルギー危機などどこふく風といった代物だ。で、座席に座ってみているとハイオクを22ガロンも飲み込んだ。でもいったい何ガロンはいるタンクなんだろう。20ガロンと私は思った。つまりこのスタンドのメーターはインチキにちがいない。河を越えると途端にせちがらくなる。』

--COMMENT--
ベストミステリーによくでてくるL.BLOCKの泥棒バーニー・シリーズ第3作。
キプリングの希少本をめぐっての詐欺事件にまきこまれるバーニーがちょっと拝借したポンティアックでしくじりそうになる部分。肩の凝らないユーモアたっぷりのスタイルが気に入っています。(94/11)

獣たちの墓ホンダ・シヴィック A WALK AMONG THE TOMBSTONES (c) 1992二見書房 1993

『「しかし、彼の顔は見たんだね?」
「彼? ああ、もちろん」
「もう一度見たらそいつがわかるか?」
「わかるだって?そんなのって自分のかあちゃんの顔がわかるかって聞いているようなもんさ。そいつは身長5フィート11インチ、体重70ポンド、髪は明るい茶で、茶色のプラスティックのフレームの眼鏡をかけてた。靴は黒い革の編み上げ靴、それにネイビー・ブルーのズボンにブルーのジャンパー。それから超ナンパなスポーツ・シャツを着てた、ブルーと白のチェックの。おれにそいつがわかるかだって? マット、おれに絵がかけりゃ描いてやるよ。あんたが言っていた絵描きに会わせてくれりゃ、おれとその人で写真よりよく似た似顔絵ができるだようよ」
「TJ,私は今感動してる」
「ほう、そうかい。車はホンダ・シヴック。ところどころへこんだ青灰色の車だ。あいつがその車に乗るまでは、あいつの家までつけていってやるつもりだったんだけど。また誰かが誘拐されたんだろ、ええ?」 「そうだ」
「誘拐されたのは?」
「14歳の女の子だ」
「くそっ、なんて野郎だ。それがわかっていたら、もっとあいつに近づいて、走ってでも追っかけてやったのに」』

--COMMENT--
マット・スカダー・シリーズ10作目。以前の作品は暗いテーマが多かったが、ストーリーテラーとして円熟味が増し会話、食事、恋人とのやりとりなどディテールが面白くなった。女性ばかりを誘拐する異常者をとことん追いつめる。
上記は張り込み役を頼んだ街の若者TJとのユーモアたっぷりのトーク。犯罪者の車がシヴィックになるのは珍しい。(96/03)

死者との誓 いボルボ・ステーションワゴンTHE DEVIL KNOWS YOU'RE DEAD (c)1993二見書房 1995

『「でも、そのとき客がついたのよ」と彼女は言った。
「常連とまではいかないけれど、まえに相手をしたことのある客よ。ジャージー・ナンバーのボルボのステーション・ワゴンに乗ってるおじさん。むっつりスケベってやつ。角までいって、そこに車を停めたわ」 彼女はじっと私を見ながら、人差し指を口に突っ込んでなめた。
「長くはかからなかった」
私はTJを見やった。精いっぱい無表情を装っていた。
「それから」と彼女は続けて言った。
「またいつもの場所に戻ったんだけど、今から思うと、そのとき彼とは通りをはさんで向かいあっていたわけね。あたしが立ってたのは54丁目の角に近いところで、彼のほうは55丁目の角。ホンダの販売店のまえよ。でも、そのとき彼を見たかって聞かれたら、答はノーだわ。だってあたしにはそっちを見なきゃならない理由なんてなかったから」』

--COMMENT--
2ヶ月まえ読んだ「獣たちの墓」がけっこう大人のミステリーで味わいが深かったので手にした次作のマット・スカダー・シリーズ第11作。マンハッタン、ブルックリンの街の濃厚な香りを背景として、調査を頼まれたある男の死とマットの女友達が死に直面しているのをほろ苦く対比させながらマットも自分に目覚める。この自己成長過程の要素をもつのが、本物のミステリなんですね。
 94年のPWAアメリカ私立探偵作家クラブ最優秀長編賞を受賞したそうで、また後から調べたら「このミス」96版で海外ミステリの第3位にランクされていたことがわかり、納得!
 上に引用したシーンは、男の殺人現場にいたホモの街娼をようやく見つけ、話しをきいているところ。ホンダのディーラーのほか、GMとかトヨタのディーラーとかも登場する。(96/04)

盲目の予言者ビュィック・センチュリーRANDOM WALK (c)1988田口俊樹訳  二見書房 1998

『ふたりはしばらく黙った。道路はすいていたので、車のスピードは時速60マイル以上でていた。車はビュィック・センチュリーで、もともとはクルーズ・コントロールが装備されていたのだが、買ったときにはそれが故障していた。それでも彼はそれをわざわざ修理にはださなかった。そもそも4年落ちの中古で、それからさらに4年乗っているわけだから、ニューモデルが発表されるこの秋には、9年目を迎えることになる。外見からもそれぐらいの年季がはいっていることは容易にわかる代物だ。オレゴン州西部を走る車は錆びるのが早いが、彼はこのビュィックをガレージに入れていなければ、洗車もめったにしないので、錆の進行がよけい早い。しかし、よく走っているほうだ。エンジンがかからなくなるなどということはないし、エンストを起こしたりもしない。ただ、ボンネットの中で変な音がするのだ。それがなんの音かわかったら、不安の種になりそうな音が。
 154番出口の付近で彼女が言った。「ほんとうのことを言うわ。ガスリー、わたし、こういうのはほんとうはいやなの」
「Uターンしようか?」
「いいえ、そうはいかないんだけど」
「どうしてもやらなきゃならないことでもないだろう?」 「いいえ、どうしてもやらなくちゃ、どのみち産む気はないんだもの」 「まあ、きみが決めることだ」』

--COMMENT--
訳者あとがきの冒頭「一風変わった小説・・」のとおり、オレゴンの田舎にすむバーテンダーのガスリーが、人工中絶しにいく女友達につきあわせられる上記のシーンのあと、天啓をうけアメリカ大陸を東に向けて歩き出すという、ニューエイジの"癒し"に、大陸漂流をかけあわせたような不思議な作品。
 "巡礼"に加わる仲間が次々に増えていくが、「ダークブルーのダットサンのピックアップ」の男、「アメリカン・モーターズの四輪駆動車イーグル」のガソリンスタンドの夫婦、「パンクしたキャディラック・セヴィル」の男女などが登場する。(98/05)

皆殺しシヴォレー・カプリスEVERYBODY DIES (c)1998田口俊樹訳 二見書房 1999

『縁石のところに車が停まっていた。錆びて車体が穴だらけになっているシヴォレー・カプリス。アンディ・バックリーが運転席に着き、トム・ヒーニーが銃をかまえ、われわれを援護して、開けたドアの脇に立っていた。
 私とミックは歩道を走って横切った。ミックは私を後部座席に押し込み、重なるようにして自分も車の中に飛び込んだ。トムもすでに助手席に乗っていた。ドアが閉められたときにはもう車は走り出していた。
 サイレンが聞こえた。ほかの音同様、くぐもった音ではあったが、サイレンにまちがいなかった。
 われわれはウエストサイド・ドライブを北に向かい、ディーガン・エクスプレスウェイに入った。アンディは一度ならず、言ってくれれば好きなところまで私とミックを送るけど、と申し出たが、ミックはそれを断った。どこに行くかはまだ決めていない、それよりこの車が要る。それが彼の答えだった。
「こいつはキャディラックよりちょいとばかし落ちるかもしれないけど」とアンディは言った。「でも、なかなかよく走ってくれる。それに、車体が疵だらけなところがいいんだ。どこの通りに停めても、まだそこにちゃんとあるから」』

--COMMENT--
 マット・スカダー・シリーズ邦訳14作目。タイトルどうり、マットのなじみのミック(闇の犯罪者だけど)が何者かに狙われ、二人が相手グループをせん滅せざるをえなくなる。こんな壮絶なバイオレンスものは、久しぶりだが、スピードあるストーリー展開はこぎみ良いほど。二人の人生や生き方にかかわる会話がしょちゅう交わされ、内省的な重みも増している。上記は、ミックの酒場が襲撃され、命かながら脱出するシーン。(99/12/02)

泥棒は図書室で推理するチェロキーTHE BURGLAR IN THE LIBRARY (c)1997田口俊樹訳 早川書房 2000

『私たちがタクシーが停まっているところまで歩き、フロントグラスを叩く。私が行き先をを告げると、運転席から降りてきた。肩幅が広くて、眼と眼のあいだが標準より狭いずんぐりした男で、オレンジ色の迷彩を施した、あのへんちくりんなハンティング・ジャケットを着ていた。鹿からは見えにくく、人はまともに顔を見てくれない、あのジャケットだ。いとも軽々と私たちの鞄をチェロキーの荷台にのせ、そこで用心深そうな眼でラッフルズのキャット・キャリーを見て言った。 「動物だね?」
「猫だ」と私は答えた。
「動物は拾わないんだ」
「そんなのは馬鹿げてる」と私は言った。「おたくの車にどんな迷惑がかかるわけでもないんだから」
「車じゃないよ、こりゃ。ジープだ」
「それがたとえディア社の新品のトラクターでも、私の猫がそのトラクターを傷つけることは絶対にないんだから。篭に入れられているんだから。外に出られなければ、金網の隙間から手を出すことさえ・・・」
「動物を運ぶことそれ自体には別に文句はないんだ」と運転手は言った。「ただ、自分で動物を拾うってことはやらないんだよ。おれは。そういうことにはきっちり線を引いているんだ」
「まあ、奇妙に思ったかもしれないが」と彼が言った。「人ってもんはどっかで線を引かにゃならない。そうしないと、いつかはどんな家畜も運ばされる羽目になる。今日は猫かもしれなくても、明日には馬なんてことにもなりかねない」
私はこっそりラッフルズを見た。今日は確かに猫だ。これが明日には馬になるとは信じられない』

--COMMENT--
 ちょっと偶然の事件が重なりすぎ・・という感じもするが、ブロック自身が楽しみながら書いた密室殺人ミステリー風パロディとして楽しめる。レイモンド・チャンドラーが『大いなる眠り』に献辞を書いてハメットに贈ったという稀覯本を探すという筋立ても、ミステリファンには見逃せない。
 唯一でてくるタクシーのチェロキー(ニューヨークから3時間でいける雪の多いところだから:地名は判らず)と、へんなことに拘るドライバーもなかなか愛嬌があってにくめない。(2000/10/02)

泥棒はライ麦畑で追いかけるトヨタTHE BURGLAR IN THE RYE (C)1999田口俊樹訳 早川書房 2001

『「ぼくのおふくろは、下着はきれいなものを身に付けるなさいって始終言っていた。いつ車に轢かれないともかぎらないんだからって」
「わたしも母親に同じことをよく言われたわ、バーン。でも、そんなことをしてどんないいことががあるの? 車に轢かれたら、下着もほかのものもと一緒にぐちゃぐちゃになっちゃうんじゃない?」
「いや、おふくろはこう言うべきだったんだよ」と私が言った。「お巡りさんに身体検査されることもあるんだから、そのときに備えて、きれいな下着を身に着けなさいってね」
「そのほうがトヨタに轢かれるよりはずっとありそうなことだから?」』

--COMMENT--
 タイトルから分かるように、あのマスコミ嫌いでも有名だったサリンジャーの身辺を下敷きにして書かれた古書店主兼、泥棒探偵バーニーの華麗な推理もの。けっこう込み入りすぎたシナリオだったかな。
 引用は、この本で唯一クルマがでてくる部分、バーニーが殺人現場に出くわし警察に逮捕され一晩留置場に留め置かれた時の話し。まあ、どんな車でもよかったのだろうけど、トヨタがそれだけはびこっているということでしょうね。(2001.9.22)

すべては死にゆくカムリAll The Flowers Are Dying (C)2005田口俊樹訳 早川書房 2006

『日が暮れるまでにポンコツのカムリを前日借りておいた貸しガレージにいれる。誰かにその車を見つけられても、車から指紋はでてこない。指紋はトランクの道具類にもついていない−鋤、小槌、見事なナイフ。そしてダクトテープにも。ガレージから自分の車−ベージュのスクウェア・バックのフォード・テンポを出す。そのトランクには彼の身の回りの品が納められている。
 インターステイト64号を西に、ついで81号を北に向かう。制限速度より4マイル高くクルーズ・コントロールを設定して、給油のとき以外休まない。ペンシルヴェニアに入るまで走り続ける。州境を越えたところで、ロビーにカレーの匂いがたちこめた個人経営のモーテルに部屋をとり、熱いシャワーをゆっくりあびる。着ていた服はひとまとめにする。翌朝、民間の慈善団体<グッドウィル>に寄付するためだ。』

--COMMENT--
 4年ぶりの新作で前作『死への祈り』の続編でマット・スカダー・シリーズ16作目。連続殺人犯にマットの妻のエレインまで狙われる。以前ほどは事件と犯人をおう集中力のようなものが感じられずいまいち。
 引用は、連続殺人犯の車の部分。ほかの場面では"サンルーフつきの白いキャディラック・クラウン・ヴィクトリア"でも登場していた。(2007.1.10 #454)

泥棒は深夜に徘徊するシヴォレー・モンテ・カルロThe Burgler on the Prowl (C)2004田口俊樹訳 早川書房 2007

『「指紋がなかった?」
「「指紋はやつの指先にちゃんとあったよ。世間のみんなとおんなじように。宇宙から時々やってくる訪問者は別にして。ただ、あの男の指紋は警察のファイルにはなかった。だから指紋からはどこへも行き着けない」
レイはドーナッツにかぶりつき、コーヒーをたっぷり飲んで胃に流し込んだ。彼は自分の車で私を迎えに来ていた。シヴォレー・モンテ・カルロで。おそらく粗悪なコカインの売人から押収したものだろう。私たちがいるのは、ウィリアムバーグズ・ブリッジのマンハッタン側に近いレストラン。レイの大のお気に入りの店なのだが、私にはいまだにその理由がわからない。カウンターでコーヒーとドーナッツを受け取り、自分のテーブルに運ぶスタイルの店だ。』

--COMMENT--
 泥棒バーニー・ローデンバー・シリーズの10作目は、おまけで侵入した住居に家人が帰ってきてしまうところ始まり、その彼女を助けるために事件に首を突っ込む羽目になる。
 仲の良い犬の美容師キャロリンや、刑事レイとの洒落気たっぷりのとぼけた会話は楽しめるものの、ややこしすぎる事件の背景、バーニーだけがどんどん解明していってしまう勝手風な展開など、私にはいまいち。
 最初に侵入する医師宅のレクサスSUV、バーニーが"仕事"のため黙って借りる(盗む、ただしガソリン補給して戻しておくのでオーナーは気づかない)マーキュリー・セーブルなど。 。(2007.8.20 #501)

快盗タナーは眠らないチェコ製のセダンThe Thief Who Couldn't Sleep (C)1966阿部里美訳 創元 2007

『テトヴォからブルガリアの国境までは125マイルあるが、夜が明ける一時間前、私は鍵のかかった車のトランクに潜み国境を渡った。車はグレーの小型のツードアセダンで、1959年にチェコスロヴァキアで製造された欠陥車だった。
 車内には、スコピエ出身の二人のIMROのメンバーが座っていた。彼らはたびたび国境を渡っていて、厄介な事態になるなることはほとんどないと思われた。ブルガリア人はどんな役職の役人であれ、マケドニアの民族分離主義者に対してつねに同情的だった。運転手はスチール製の差し歯を二本いれている、ずんぐりとした体躯の首のない男で、車は国境でざっと調べられるだろう、と言った。』

--COMMENT--
 初邦訳シリーズの<眠らない冒険者 エヴァン・タナー>第1作。マット・スカダーやバーニィ・ローデンバー以外にこんなシリーズがあったとは存じあげませんでした。
 戦場で頭に負った傷がもとで不眠症になったものの、"あらゆる言語と万巻の知識習得、世界のあらゆる組織加盟と人脈形成"…という異例なスーパー快盗が、戦時中の金貨を捜しにトルコへ向う。一度は入国できたものスパイとして追われて、アイルランドを起点に各国の民族主義者たちに助けてもらいながら陸路、目的地へ。なんとも痛快というか奇想天外な設定だ。
 引用部分の登場車はチェコといえば、シュコダでしょうね。現在はフォルクスワーゲンの子会社として生産を続けている。(2007.9.22 #511)

殺し屋最後の仕事ニッサン・セントラHit and Run (C)2008田口俊樹訳 二見 2011

『ケラーはニッサンのレンタカーの運転席で携帯電話を閉じた。マッキューの店を出て最初に行き当たったショッピングモールの駐車場にクルマを止め、そこから電話をかけたのだ。ジャケットの内ポケットの封筒の中には買ったばかりの切手、もう一方のポケットにはピンセットがはいっていて、助手席には『スコット・カタログ』が置いてあった。携帯電話をまた手にしていた。いったんポケットにしまったのだが、すぐに思い直して取り出したのだ。携帯電話を開いて、リアダルボタンを探していると、電話が鳴った。発信元を示す画面には何も出ていなかったが、電話をかけてくる相手はひとりしかいなかった。』

--COMMENT--
 切手収集が唯一の趣味のおかしな殺し屋ケラーの4作目で、題名からするとシリーズ完結らしい。ブロックらしい…といえば、とぼけた味が身上で本作はその極致かな。依頼された殺人の前にまずレアもの切手を入手していたら(引用のところ)実行する前に州知事が暗殺されその犯人とされてしまう。あとはさすらいの逃亡生活が延々と続きニューオーリンズに流れ着く。最後には濡れ衣をおわせた人物をつきとめ、ゴルフ場でだらだらと復讐の機会をうかがう…だけ。ユーモア・ジョークたっぷりの肩肘を張らないトークはめちゃ面白い。
 引用部分のほか、ターゲットに引き合わせる手下の"くたびれたモンテカルロ"、オハイオからニューヨークまでガソリン代もなく乗り続けるレンタカーのニッサン・セントラ、ニューオーリンズで知り合う女のトーラス、大工仕事に使うため図書館司書の女性から入手するシヴォレー・ハーフトン・トラック、首謀の手下のレクサスSUVと黒いキャディラックなど。(2011.12.27 #722)


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