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Janie Bolitho /ジェイニー・ボライソー

容疑者たちの事情ミニSNAPPED IN CORNWALL (C)1997山田順子訳 創元 2004

『午前9時半になるころ、ローズは、狭い道や曲がりくねった通りをらくらくと走れるミニの後部座席に仕事の道具一式を積み込み、エンジンをかけて丘のふもとをめざして出発した。
 ペンザスは観光客でにぎわっていた。例年になくにぎやかで、これはローズを含め、地元の商売人にはとってはありがたいことだった。もっとも、シーズンが終わって観光客がいなくなり、すべてが通常にもどると、ほっと息がつけるのも確かだが。
 中央分離帯のついた道路に入ると、ローズはペダルの反応が鈍いのを意識しながら、アクセルを踏み込んだ。このミニにローズの父親のいう"運動"が必要だった。父親は長く走ってやることがエンジンにはいちばん必要なことだという意見の持ち主なのだ。それはそれとして、そろそろミニを点検に出す頃合かもしれない。
 目的地はグウェイジアンだ。ヘイルのラウンドアバウトで方向転換してから、ローズはクライアントに教えられた道筋を胸のうちで反芻した。ミセス・ミルトンの家は車の往来の多い道路から外れた場所にあったが、案じていたよりも簡単に見つかった。』

--COMMENT--
 イギリス・ブリテン島の最南西端のコーンウォールを舞台に、夫をしばらく前に亡くした写真家で絵描きのローズが思いかけず事件に巻き込まれるシリーズ一作目。主人公が探偵役をするのではないが、田園地域のなかで親しまれているローズのところに何かと情報が寄せられてきて事件が自然に解決していく。コーンウォールの人々の生活、自然が書き込まれていて楽しい。
 引用部分のとおり、ローズの古びたミニは、後段ではエンジンがかからず、<ダンプスタート>をエンジンルームにスプレイするシーンもある。絶縁性能を回復させるケミカル用品らしい。(2006.11.21 #445)

しっかりものの老女の死ミニFRAMED IN CORNWALL (C)1998安野玲訳 創元 2004

『勝手口から外に出たローズは、家の横手の狭苦しい急勾配のドライブウェイに停めてあるミニに乗り込んだ。このあいだトレヴァーに修理してもらったばかりなので、一発でエンジンがかかった。トレヴァーは親友ローラの連れ合いで、ニューリン近海で漁業を営んでいるが、エンジニアの資格も持っていて、機械のことならなんでもござれだった。ローズの車の修理ぐらいトレヴァーにとっては児戯にも等しい。修理代はいらないと固辞するので、ローズはジャック・ダニエル一瓶と彼のお気に入りのたばこを一カートン進呈した。
 そうやって修理してもらってはいるものの、このミニもそろそろ寿命だった。自家用車は絵描きにとっては必需品でもないが、もうひとつの写真家としての活動には欠かせない。重たいレンズを含む機材一式を持って歩いたり、バスや電車で運んだりするのは無理な相談だ。
 ローズは運転操作の難しいドライブウェイを長年の慣れで危なげなくバックして、下りきったところで器用に向きを変えると、マーゾル行きのバスの後ろにつかえている車の列が通り過ぎるのを待った。安全を確認してから車道に出て、ニューリンの村を通って左に折れ、ラモルナ・コーヴへと向かう。』

--COMMENT--
 コーンウォール・ミステリ第2弾。ローズの知り合いだったしっかりものの老女が亡くなったものの、地元警察は事件性はないと視ていたが、腑に落ちないローズがいろいろ尋ねまわる。 嗅ぎまわるなという脅迫電話があってもひるまず、終盤では容疑者のところへ一人でのこのこ出かけるあたりは、やりすぎと言うか不自然ではある。それでも、彼女の魅力あるキャラクターが楽しめる。自宅に戻るとワインやら、ジントニックをかならずあおるし、知人たちと何かにつけ一杯やりにバーへ出かけるあたり、酒豪というかたいそうなお酒好き。
 ローズのミニについては、エンジンがミスファイヤを起こして、ため息をつきながら『おまえもほんとにそろそろおしまいかしらねえ』と話しかけるシーンがある。亡くなった夫への思いをようやくふっきることができるようになったことを象徴しているようにみえる。(2006.11.22 #446)

クリスマスに死体がふたつメトロBURIED IN CORNWALL (C)1999山田順子訳 創元 2006

『「じつはね、たのみがあるのよ。今日、トレヴァーは忙しい?」
「横になって新聞を読み、それから《スター》に行ってランチタイムのビールを飲むのを忙しいというなら、そりゃ忙しいね。どうしたんだい? まさか、車じゃないよね?」
「車じゃないわ。セントラルヒーティングのボイラーなの」
 古い友人が遺産として千ポンドをローズに遺してくれたので、その金で車を買い替えたばかりだった。デイヴィッドがプレゼントしてくれたというセンチメンタルな理由から、無理に長く乗っていた黄色いミニも、とうとうポンコツになってしまったのだ。いまやローズは青いメトロのれっきとしたオーナーだった。一発でエンジンがかかり、前の所有者はたったの三人という質のいい中古車だ。
 車を選ぶときは、そういうことには詳しいからと言い張って、マイク・フィリップスが一緒に来てくれた。確かにその通りだった。医者であるマイクは、メスを振るう患者を相手にするのと同じぐらい、エンジン相手に燃焼機関に詳しいことを証明してみせたものだ。』

--COMMENT--
 コーンウォール・ミステリ第3弾は、廃鉱のエンジンハウスでスケッチしていたローズが女性の悲鳴をきいたことから物語が始まる。画家としてだんだん芸術家仲間からも認められるようになって、男性との付き合いもなかなか活発に。
 いよいよポンコツ・ミニともお別れで、たいそう気に入っているメトロ(エンジンが一発でかかるのに感激しているシーンがほかにも出てくる!!)は、新車かと思いきや、前所有者3人もあるユーズドだ。イギリス人はつつましやかです。加えて、引用部分にでてくる、ローズの親友ローラの旦那は漁師だが、車はもっていない。車なしでも生活できるぐらいのコンパクトなコミュニティなんでしょうね。(2006.11.23 #447)


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