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C.J.BOX / C.J.ボックス

神の獲物ピックアップTROPHY HUNT (C)2008野口百合子訳 講談社 2008

『小さな平屋のほうに向かうと、ミセス・ホーキンズがポーチにでてきて厳しい表情で山の方を示した。立ち寄る必要はないということのようなので、ジョーは牧場の真ん中を横切って、8キロほど先の木立へまっすぐに続く昔からの未舗装路に乗り入れた。前方のわだちは新しく、何台もの車が通った跡があった。
 現場に近づくと、トゥエルブ・スリーブ郡保安官事務所のまったく同じGMCブレイザー2台と、薄い青のフォード・ピックアップ1台が、藪が薄くなって松林が始まるあたりにぴったりと縦列駐車しているのが見えた。車列の右手の、氷河によって運ばれてきた岩が点在する野原のような光景のなかに三つの人影があった。
 さらに接近していくと、ジョーのピックアップの前部が突然跳ね上がって、サンバイザーに留めたクリップから地図がどさっと落ちてきた。マキシーンがダッシュボードの足がかりをなくして助手席にころげ落ち、説明を求めるようにジョーを見上げた。』

--COMMENT--
 ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズ第4作(邦訳3作目)は、ワイオミングの自然を守るためにムースの変死体から始まる事件に、郡保安官の嫌がらせ・抵抗にあいながらも必死にくらい付いていく。いわゆる自然保護系のサスペンスであり、自然の描写など好みのジャンルですね。
 ただし、あまりに描き方がステレオタイプすぎじゃなかとか、ややこしすぎなプロットなどがいまいち。
 書き抜きは、2番目の家畜の変死体現場に向かうシーン。ジョーの車で森林原野を走り回る場面がたくさんあるが、ピックアップとしか描かれておらずメイクは不明。シリーズ既刊を遡って読まなければね… ほかに、不動産業者の両親がのってきた古いキャンパー・ピックアップ、超常現象研究家の"トレーラーのレクサスともいうべき巨大なエアストリーム・トレーラー"など。(2008.7.24 #556)

凍れる森ピックアップWINTERKILL (C)2003野口百合子訳 講談社 2005

『暗くなっていくあいだ、ジョーはできる限りの速さでティンバーライン・ロードを走った。だが雪はあまりにの深くて、またスタックしそうになった。夜が近づいており、これ以上車で先に進むのをあきらめ、スロープを使ってスノーモビルをバックでピックアップからおろした。そしてスノーモビルにまたがり、黒々とした森の中へと走り出した。
 迂回せずに森を突っ切り、ラマー・ガーディナーの森林局が公式には閉鎖を宣言している、広大な暗い森林地帯を抜けていった。運転は難しかった。雪の上は人跡未踏で、スノーモビルは新雪の吹き溜まりにはまりこみ、後ろのトラックベルトが進まずに沈んでしまう。粉雪にのまれかけると、マシンの鼻先が持ち上がって空を向いた。そういうときはアドレナリンが全身をかけめぐり、ジョーは体重を激しく前後に振って梃子の原理でバランスを取り戻した。…中略…
 それに、スピードを落とすわけにもいかなかった。なぜなら、一つだけのヘッドライトで進路を探そうとして減速すると、一メートル以上積もった粉雪にマシンが沈んでしまう。スタックしない唯一の方法は、マシンをフルスピードで前進させ続けることだった。』

--COMMENT--
 ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズ第3作(邦訳2作目)。森林局や土地管理局の役人襲撃事件を機に仕組まれる反政府勢力狩りにジョーが対抗する。ジョーが捜査チームからのけ者にされながらも、厳しい冬場の山岳地帯を走り回り犯人の所在を追うアクション・シーン、森に住む鷹匠との交流など荒野ミステリとして面白いが、ストーリー上であまり意味のない養女の去就など荒削りの部分も感じられた。
 ジョーのワイオミング州狩猟漁業局のピックアップ・トラックのブランドはどうも見つけられません。エルクの違法殺傷をした男の"ブロンズ色の旧型GMCピックアップ"、救急救命室の医師の<利きの早いヒーターがこの辺りで人気の>ジープ・チェロキー、逃走する犯人の<ビッグホーン・ルーフィング>のロゴがドアについた薄黄色のピックアップなどが登場する。(2008.11.22 #572)

沈黙の森フォード・ピックアップOPEN SEASON (C)2001野口百合子訳 講談社 2004

『ワイオミング州トゥエルヴ・スリープ郡では、昼夜そして季節を問わず銃声が轟くのはまったくめずらしいことではない。誰もが銃を持っている。牧場労働者がコヨーテを撃っているのかもしれないし、町の連中が照準を調整しているのかもしれない。パーン、ビシュッ。
 ジョーは、二度目の銃声が聞こえた北西に目を走らせた。山のふもとのあたりだ。生い茂った森がとぎれて、丈の高いヨモギが熱気に青くゆらめいている。銃声は遠くからだった。5キロから8キロは離れている。
 八歳の黄色いラブラドール犬マキシーンも音を聞いて、緑のフォード・ピックアップの下の日蔭から飛び出してきた。出番だとわかっているのだ。<ワイオミング州狩猟漁業局>のロゴがついた助手席側のドアをジョーが開けてやると、犬はジャンプして乗り込んだ。ドアを閉める前に、彼はウィンチェスター270ライフルとスコープを座席の後ろの携帯用ケースから抜き、後部のガン・ラックにかけた。
 ピックアップ・トラックに乗り込む間に、さらに二発続けざまに聞こえた。一発目の銃声は森と草地を抜けていった。二発目はあきらかに命中した。少なくとも二頭、おそらくは三頭の獲物が倒されたようだ。』

--COMMENT--
 C.J.ボックスのデビュー作、ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズ第一作は、ジョーの家の庭で事切れた狩猟ガイドの事件を探るうちに郡での開発をめぐる大きな陰謀に迫る。自然保護をめぐる野趣たっぷり舞台仕掛けは好みだが、やはり荒削りなストーリー展開など気になってしまう。
 引用に出てくるジョーのフォード・ピックアップのほか、殺されたガイド達の埋葬にいっしょに埋められる1989年型F250XLTラリアート・ターボディーゼル、ハンターたちの古いインターナショナル・スカウト、前任管理官のシボレー・サバーバンなど。(2010.8.21 #646)

ブルー・ヘヴンレクサスBULUE HEAVEN (C)2007真崎義博訳 早川 2008

『ジェス・ロウリンズが柵の近くにある丸い囲いのなかでチリという新しい馬を走らせていると、南の丘の森から新型のレクサス新型のレクサスが現れて彼のランチハウスへ向かってきた。背丈56インチのこげ茶色の三歳馬を走らせることに夢中になっていた彼は、びっくりした。牝馬のたてるリズミカルな蹄の音やその流れに、憑かれたような状態になっていたのだ。
 1100ポンドの馬がトロットで走る振動、それが地面を伝わるのを感じとる感覚。それを聞くといかに気持ちが鎮まることか。少し前、彼が馬を右へ行かせたとき、蹄の音に混ざって鋭い速射音のようなはじける音が聞こえた。思わず身構えたが、音は谷の奥から聞こえたので馬の足並みとは無関係だということがわかった。馬を停止させると、きれいに足を止めて訓練どおり彼と向かい合った。荒い呼吸をしながら彼を見つめ、従順な様子で口の周りをなめている。彼が聞き耳を立てると、遠くからさらに弾けるような音が聞こえた。』

--COMMENT--
 ノース・アイダホの牧場地帯を舞台にしたノンシリーズもの。ジェスの牧場に、殺人現場を目撃してしまった幼い姉弟が迷いこみ、追ってくる犯人たちから二人を守ろうとする中盤がはらはらドキドキのサスペンスに仕上がっている。後段はやや余分そうな付け足しトピックが加わってトーンダウン。
 引用は彼の牧場のシーン。てっきり馬に乗っているものと読んでいたが、入力していて、ジェスは囲いの中に立って馬を走らせる訓練をしていた…ということが分かった。どうもしっくりこない翻訳だな。  このレクサスは、牧場売却を迫りきた不動産屋のもの、他に、女性郵便配達員の"黄色いダットサン・ピックアップ"、犯人たちのキャディラック・エスカレード、昔の窃盗事件を調べにきた元刑事が使うレンタカーの赤いフォード・フォーカスなどが登場する。(2010.8.29 #648)

震える山ヴァンOUT OF RANGE (C)2010野口百合子訳 講談社 2010

『ピケット一家は、サドルスプリングから13キロほど離れたビッグホーン・ロード沿いの小さな二階建てに住んでいる。家は州の所有で、ここに越してきて6年になる。道路からはひっこんでいて、手前には最近ペンキを塗り替えた白いフェンスがある。別棟のガレージは、ジョーのスノーモービルと家族のヴァンを置く場所だ。裏手には、二頭の馬のための小屋と柵囲いがある。サドルスプリングは、"馬二頭"地区とされており、その意味するところは、狩猟漁業局は最低二頭の馬と馬具と飼料を予算に計上しているということだ。前庭からの眺望はウルフ山の南面が独占している。家と山の間には、トゥエルヴ・スリープ川の東の支流が、そここにヤナギのはえた草地を本流と町に向かって蛇行している。』

--COMMENT--
 ジョー・ピケット・シリーズ翻訳第4作は、猟区管理官の友人が自殺と思われる死亡をとげたためジョーがその後任としてジャクソンへ単身赴任する。そこで持ち上がっていたいた大きなリゾート開発の問題のなかで友人の死の真相に迫る。最後には対決することになってしまう昔かたぎのアウトフィッターとの交流はなかなか泣かせる。他の友人の鷹匠が元属していた組織から狙われるあたりは読者サービスしすぎのように思う。
 引用は、ジョーの住まいの解説部分、ジョー自身は局の緑色のフォードに乗っている。ジョーの妻の母親の再婚相手の"黒のサバーバン"、ハンターたちの黒のGMC、シルバーのフォードピックアップ、緑色のユーコン、小鹿をひいてしまうポルシェ・ボクスター・コンヴァーチブル、開発業者のレクサスSUV…『ブルー・ヘヴン』でも裕福な不動産業者が同じレクサスでどうも悪役のクルマとして扱われることが多くなってきたなぁ。(2010.9.12 #650)

さよならまでの三週間スバル・アウトバックThree Weeks to Say Goodbye (C)2008真崎義博訳 早川 2010

『いくつかの全国調査で、デンヴァーはアメリカの中でもっとも肥満のすくない大都市だと書かれている。健康とリクリエーションが宗教になっているのだ。このことを知っているのは、私がそれを海外に売っているからだ。コディはまるでジャンキーのようにタバコを吸いつづけ、シートにゆったり座って目を閉じ、煙を吐き出していた。<中略>
 土曜日の朝とあって、中心部へ向かうインターステイト70号線もがらがらだった。だが、山のある西へ向かう車線は別だ。早めに降った雪と人工降雪機の雪でいくつかのスキー場がすでにオープンし、見たこともないほどの多くのボルヴォ、や、ランドローヴァーや、スバル・アウトバックがルーフにスキーやボードを載せて走っていた。そうした車に乗っている人が40前ならデイヴ・マシューズ、40過ぎならジョン・デンヴァーを聴いているだろうと思った。
 私たちはインターステイト25号線を走り、スピア・ブールヴァードの出口で降りてダウンタウンに向かった。ペプシ・センターやクァーズ・フィールド近くの高級化したロフト群をすぎ、16番通りにあるホームレスしかいないモールを過ぎた。』

--COMMENT--
 ノンシーリーズもの、養子をもらい育ててきたベビーを3週間後に返せと迫る連邦判事とその息子に主人公ジャックとその仲間がとことん対抗する。デッドリミテッド・サスペンスぴったりのタイトルにスピード感のある展開はなかなかのもの。ただし、後段に解き明かされてくる赤ちゃん取り戻しの訳とか、登場してくる人物が妙にすべて関係してくるなど<出来すぎ、作りすぎ>の感も。デンヴァーという街が舞台になるものの、ジャックは牧場の働き手の息子という立場になっている点で、ジョー・ピケット・シリーズとの連続性もある。
 引用は、ジャックの友人の警官とデンヴァーに向かうシーン、スバル・アウトバックはのステイタスは結構高いようだ。弁護士のメルセデスMクラスSUV、連邦判事の"最新型のブルーのキャディラックSUV"、ヒスパニックマフィアをつるむ判事の息子の黄色いH3ハマー、ジャックのもう一人の仲間のレクサス、故郷モンタナの老カウボーイの"1960年代のダッジ・パワーワゴン、フォード・ピックアップ"、恐喝犯のキャディラック・エスカレードなど。都会ぽい登場車が多くなった。(2010.9.14 #651)


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