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Simon Brett / サイモン・ブレット

死体つき会社案内コルチナ Mk1Corporate Bodies (C)1991近藤麻里子訳 早川 1994

『「そう、それに車もだ。販売促進大会でその贈呈式があるうですよ。でも、そいつは売っちゃうつもりでね。ただのフィエスタだから。おれ好みの車じゃないんだ。でも金にすれば使えるからね」
「どうせそれで他の車を買うつもりなんでしょう、あなた?」
「かもな、いいだろう、シェリー? おまえにも色っぽい下着なんかを買ってやるから」
彼女はその言葉に過剰に反応して喜んだ。
「おれはすごくいい車を持ってるんですよ、実はね」ダリルがチャールズに打ち明けた。「会社の車のことを言っているんじゃなくて…フォードのシエラで毎日走り回っているんだけど、そうじゃなくて、少しばっかり味のある車を持っててね」
「へぇ」チャールズにとってはどの車も同じような味しかしなかった。
「コルチナなんだ」自信たっぷりにダリルが言った。
「そう」チャールズは安心した。車の話になると見当もつかなくなるので心配だったのだが、これなら大丈夫だ。コルチナなら聞いたことがある。長年走り継がれてきた信頼性のあるフォードのモデルで、いまは製造が中止になっていて、実のところ少しばかり飽きられている車だった。すくなくとも、コルチナについてはこの男もそんなに話す事もあるまいと思った。だが、チャールズは完全に間違っていた。
「旧いMk1のモデルでね」ダリルは打ち明けた。
「四年前にくず鉄置き場で見つけて、見たとたんに、その可能性がわかったんだ」
くず鉄置き場にあった車にどんな可能性があるのか、チャールズには見当もつかなかった。』

--COMMENT--
 これまで未読で、気になっていた英国ユーモア・ミステリ作家の作品にようやく着手。売れない俳優チャールズ・パリス・シリーズの14作目(訳書7作目)は、食品会社の社内ビデオの役をようやくもらったチャールズが、現場で起きた死亡事故が気になってあて推量もおりまぜて素人探偵を買ってでる。会社ビデオ紹介とか、販促大会の内幕、登場人物の面白さ、ユーモア・皮肉たっぷりの会話などとても面白い。
 引用は、優秀セールスに選ばれたダリル夫妻との会話。このあとも、ダリルの車談義に延々と付き合わされるところがケッサクでした。(2009.9.25 #607)

ダイエット中の死体リムジンMrs. Pargeter's Pound of Flesh (C)1992堀内静子訳 早川 1994

『世界のいたるところに亡きパージェター氏の教育によって成功を収めた男や女がいて、その多くは人生のなかばで職業を変えていた。
 ゲアリがいい例だ。亡きパージェター氏は16歳のゲアリを若い犯罪者のなかで発見した。ゲアリは面白半分に他人の車を盗んで乗り回しているうちに、かれらの仲間入りをしていたのだ。パージェター氏は少年だったゲアリを自分の庇護のもとにおき、いきあたりばったりに車を盗んでも意味のないことをやさしく教え、運転技術を学ぶ費用を支払った。
 ボスが亡くなると、ゲアリはふさわしい服喪期間をおいて、それ以前の仕事よりもっと世間に向けて開かれた運転の仕事を始めた。パージェター夫人はつねにあらたなビジネスの企画を熱心に応援していたから、リムジンが必要なときには必ずゲアリに頼んだ。これまで見たこともない安全な運転をするドライバーが誕生したしたんだわ、とパージェター夫人はサリーの田園を走る彼のリムジンの中で思った。』

--COMMENT--
 大泥棒だった夫が亡くなったあと、陽気なおばあちゃん探偵パージェター夫人が身近に起きる事件を、夫の元部下だったスペシャリストを動員して探る。同シリーズ4作目は、親友につきあって参加した高級減量サロンの宿泊コースで亡くなったらしい若い女性を目にする。
 引用は、やはり元部下だったドライバーのリムジンに乗って走り回るシーン。残念ながら車名の出てくるクルマは登場しない。(2009.9.29 #608)

死のようにロマンティックオースティン・マキシDead Romantic (C)1986嵯峨静江訳 早川 1987

『バーナード・ホプキンズは運良く100m離れた場所に駐車できる空き地を見つけて、飼ってから5年になる彼の茶色のオースティン・マキシを停めた。ヘンフィールドの家からはそれほどは時間がかからなかった。ラッシュアワーをやるすごしてからでも間に合うというのはまったくついている。車から降りるところの彼を誰かが見かけたなら、どことなく秘密めいた雰囲気のある長身の男と映ったことだろう。
 彼のこげ茶色の眼は思慮深げで、悲しげですらあった。茶色の髪はこめかみの部分が灰色がかってきていたが、それがかえって魅力的なアクセントになっている。』

--COMMENT--
 主な登場人物が3人だけ…語学学校の女性教師、新たに雇われた陰のある男性(上出のバーナード)、そして女性教師に恋焦がれる学生…というノン・シリーズの犯罪心理小説。最初の章で事件現場が紹介され、次章以降がその事件に到るストーリーとなるが、読者は完全に裏をかかれることになる。見事なエンディングだった。
 車名のでてくる登場車は上記のマキシだけ。(2009.10.6 #610)

毒殺は公開録画でオースティン・メトロDead Giveaway (C)1985藤木直訳 角川 1987

『ほどなく、この番組のために用意された賞品の紹介が始まった。「今晩、このショーのために数々の豪華賞品が用意されております。ご紹介しましょう。まずはじめは、ポータブルのビデオ・レコーダーとコンパクト・カメラ…」
 ビキニ姿に精一杯の笑顔をさかせて、ニッキーがこの賞品とともに画面に登場、観客の感嘆の声と拍手の声援を受けた。
「続いて、カップルをアムステルダムにご招待、週末をシャンペンで楽しんでいただきます…」スクリーンには、あまり適切とも思われないオランダの風車のシーンが映し出される。
「さて、今晩の最高賞、目もくらむばかりの超豪華賞品、それは…オースティン・メトロ、です! この新車に加えて、一年分の税金、一年分の自動車保険、一年分のガソリンも差し上げます…」
 画面ではもちろん、新車のオースティン・メトロが燦然と輝いている。窓ガラスが降り、ビキニのリンジーが白い歯をみせ、ぎこちなく手を振ってみせた。「オー!」観客席からひときわ高く賛嘆の声があがり、大きな拍手がそのあとを追った。』

--COMMENT--
 売れない俳優チャールズ・パリス・シリーズの4作目(訳書4作目)は、ちょい役に出演したテレビのクイズ番組の収録中に名物司会役がコップの飲み物で死亡する。番組進行係の女性の疑いを晴らすべく、チャールズが真犯人を追う。しゃれた会話、いわくつきの登場人物たち、クイズ番組の裏舞台解説など、たいへん楽しめる。
 引用は、その当時としては人気があったオースティン車がトップ賞として紹介されるくだり。ほかに、被疑者の友だちの"中古の赤いMGミゼット"、トップ賞を貰うことになっていたクイズ番組荒しの"ぴかぴかのボクスホール・キャバリエ"、チャールズの別居中の妻のルノー5、クイズ番組の次の司会者のジャガー、などが登場する。(2009.10.7 #611)

連続殺人ドラマメルセデスA Series of Murders (C)1989堀内静子訳 早川 1990

『ジミー・シートが言った。「ぼくの知ってるクラブへいこう。そこで軽く一杯やるんだ」
「いいとも、きみがそれでよければ。場所はどこだい」
「遠くない、車でいこう」コックニー訛りの声門音のために、"t"の音がなくなり、モーターがモーアーに聴こえた。
"モーアー"は二人乗りの銀色のメルセデスだった。<JS>というジミー・シートの頭文字がナンバー・プレートについていた。これで何度目かになるが、チャールズはこれまでに出会った大勢の"有名人"の性格に見られる矛盾について思い巡らした。彼らはプライヴァシーを必死で求めながら、どこへ行くにも自分たちの存在を誇示する車を乗り回しているのだ。
 車はセント・ジョン・クリソストム・ミッション・フォア・ヴェイグランツの反対側にある駐車禁止のイエロー・ラインに斜めにとめてあった。ジミーは大事な"モーアー"をセメント工場か材木置場に威勢よく出入りするトラックの脅威にさらすつもりはないのだ。交通整理係の脅威のほうは眼中にないらしい。フロントガラスから交通違反カードを取り除くと何も言わずにグラブ・コンパートメントを開け他の違反カードの山の上にのせた。』

--COMMENT--
 売れない俳優チャールズ・パリスの6作目は、珍しく連続テレビの探偵シリーズの役を得たが、録画取りの最中に一人の女優が大道具の下敷きになって死亡する。個性的な出演者やTVプロデューサーなどドラマ制作の裏舞台がわかって面白い。
 引用は、ポップシンガーから俳優に鞍替えしようとたくらむジミーと出かけるシーン。作者のユーモアたっぷりの観察力と表現がいい。他には、ドラマ原作者の姉妹の"古ぼけた黒いワーゲン"など。(2009.10.24 #613)


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