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Cameron,Peter /ピーター・キャメロン

最終目的地(車名はなし)The City of Your Final Destination (C)2009岩本正恵訳 新潮社 2009

『オマーがオチョス・リオスになかなかたどり着けなかったのは、そもそも、たどり着けると思っていなかったからだ。ディアドラの場合は、自信がなくて足がすくむようなことはなかったし、しかも、いつもの大胆さに緊急事態という意識が加わっていた。アーデンから来るようにと連絡を受けた二日後には、最寄の町、トランケラスに着いていた。目的地に近づけば近づくほど、旅は困難になった。トランケラスの先へ行く手段はまったく見当たらなかった。…中略…
 ディアドラはアーデンに電話して、町まで迎えに来てもらうか、目的地まで行く方法を説明してもらおうかと思った。だが、公衆電話はどこにも見当たらなかった。こんな状況でなかったらトランケラスは感傷にひたって過ごすには魅力的な町だっただろう。一本道に店がならび、教会の前には公園のような広場があり、小さな市場には、サンダルや電池や羽根を雑にむしったやせたニワトリが並び、石を敷き詰めた広い通りには、カフェのテーブルがでていた。ディアドラは、このカフェの前でバスから降りた。彼女はドイツ・ビールの広告の入ったパラソルの立ててあるテーブルに座った。ギャルソンの制服を着た若い男がカフェからでてきて、やってきた。この土地ならでは飲み物をたずねて、コカコーラだと言われた彼女は、アグア・ミネラルを注文した。
 水を持ってきたウェイターにオチョス・リオスという場所を知っているかと彼女はたずねた。彼は知っていた。どうやって行けばいいかわかりますか?
 かなり遠いですねと、ウェイターは言った。しかし、そちらの方向に行く車が、とくに夕方にはたいていいます。それまで待てませんか? ああ、緊急なんですか。そういうことでしたら…
 ディアドラは、おしゃべりな少女たちでいっぱいのオチョス・リオス行きのスクールバスに乗った。そして道がカーブしたところにある門の前で、ポーシャと一緒に降りた。』
--COMMENT--
「不幸なときは長くは続かない。幸せなときが長く続かないように」…というオビにひかれて(不幸〜幸がこの順なので救いがあるんでしょうね)、ミステリではないロマンチックな文芸作品を珍しく手にした。ウルグアイの田舎が舞台になる小説も珍しいし、主な登場人物はたった5人というシンプルさ!、その上一ページ毎にぞくぞくするようなしっとり細やかでユーモラスな会話も感動もの。
 好きな作家の一人であるアン・タイラーと似ている味わいもある。たまに殺人事件のない小説もいいものですね…。引用は、伝記執筆の承認を得ようとしてやってくるカンザス大学の大学院生オマーが蜂にさされ入院してしまい、恋人のディアドラが急きょウルグアイに呼ばれるというシーン。この屋敷の車が何回か登場するが、残念ながら車名は描かれていなかった。(2009.6.16 #598)


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