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Laura Childs /ローラ・チャイルズ

グリーン・ティーは裏切らないジープ・チェロキーGUNPOWDER GREEN (C)2002東野さやか訳 ランダムハウス 2006

愛車ジープ・チェロキーの窓を全開にして、夜の闇のなかを自宅をめざして車をとばしていると、生暖かい風がセオドシアの顔をなで、アール・グレイの探究心旺盛な鼻先においしいにおいを運んできた。一年半前、ドレイトンの忠告を無視してこのジープを買った彼女だが、以来すっかりほれ込んでいる。
 夏の暑さと湿度が最高潮に達し、チャールストンの街全体が息苦しくなってなってくると、なにはさておき、低地地方に逃げ出したくなる。ひっそりした細い道には、つた植物が青々と一面にのびている。セオドシアはジープの軽快な走りと四駆の威力にまかせ、すっかりさびれた踏み分け道を走っていく。このあたりには、車を大きくはずませるあぜ道の名残りや、いまでは苔に覆われている単なる塚となった、かっての燐採掘場がある。木漏れ日がまだらに射し込む森や、南部の守護神たるオークの木に守られ蛇行する無数の小川に囲まれると、彼女はその涼しさにほっとなり、気持ちが落ち着くのだった。』

-- COMMENT --
『ダージリンは死を招く』につづく<お茶と探偵>シリーズ第2弾。チャールストンでティーショップをいとなむセオドシアが、ヨットレースのゴールのときにおきた号砲暴発事件を追う。ジョアン・フルークのクッキー屋ハンナ・シリーズとばっちり同じ趣向で、物語に登場する飲み物・お菓子のレシピがたくさん紹介されているところまでそっくり。
 お店のスタッフたちが魅力的だったし、アメリカ南部の人々の暮らしぶりなどがいきいきと描かれいる。ただし、主人公セオドシアの年頃がイメージしにくい。表紙のカットではごく若いお嬢さんだし、本文中のレシピ・ページには、いかにも人の良さげなおばあちゃんとして描かれていた。物語上では、PR会社のOLをやめて、若い弁護士の彼氏がいるのだから年のころは30前後の設定のようで、表紙もレシピのカットもまったくちぐはぐ。出版の編集担当とか挿絵画家さんは本文を読んでいなさそう。
 苦言続きですが、訳出も全般にいまいち。引用第一パラグラフの「…アール・グレイ(愛犬です)の探究心旺盛な鼻先においしいにおいを運んできた…」の《おいしい匂》とは何なのかねぇ?? 生暖かな風とまったく繋がらないよね。
 引用にでてくるティー・ブレンダーのドレイトンの車はボルボと順当だが、チェロキーは、ティーショップの女性オーナーらしからぬ設定だこと。(2006.8.30 #431)

ほかほかパンプキンとあぶない読書会フォード・トーラスBEDEVIED EGGS (C)2010東野さやか訳 ランダムハウス 2011

『スザンヌはバックミラーをのぞきこんで自分の顔をあらためた。さっきから同じことを20回ほども繰り返している。お化粧は?バッチリ。唇は?ロレアルのベリーバーストという色のリップグロスでうっすら色づいている。髪は?グレッグのすばらしいテクニックで、ほれぼれするほどすてきに仕上がっている。
<シュミッツ・バー>の真正面の通りに自分のフォード・トーラスをとめ、すでにサムが店の中で待っているのに気がついた。彼のBMWは店の真ん前でフォードのF-150とシボレー・シルバラードにはさまれ小さくなっていた。
 スザンヌはバッグをつかんで車を降り、うきうきしつつも少しドキドキしながら通りを小走りで渡った。スエードのジャケットにデザイナー・ジーンズ、スエードのショート・ブーツという格好が、さりげなくシックに見えるかしらと案じつつ。
<シュミッツ・バー>のドアを押し開けたとたん、ビールとハンバーガーが焼ける匂いに包まれ、ジュークボックスから流れるトレイス・アドキンズの歌にピンボール・マシンのピコピコいうリズムが合わさった音楽に出迎えられた。』

-- COMMENT --
 <卵料理のカフェ、カックルベリー・クラブ>シリーズの第3弾は、ハロウィーン間近に開いたリーディング・デートの会の参加者がクロスボウで殺される事件がおき店主のスザンヌが捜査に協力する。引用にでてくるスザンヌの車は店の前で放火されてしまうが、犯人についてはとくに話題になることもない(必然性もなく)、またエンディング間近に真犯人が突如出現するなど、ミステリ部分はかなりおまけ的扱いだ。お店をきりまわすスザンヌ、トニ、ペトラの賑やかで心和ます会話や、メニューなどは楽しく読める。
(2012.2.15 #725)


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