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CLANCY, TOM /トム・クランシー

クレムリンの枢機卿ソ連軍UAZ-469THE CARDINAL OF THE KREMLIN, (c)1988文春文庫,1990

『空は青く澄んでいた。大気の大部分より上にいるので、青い色が深い。しょうぐんがアメリカのジープに相当する UAZ-469を自分で運転するのを見て、ボンダレンコはびっくりした。
「質問する必要はないぞ。大佐。私が自分で運転するのは、ここに不必要な人員を置いていないからで、それに、そう、わたしがもとは戦闘機乗りだったからだ。ギアの入れ方もろくに知らない若造に私の命を預ける訳には行かない。ここの道路をどう思う?」
 「ひどいものですな」とボンダレンコが口に出さないでいると、将軍はスピードをあげたまま坂道を下った。道幅は5メートルそこそこで、助手席の側は切り立つ崖になっている。
 「凍結しているとき走ってみるといい!」将軍は笑った。「さいわいこのごろは天候に恵まれている。前の秋には二週間も雨が続いた。ここではごく異例の事でね。モンスーンは全ての水分をインドへ降らせるはずなのだ。しかし冬は快適に澄んで、乾燥する」坂が終わり、彼はギアを入れ換えた。
 前方から一台のトラックが来た。ジープの右側のタイヤが凸凹した路端の石に乗って空転し、ボンダレンコは竦み上がるまいと懸命に努めた。ボクルイシュキンはそんな彼をおもしろがっていたが、それは予期されたことだった。おそらく1メートルぐらいの間隔でトラックがすれ違い、将軍はアスファルト道路の中央へ車を戻した。
 ジープが最後の数メートルを上ると、”輝く星”の試験場が見えてきた。』

--COMMENT--
「レッド・オクトーバーを追え」のトム・クランシーが米ソ両国の宇宙レーザー兵器というハイテク競争を素材にCIA/KGB諜報戦、アフガンニスタンのゲリラ戦を加え壮大なスケールで息をつかせず大詰にのぼりつめる迫力のある作品。
 上記はソヴィエト・タジク共和国の山中に設けた実験場でのシーン。他にも車が多く登場し、米国側の開発チームに潜入するKGB女スパイは"ニッサン"に乗っている。(94/11)

容赦なくスカウトWITHOUT REMORSE, (c)1993新潮文庫,1996

『「よし、わかった」つげるケリーの声は異様に冷静だった。彼はハンドルをいっぱいに切ってアクセルを踏み、姿のみえぬドライバーの乗るコンバーチブルのわきをすりぬけた。数秒で交差点にさしかかり、一瞬減速して交通状況を読みとると、左に急ターンしてその地区を脱出にかかった。
 本能が思考力を罵倒した。あとを追ってくるな、と祈るがいい。あの車は馬力がこちらの3倍あり、そのうえ・・・
「よーし」明るく低いヘッドライトが、ケリーが20秒前にしたのと同じターンをした。ビームが左右に揺れるのが見えた。車は急加速していて、濡れたアスファルトで尻をふっているのだ。ダブル・ヘッドライト。カルマン・ギアではない。
 ケリーは両手でハンドルをにぎった。銃はまだいい。状況を読みにかかったが、あまり思わしくなかった。スカウトはこういうことに向く車ではない。スポーツカーではないし、マッスルカーでもない。ボンネットの下には、ちっぽけなシリンダーが4個。プリマス・ロードランナーは8個で、その一個一個が、いまケリーが頼りにしている車のものより大きい。さらに、ロードランナーが加速性とコーナリングのよさが売りものになのにたいし、スカウトは不整地を時速15マイルでごとごと走るようにつくられている。いい状況ではない。』

--COMMENT--
元海軍特殊部隊員だったケリーが、ベトナム捕虜奪回のオペレーションに就きながら、ふとしたきっかけで助けた女が追われていた麻薬組織の壊滅に立ち向かうアクションもの。上下で1200ページにもなる長編。
 主役のケリーが、しょっちゅう車を換えて登場するので、米国車が多くでてくる。一番の愛車が上にでてくるスカウトであり、巻末にわざわざ注「1960年から80年まで農機メーカーのインターナショナル社が生産したジープタイプの大衆車」があるほど。そういえば、昔トヨタにもスカウトというトラックがあったっけ。(96/08)

油田爆破ヒュンダイDivide and Conquer, (C)2000伏見威藩訳 新潮 2004

『窓まで行くと、女はバタットに、窓枠にもたれるようにと言った。ふらふらしながら、バタットは指示に従った。女は片手でバタットを支えながら脇をすりぬけ、窓の外の生垣に音もなく着地すると、彼を助けおろした。そして、バタットの腕に肩をかけてしゃがんだ。しばらくそうやって耳を澄ました。
 やがて二人は進み始め、病院の裏手に出ると、北側にまわった。車の前で足を止める。それがパトカーではなく、小さな黒いヒュンダイだったので、バタットは驚いた。
 恐らくこの女は警官ではないのだろう。それがよいことなのか悪いことなのか判断がつかなかった。だが、バタットがリアシートに横たえられ、女が運転席に乗った時点で、言えることは一つだけだった。
 意識さえしっかりしていれば、じきにそれがわかる。』

--COMMENT--
スティーヴ・ピチェニックとの共作になる「オプ・センター」シリーズ第7作となり、オブ・センターのポール・フッド長官が大統領を囲む高官の謀略を追求する政治もの。 ようやく後半に入って、物語が展開しはじめ、上記引用は、アゼルバイジャンに潜入したCIA職員がテロリストに攻撃され、ロシア情報部の女性スタッフに救助されるシーン。結局、このロシア情報部員の成果が大統領を囲む密謀を解きあかす契機になる。 プロットがややこしくなってきてクランシー作品には遠ざかっていたけど、けっこうはらはらさせられて面白かった。(2004/11/17)

国際テロベンツCクラスTHE TEETH OF TIGER (C)2003田村源二訳 新潮 2005

『バーミングハムからワシントンDCまで、ずいぶん長い車の旅になった。ドミニク・カルーソーは安モーテルが好きではなかったので、一日で走りきったが、朝の5時に出発してもあまり効果はなかった。
 車は兄のとほとんど変わらない4ドアの白いメルセデス・ベンツCクラスで、トランクと後部座席に荷物をたくさん積み込んでいた。州警察のパトカーに二度とめられそうになったが、どちらの場合も、FBI捜査官のクリデンシャルを見せると、警官は大目に見てくれ、友好的に手を振っただけで立ち去った。
 ヴァージニア州アーリントンのホテルには夜の10時きっかりに着き、ベルボーイに荷物を運ばせ、エレベーターで3階の部屋までのぼった。』

--COMMENT--
 ジャック・ライアン・シリーズ12作目は、私設のテロ排除機関がスナイパー役として海兵隊とFBIの兄弟と、分析官として前大統領の長男をリクルートして、この若手たちがアメリカに侵入したイスラムテロをやっつけたり、テロ首謀者を抹消していく。若手の訓練と、16名のテロ部隊がメキシコから米国に入り込むまでの描写で上巻の480ページまでかかるほどストーリーの展開が遅く、読みきるにはよほどの忍耐が必要だ。それにしても、主人公達の無敵のタフぶり、大活躍ぶりはサスペンスを大味にしてしまって残念だこと。
 テロ部隊が移動に使うフォードSUV・エクスプローラーに加えて、前大統領の長男の"…ワイオミングでは牛追いが、ニューヨークでは金を追う人びとが偏愛する…黄色のハマー2-SUV"、ロンドンのテロ支援者の"車体の色がボウランド・ブラックと呼ばれる黒のアストンマーチン・ヴァンキッシュ"、二人のスナイパーがヨーロッパで使うポルシェ911、なぜか急にでてくる"フェラーリ575M"など続々と登場する車はスーパーカーばかりで、クランシーはよほどマッチョな車がお好きなようだ。(2005.11.14 #383)


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