lagoon symbol
CONNELLY, MICHAEL /マイクル・コナリー

ブラック・アイストヨタTHE BLACK ICE, (c)1993扶桑社,1994

『ボッシュはコーヒーを床におき、全体重をドアにかけた。ふさいでいるものが動き、ドアがゆっくり開いた。
空いたすきまに体をこじいれてドアをくぐると、ゴミ箱がドアに立てかけられているのが目にはいった。
ボッシュは”ポーの店”の裏にある路地に出ており、明け方の光が東から路地に差し込んで目をくらませた。
 乗り捨てられたトヨタが、車輪と天井と一枚のドアを失って、路地に転がっていた。ごみ箱がさらにたくさんあり、つむじ風にゴミが舞っている。どこにもポーターの姿はなかった。』
--COMMENT--
1995年版「このミス」ベスト9位で、MWA賞を受賞したコナリーの作品。
ハリウッド署殺人課の孤独な、はぐれものの刑事ハリー・ボッシュが、仲間の麻薬課刑事の死因を追求するなかで、ブラック・アイスと呼ばれる新しい麻薬をあやつる組織と、過去の影からぬけだせなかった人間に迫る。
 上記引用に見られるように、ハードボイルドでありながら詩的ともいえる情景描写がとても魅力だ。朽ちたトヨタが妙になまなましく目に浮かんでしまう。 ボッシュそのものは、古いカプリに乗っている。 (96/10)

ラスト・コヨーテビートルのコンバーティブルTHE LAST COYOTE , (c)1995扶桑社,1996

『ジャスミンはフォルクスワーゲン・ビートルのコンバーティブルを運転していた。赤いフェンダーのついたパウダーブルーの車だ。車の流れの鈍いフロリダのハイウェイでは、雹が大降りしたところで、見失うことはないだろう。
 ボッシュは、二本のはね橋で一時停止を余儀なくされたのち、ロングボード・キーにたどりついた。そこから北進してその小島の端までいき、橋を渡って、アナマリア島にいき、やっとサンドバーという名の店に到着した。バー・カウンターを通り抜け、メキシコ湾を望むテラスに腰を据える。そこは涼しく、ふたりは、メキシコ産ビールを飲みながら蟹と牡蛎を食べた。ボッシュは、料理を気に入った。
 ふたりはあまり話さなかったが、話す必要はなかった。自分の人生を通り過ぎていった女性たちといっしょにいて、いちばん心地よく思えるのは、沈黙のなかに身を置いているときがつねだった。 ウオッカとビールがまわりはじめたのがわかり、夜に向けてとがった角がみがきおとされ、彼女に対する気持ちが温まりはじめた。』

--COMMENT--
ハリウッド署殺人課刑事ボッシュのシリーズ4作目。「このミス’97」で7位に入ったミステリーだけに、迫力のあるストーリー展開、ロサンゼルスへの愛着、ひねりのきいたプロット、詩情あふれる会話などとてもよくできた作品だった。
 強制休暇処分をうけたため、返却を命じられた署の車シボレー・カプリ(訳文ではカプリースになっていたけど)、その後レンタしたサンダーバードなどもでてくる。 (97/02)

ザ・ポエットポルシェTHE POET, (c)1993古沢嘉通訳 扶桑社,1997

『「とにかく」わたしはつづけた。「あの夏の終わりにおれは、偉大なるアメリカ小説を書こうとしてパリにむかった。ショーンは、軍に入るのを待っていた。別れを告げる際おれたちは約束をしたんだ。感傷的な約束さ。おれが金持ちになったら、スキーラックつきのポルシェを彼に買ってやる、と決めた。ロバート・レッドフォードが【白銀のレーサー】で乗っていたような車だ。それだけ。兄貴が望んだのはそれだけだった。ショーンがモデルを選ぶことになっていた。だけど、払うのはおれだ。取引するものがそっちになにもないのだから、おれにとって割の悪い取り決めだと文句をいった。すると、取引するものはちゃんとある、とショーンはいったよ。もしおれの身になにかあれば−つまり、殺されるとか傷つけられるとか、盗まれるとかなんとか−それをやった奴をつかまえてやる、といったんだ。そんなことをやった奴をけっして逃しはしない、といった。おれは、その、あの当時でも、その約束を信じたんだ。」』
--COMMENT--
マイクル・コナリーのノン・シリーズもの。デンバーの新聞記者ジャックが、殺人課刑事だった兄ショーンの自殺に疑いをかけFBI捜査官たちとともに連続殺人犯を追う。400頁で上下2巻という相当なボリュームだが、精緻な物語の展開の臨場感はたっぷりで一気に読みすすませる力がある。FBIや新聞社編集部の内部とか、どこにいてもラップトップコンピュータで通信しあったり、パソコン通信のサークルが犯罪の温床になっていたりする場面が新鮮で興味深い。
クルマが当然多く登場するが、あまりこだわった表現はしていない。デンバーに住んでいたので、"スキーラック"つきのポルシェになったのだろ(1998.7.18)
トランク・ミュージックカプリTRUNK MUSIC (C)1977古沢嘉通訳 扶桑社 1998

『ボッシュは、車から遠ざかり、空き地の端にきた。そこから、都市のすばらしい景観が望める。ハリウッドの街並み越えて東を見やると、街明かりの靄のなかに、ダウンタウンの高層ビル群を容易に見分けることができた。ドジャー・スタジアムの照明が夕暮れどきの試合にそなえて灯されているのが見えた。ドジャースは、あと一ヶ月をのこしてコロラド・ロッキーズとまったく同じ勝率になっており、今日の試合は野茂が投げることになっている。ボッシュは、上着の内ポケットにその試合のチケットをいれていた。だが、そいつを持ってきたのは、甘い考えだとわかっていた。今夜はスタジアムのそばにはいけないだろう。また、エドガーのいうとおりだとわかっていた。この殺人は、どうみても組織犯罪グループの殺しだった。組織犯罪捜査課に連絡をいれるべきだった−仮に捜査を全面的に引き渡さなくとも、せめて助言を得るために。だが、ボッシュはその通知を遅らせていた。事件を担当しなくなってからずいぶん時間がたっていた。まだ、手放したくはなかった。』
--COMMENT--
 ハリウッド署殺人課刑事ハリー・ボッシュ・シリーズ第5作(『このミス`99』20位)。ますます円熟味を増して、二転三転するプロットにはらはらどきどき・・。ロールスロイスのトランクに射殺された映画プロデューサーの死体が発見されて、ボッシュが罠にはめられながらも執拗に犯人を追う。引用部分は、ロールスロイスが発見されボッシュが呼び出された物語の初めプロローグのシーン。1997年のミステリーに、もう"野茂"が登場するんですね。ボッシュの車は前作と同じくカプリで、他には、ラスベガスのストリップ・バーの踊り子のマツダRX7、元FBI女性捜査官のフォード・エスコートなども登場する。(1999/03/07)
堕天使は地獄へ飛ぶスリックバック (C)1999古沢嘉通訳 扶桑社 2001

『ボッシュはハリウッド大通りを101号線にたどりつくまで進み、フリーウェイに入ると、ごく少ない車の流れにのって、ダウンタウンを目指した。
 途中、ミラーでパートナーふたりの車がうしろからついてくるのを確認した。あたりが暗く、ほかの車が走っていても、二台の車を容易に見分けることができた。あたらしい刑事車両をボッシュは嫌っていた。白と黒に塗られており、屋根に非常灯がついていないことを別にすると、パトカーとまったく変わらなかった。人目につかない刑事車両をいわゆるスリックバックと呼ばれている車に置き換えるのは前の本部長の考えだった。じっさいは、街を巡回する警官の数を増やすという約束をかなえるためにおこなわれたペテンだった。
 覆面カーを人目につく車に変えることによって、以前より大勢の警官が市内をパトロールしているという間違った印象を一般市民に与えようとしたのだ。』
--COMMENT--
 ハリー・ボッシュ・シリーズ第6作。読み始めると止まらず、読み終えるまで一日、本にかじりつくことになる。ただ、文中でボッシュに言わせている「おれには何もわかっていない。妻のことも、親友のことも、この街のことも。だれもが、なにもかもが見知らぬもののようだ・・・」のように、ストーリーのまとめ方が不安というか、迷いのあるような印象が強かった。
 "スリックバック"は、説明にあるとおり、ロス市警の目立つ刑事車両の通称なのでしょうね。(2002/01/06)
わが心臓の痛みチェロキーBLOOD WORK (C)1998古沢嘉通訳 扶桑社 2000

『出かける用意をする前に、マッケイレブはドックに渡り、<ダブルダウン>号まで歩いていった。そのボートは、このマリーナの目障りだった。ロックリッジはボートの積載重量以上の家財を持っていた。サーフボードが3本、バイクが2台、ゾディアック社のゴムボート1艘がデッキに載せられており、ボート全体を浮かぶガレージ・セール場に見せていた。  ハッチはまだ開いたままだったが、マッケイレブには何の動きも見えず、聞こえなかった。呼びかけて待つ。ようやく、バディ・ロックリッジの顔と肩がハッチから姿を現した。髪には櫛がとおり、着替えている。
「バディ、きょうは何をする予定だ?」
「どういうこった? いつもと同じことをすだけさ。なーんにもしない。履歴書を書き直すためキンコーズに用紙を買いに出かけるとでも思っているのか?」
「ちょっと聞いてくれ。おれは2−3日、運転手が必要なんだ。ひょっとしたらもっと長く。それをやりたくないか? 適任だろう。1時間10ドルと食事を負担しよう。本か何かを持ってきたほうがいい。座っておれが戻るのを待つ時間がかなりあるだろうから」
「あんたの車で行くなら、ガソリン代はおれが出す。おれのチェロキーでいくなら、おれは後ろの座席に座る。助手席にエアバッグがついているからな。あんたが決めてくれ、どっちでもおれはかまわない」』
--COMMENT--
 日本語タイトルのとおり、心臓移植をうけた元FBI捜査官テリー・マッケイレブが、その臓器提供者の死因をたどり異常殺人者へ迫る。480ページもの長編だが、複雑ながらよくできたプロットがあきさせない。
 マッケイレブは、ロスのメインマリーナで父親から譲られたフィッシングボートを直しながら住んでいて、ロックリッジも同じマリーナの住人。彼の車はフォード・トーラス。ほかに、臓器提供者の姉の「ラビット・コンバーティブル」がでてくる。フォルクスワーゲンですね。(2002/02/19)

チェイシング・リリージャガーXKRCHASING THE DIME (C)2002古沢嘉通・三角和代訳 早川 2003

『パシフィック・コースト・ハイウェイの北行きは車の流れはゆっくりだったが、走ると気持ちよい。この道は海岸線に沿っており、太陽はピアスの左肩あたり、空の低い位置に留まっていた。
 海辺の町の最初の連なりに入ると、海の景色は海岸際まで隙間なく埋める家々に遮られた。ピアスはスピードをおとしてゼラーの家を探した。手元に住所を控えておらず、一年以上訪ねていない家を外見で見分けなければならなかった。
 ゼラーのブラック・オン・ブラックのジャガーXKRを見かけて、助かった。自宅の扉を閉めた車庫前に駐車してあった。ゼラーはずっと以前にガレージを作業所として不法改築しており、9万ドルの車のために別のパーキングを借りていたので、この車があるということは、帰宅したばかりか、外出しようとしているかのどちらかだった。』
--COMMENT--
 ベンチャーを立ち上げた科学者ピアスのところにかかってくるエスコート・サービス宛てのまちがい電話から始まるハイテク・ミステリー。ノンシリーズもののせいか、ハリー・ボッシュより軽快な語り口でまあ楽しめる。
 ピアスの学生時代からの友人ゼラーのジャガー・ロードスターXKRは、この手のミステリーにはまず登場したことがなさそうだが、ロサンゼルスのサンタモニカやマリブにはぴったりの車だ。ピアス自身のBMW ― 以前は旧式のワーゲン・ビートル、失踪したコールガールの"ゴールドのレクサス"なども出てくる。(2005.9.2 #370)

バッドラック・ムーンポルシェ・ボクスターVoid Moon (C)2000木村二郎訳 講談社 2001

『「いい車をお持ちね。新車なの?」
 ルヴァリーはポルシェの前部にある仮プレートを指さした。キャシーはここに来る前に、自宅のガレージで本来のプレートと付け替えたのだ。用心のためだ。不動産業者が見学者の身元を調べたりするために、ナンバーを書きとめるかどうかは知らない。彼女は身元を突き止められたくなかった。
「ええ、そうよ」キャッシーが言った。「わたしには新しいけど、中古車なの。一年前の型よ」
「素敵ね」
ボクスターは外から見ると新品に見えるが、じつは約3万マイル走行した回収車だった。コンヴァーティブルのトップからは雨が漏るし、小さな突起を乗り越えるたびにCDプレイヤーの音がとぶ。キャッシーの上司レイ・モラレスは踏み倒し屋のオーナーと交渉しているあいだ、彼女に車を使わせてくれている。』
--COMMENT--
 仮釈放中の元窃盗犯キャッシー(今はポルシェのセールスレディ)が主役となる異色の単発作品。スピーディーな展開と、たっぷりのサスペンスがとても面白かった。
 カジノの雇われ探偵カーチの"黒のリンカーンで大きいトランクのついた古い型のタウンカー"、キャッシーの義兄の"5年前の黒いジープ・チェロキー"などもでてくる。(2005.9.17 #371)

暗く聖なる夜メルセデス・ベンツML55LOST LIGHT (C)2003古沢嘉通訳 講談社 2005

『二杯目のマティーニを飲み残したまま、裏口から外へ出た。駐車場で係員に料金を払い、車に乗り込んだ。メルセデス・ベンツML55。フロリダへ引っ越す男から中古で買った車だ。引退後自分に許した大きな贅沢だった。<中略>
 黒い色で、ほかの車のなかに紛れ込むことができたから買ったのだ。ロサンゼルスを走る車の五台に一台はメルセデスだ。そしてそのうちの五分の一はRVだ。おそらくわたしは旅を始めるずっと前に自分がどこへ行こうとしてのか知っていたのだろう。実際に必要になる八ヶ月前に、私立探偵として役に立つでであろう車を購入したのだ。スピードと乗り心地のよさを兼ね備え、暗いスモークグラスが入っており、だれかが車に乗っていてミラーを見て、うしろにその手の車を見たとしても、ロスではなんの関心も惹かないはずだった。
 そのメルセデスは慣れるまでしばらくかかった。乗り心地の面だけでなく、運転操作とメンテナンスの面で。じつを言うと、道路上で二度ガス欠をおこした。バッジを返上したことにともなうささやかな不便の一つだ。引退前の数年間、わたしは三級刑事だった。職制上、管理職で自宅へ乗って帰られるフォード・クラウン・ヴィクトリアを貸与されていた。戦車並に頑強なポリス・インセプター車だ。樹脂製ウォッシュオフ・シート、頑丈なサスペンション、拡張ガソリンタンク。勤務中にガソリンが必要になったことは一度もなかった。また、署に戻ると、配車係のスタッフによって、当たり前のようにガソリンが補充された。一般市民として、私は燃料計の針に気をつけることを学びなおさなければならなかった。』
--COMMENT--
 ボッシュ・シリーズ9作目、ロサンゼルス市警を辞めて以前自分が担当して迷宮入りだった事件を再調査し始める。FBIから妨害と警告を受けながら周辺捜査を続ける。なんと下巻の半分ぐらいまでそんな風であまり展開がない…ちょいと飽きる。
 失踪したFBI女性捜査官の"1998年型フォード・トーラス"、ロス市警元刑事の"古いシボレー・マリブ"、ラスベガスに別居するボッシュの妻エレノアのの"銀色のレクサス"、マルホランド・ドライブですれ違う私立探偵エルヴィス・コール(それだけ、カメオ出演というらしい)の"黄色のコルヴェット"、ロスのバー・クラブ経営者の"横長のジャガー"などが登場。
 "メルセデス・ベンツML55"(現行ML500)は、エアロパーツや19インチアルミホイールなどを加えたAMGスポーツパッケージ仕様車。
p.s. ボッシュが新聞バックナンバーを調べるのにダウンタウンの図書館に出かけ、自分が検索パソコンの使い方がわからないため、カウンターの図書館職員になんとか拝み倒して調べてもらうというほほえましい??シーンもあった。
p.s. ロスを舞台にする小説によく登場する"セプルベヴェダ・アヴェニュー"がまたまた(^o^)丿 関連頻出 (2005.12.13 #387)

天使と罪の街クラウン・ヴィクトリアTHE NARROWS (C)2004古沢嘉通訳 講談社 2006

『バッカスは、レイチェルがダークブルーのクラウン・ヴィクトリアに乗って、FBIビルの横手の駐車場から出発するのを見た。チャールストン・アヴェニューで左に折れ、ラスヴェガス大通を目指す。バッカスは動かなかった。バッカス自身は、ユタ州ナンバーの1997年製フォード・マスタングのステアリングを前にしていた。エライジャ・ウィローズという名の男から奪った車であり、ウィローズはもはやこの車を必要としない。レイチェルの車から目を離し、通りの周辺の動きに目を凝らした。
 二人の男が乗ったポンティアック・グランダムがFBIビルの隣にあるオフィスビルから姿をあらわし車の流れに入った。レイチェルの車と同じ方向へ走り去る。 「まず、一台」バッカスはひとりごちた。
 待つほどに、3本のアンテナのついたダークブルーのSUVがFBIの駐車場から出て、右折してチャールストン・アヴェニューに入り、レイチェルとは反対の方向へ進んだ。あらたなグランダムがその後に続き、先行車を追っていった。
「二台目、三台目」
<スカイバード監視>という呼ばれるやり方であることを、バッカスは知っていた。一台の車が緩やかな視認による監視をおこなう一方で、監視対象者は衛星で空から追跡されるのだ。レイチェルは、本人が知ってか知らずか、GPSのちている車を貸与されていたのだ。』
--COMMENT--
 ボッシュ・シリーズ10作目、以前いっしょに仕事をしたことのある元FBI行動科学課プロファイラーが不審な死に方をし、その妻から調査を依頼され、ネヴァダの砂漠で発見された大量殺人事件の解明にかかわっていく。スピーディな物語の展開、息も切らさずの山場作りなど、円熟のコナリーを堪能できる作品。
 ボッシュは前作で始めて使い出したメルセデスSUV"ML55"、死亡した元FBI職員(カタリナ島でフィッシングボード・オーナーに転進)のジープ・チェロキー、ボッシュの元同僚の"緑のフォード・エクスプローラー"など。この同僚の行方を追跡するときに、ロス市街でセプルヴダ・アヴェニューがまたまた出てくるなぁ。 (2006.12.1 #448)

終結者たちトーラスThe Closers (C)2005古沢嘉通訳 講談社 2007

『ふたりを乗せたトーラスがタンパとロスコーの交差点に戻ったときには、レッカー車が暗くなったガソリンスタンドから出て行こうとしていた。マッキーは一刻も無駄にしていなかった。
 マッキーの目的地がわかっているので、ライダーは待機して、レッカー車のリア・ミラーで勘づかれるリスクを犯さないだけの余裕があった。フリーウェイに向かって、タンパ・アヴェニューを北上した。レーガンとは、州間高速道118号線のことで、ヴァレー地区の北部を東西に横切っていた。一日24時間、めったに混んでいない数少ないフリーウェイの一つだ。
 118号線の西向き入口は、タンパ・アヴェニューからランプを下ったところにあり、そこから10レーンのフリーウェイにつながっていた。ライダーは速度をゆるめて停止し、レッカー車が左折してランプを下っていき、視界から消えるまで見守っていた。そこから再び発進し、ランプに入り下り始めて、ふたりはすぐ問題に気づいた。故障した車は、ロビンスンが言ったようにフリーウェイ上にあるのではなく、実際にはエントランス・ランプ上にあった。ふたりは急速にレッカー車に近づいていった。レッカー車は、50メートルほど前方のランプの路肩から、緊急ライトを点滅させている小型の赤い車にバックして近づいていくところだった。
「どうする、ハリー?」ライダーが言った。「車を停めたら、あまりにあからさまだわ」
ライダーの言うとおりだった。隠密行動をだいなしにしてしまうだろう。「止まらずに通過してくれ」ボッシュは言った。』
--COMMENT--
 ボッシュ・シリーズ11作目、ロス市警の<未解決事件班>に復帰したボッシュが古い相棒のライダーととに17年前の少女殺人事件を追う。唯一の手ががりとなる男マッキーに新聞を使って脅しをかけ尾行するシーンが引用の部分。ほんの僅かな手ががりから犯人を追いつめていく緻密で読者の想像をはるかに超えるサスペンス(と言っても読者を裏切ることはない)は、まさに圧倒的な面白さ。個人的には、コナリーのベストワンと思う。
 ボッシュは『暗く聖なる夜』から使い始めたメルセデスSUV"ML55"のまま、トーラスはライダーの車、犯人につながる男のレッカー・ドライバーの"72年型のカマロ"、その極右グループ仲間の"でこぼこのフォード150ピックアップ、バンパーステッカーには<最後のアメリカ人がLAを立ち去るとき、その旗をもってきてくれ>とある"、少女が通っていた学校の現校長のレクサスなど。
 ほかに、文中で<一人乗りの警察車両で、主に当直司令の遣い走り用…>となっていたロス市警の"Uボート"というのが登場する。調べてみたがLos Angeles Police Department resources[Wikipedia]のRadio carsの項に"nicknamed "U-boats," normally stationwagons when available to the motor pool "とでてくるだけ。つまり駐車場往復用のワゴンであり、パトカーの外観をしていないのでUボートというのか?? (2008.1.13 #528)

エコー・パークマスタングECHO PARK (C)2006古沢嘉通訳 講談社 2010

『レイチェルがダウンタウンの店に飽きているといなら、ウエストウッドにある総支局で働いているのではない、とボッシュにはわかった。
「一軒、知っている店がある。おれが運転するので、きみはファイルを見てくれ」
ボッシュは自分の車に歩いて戻り、ドアをあけた。ウォリングが乗れるように助手席にあったファイルをつかんでどけなければならなかった。そのファイルをウォリングに渡すと、自分は運転席側にまわりこんだ。新聞を後部座席に放り投げた。
「あら、この車はスティーブ・マックイーンみたいね」ウォリングはマスタングのことを言っていた。「あのSUVはどうしたの?」
ボッシュは肩をすくめた。「換える必要があっただけさ」
エンジンを吹かしてウォリングを面白がらせてから、車を路肩からスタートさせた。サンセット大通りまで南下して、シルヴァー・レーク方面に進路をとった。このルートは、途中でエコー・パークを通り抜けることになる。』
--COMMENT--
 ボッシュ・シリーズ第12作は、ロサンジェルス郊外のエコー・パーク地区で偶然逮捕された女性連続殺人犯が、ボッシュが13年間追っていた未決事件の犯行も自供した。被疑者が現場検証の場から逃亡したことで、当時の事件から別の証拠が出てくる。よくできたプロット、はらはらする緊張感もたっぷり…なのだが、女性にばかり囲まれもてすぎる主人公像がいまいち〜未解決事件班の女性パートナー、疎遠だったけど急に助けてくれるFBI捜査官、随所で顔を出す女性新聞記者〜とちょっとやりすぎだなぁ。
 本作でのボッシュの車は、これまでのメルセデスSUV"ML55"から突然フォード・マスタングに替わった。他には、以前の事件被害者の1987年製ホンダ・アコード、FBI捜査官の"連邦警察のクルーザー"(Dodge Charger police cruiserを指すのであろう)、殺人犯が逃亡に使う"シルバーのBMW540"、逃亡犯の"白のフォード・エコのライン"、ボッシュの上司の"シルバーのジープ・コマンダー"など。 (2010.6.21 #638)

真鍮の評決リンカーンBRASS VERDICT (C)2008古沢嘉通訳 講談社 2012

『「パトリック、わたしは12年前に公選弁護士事務所をやめてからずっと、事務所を持っていない。車が事務所代わりだ。これとまったく同じリンカーンをほかに2台もっている。ローテーションで回して使っているんだ。
 どの車もプリンタとファックスを備えており、コンピューターには無線カードをつけている。事務所でやらなければならないことはみな次の場所に向かっているあいだにここでやる。
ロサンジェルス郡には40以上の裁判所が点在している。自由に動ける状態を保つのは、ビジネスをするには一番いい方法なんだ。」
「クールですね」パトリックは言った。』
--COMMENT--
 コナリーの弁護士ミッキー・ハラー第2作は、銃撃死した知人の弁護士から受け継いだ映画会社オーナーの殺人事件を扱う。よくできたストーリー、スピード感、とくに陪審員を巡る駆け引きなど、今まで弁護士物とは一線を画す面白さ。
 引用シーンは、”リンカーン弁護士”と呼ばれる因縁が紹介されている部分。道具立てが豪華ですね。他に、スタッフ調査員の”63年製ハーレー…パンヘッド・エンジン”、死亡した弁護士のBMWクーペ、映画会社社長のミディアムクラスのメルセデスと40万ドルのマイバッハそれとカレラGT、スタッフドライバーの”サーフボード・ラックのついたスバル・ワゴン”、陪審員の”全米ライフル協会ステッカーを貼ったフォード150ピックアップ”どなど。(tablet入力 2012.6.5 #740)

シティ・オブ・ボーンズスリックバッグCITY OF BONES,2002古沢嘉通訳 早川 2005

『家の中に通じる重厚な木の扉の上に照明がさがっていた。そこにたどり着かないうちに、コラソンが扉を開けた。黒いパンツとクリーム色のブラウスを着ていた。おそらく新年のパーティーに行くつもりなのだろう。コラソンの視線はボッシュを通り過ぎボッシュが運転してきたスリックバッグに注がれた。
「あの車が家の石畳にオイルを落とす前に手早くすませましょう」
「温かな挨拶をどうも、テレサ」
「それなの?」コラソンがシューズボックスを指さした。v 「これだ」
ボッシュはポラロイド写真を手渡し、箱のふたを開けようとした。新年を祝うシャンパンを飲まないかと尋ねてくれる気がないのは明らかだ。』
--COMMENT--
 読み漏らしていたハリー・ボッシュ・シリーズ8作目は、20年前に殺された少年の骨の事件を捜査するが、被疑者が転々と変わり窮地に立たされる。世の中に罪があるとすれば自分がとことん向き合わなければならないというハリーの執拗な意志が最後にバッジを返すという、シリーズの転機となる作品。
 550ページもあり、あまりに真剣すぎて読むのが疲れるかな…新人警官が好きになるなる部分はあまりストーリーにはいらないように思う。
 引用は、依然つきあっていた郡検死官のコラソンに、少年の骨を見せにいくシーン。SlickBagは『堕天使は地獄へ飛ぶ』から登場したロス市警の白黒の連絡車。パートナーのレクサス、少年の父親が当時乗っていた72年型インパラなど。(tablet入力 2012.6.16 #741)

リンカーン弁護士リンカーンTHE LINCOLN LAWYER,2005古沢嘉通訳 講談社 2009

◇本書から
『サンフェルナンド裁判所にいく途中のニューススタンドでタイムズの第2版を買って確認しなければならないと決めた。アール・ブリッグスにどのニューススタンドに向かえと指示をだすか考えていて、車がないことを思い出した。リンカーンは<フォー・グリーン・フィールズ>の駐車場にある−夜のうちに盗まれていない限り−それにパブが11時からのランチのためにオープンするまで、車のキー取り戻すことができない。困ったことだ。
 毎朝、アールを拾っている通勤者用駐車場にアールの車が停まっているが見えた。シャコタンにしたど派手なな改装済みトヨタで、タイヤホイールにはクロームメッキのスピニングリムをとりつけていた。わたしの推測では、車内にはマリファナ煙草の臭いが恒久的に染み着いているはずだ。あれに乗りたくはなかった。
 郡北部では、警察に止められる格好の目印だった。郡南部では撃たれる格好の目印だ。』
--COMMENT--
 刑事弁護士ミッキー・ハラー・シリーズの第1作は、女性暴行事件の資産家の容疑者の弁護依頼を受けるが、無実どころか過去にも同様の殺傷犯だったことがわかる。米国の法廷の場における駆け引き、密告屋、謀略ってすごいなぁ。下巻にはいると、依頼人がミッキーと家族に脅しをかける絶体絶命のサスペンスや、GPSアンクレットを巧妙に使う迫真の展開が楽しめる。うまい!面白い!
 引用は、事務所代わりに使うリンカーンの運転手の車についてのシーン。依頼人の2004年型レンジローバーと2001年型ポルシェ・カレラ、パブの男の黄色のコルヴェット、依頼人の顧問のメルセデス、ミッキーの元妻の"安物の"ジャガー、警察車のグランド・マーキーなど多数。(tablet入力 2012.6.24 #742)


作家著作リストC Lagoon top copyright inserted by FC2 system