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COONTS, STEPHEN /ステファン・クーンツ

大包囲網クライスラーUNDER SIEGE, (c)1990講談社,92

『彼が運転しているのはフリーマン・マクナリーから借り受けた、15年ものの錆び付いたクライスラーだった.かってローヤルブルーだった車体にはみすぼらしく汚れがこびりつき、シートはゴミの山で、左のフロントフェンダーとボンネットがへこんでいた.フロントガラスもひび割れ、一部欠けている.しかしよくよく見れば、タイヤが真新しいミシュランのラジアルタイヤだということが分かったはずだ.それはメーカー名を隠すために、裏返しにとりつけられていた.要するに、ひと目見たところでは、それはワシントンにあふれている典型的なぽんこつ車に過ぎなかった.
 なだめすかしているうちにようやくエンジンが低くうなり始め、今度こそちゃんとかかったようだ.  だがまだ回転はなめらかでなく、濃い灰色の排気ガスがバックミラーに映っていた.
その理由は、最初にとりつけてあった6気筒のエンジンが、馬力アップした旧式の大型V8エンジンに交換されたためだった.見た目からは想像もつかないが、古いボンネットを開ければそこには見事にパワーアップされた部品が隠されている.レース仕様のカムにバルブにピストン、改良を加えたバルブ・ポート、高性能の燃料ポンプ、4連キャブレター.加速をよくするために4速のトランスミッションがつけ加えられ、サスペンションとブレーキも強化されていた.この車なら、道路に200フィートものタイヤの跡をつけることだって可能だった.
 エンジンが暖まり、なめらかに回り出すと、ハリソンはクラッチをつないで駐車スペースから車を出した.路上に出ると誘惑に抗しきれなくなって、一気にアクセルを踏み込み、タイヤをきしらせて加速した.塗装をしなおし、ちょっとばかりボディに手を加えれば、最高にいかした車になるだろう.』

--COMMENT--
コロンビアの暗黒麻薬組織メデジン・カルテルによる合衆国政府要人暗殺計画をめぐるバイオレンス・ストーリー.アメリカの悩める麻薬問題を底流とした重厚な仕立てになっている.
 ニューヨークの組織に潜入する囮捜査官ハリソンが乗っているクライスラーはなかなかのもの. (93/02)


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