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Barry Cork /バリー・コーク

フェアウェイの悩める警部マセラッティDead Ball, (c)1988山本やよい訳 早川 1990

『「もう大丈夫だ」真実らしく聞こえるように、咳き込むのをやめた。しゃがんで、彼女を見上げようとしたが、涙が止まらないため、まだ無理だった。わたしはいった。
「助け出してくれたくれたのはきみ?」
「そうよ」さらに続けて「銃声が聞こえたから、何事かと思ってきてみたの。もちろん、納屋に入るのは無理だったけど」
銃声をきいて即座に行動を起こせる者は多くはないだろうが、彼女の場合は生まれつきの野次馬根性が旺盛なのかもしれない。「ねえ、教えてくれないか」わたしはいった。
「どんな手段で納屋に入ったのか。ドカーンとすごい音がした。誰かがドアを吹き飛ばしたのかと思った」
「あなたの車をぶつけたのよ」
「え……車??」こういう言葉を聞かされたとき、気のきいた返事を思いつくのはとても困難だ。
「ごめんなさい」ローリーは心から後悔している口ぶりだった。
マセラッティのフロントはどんな有様だろうと思い、見ずにおくほうが身のためかもしれないと判断した。世の中には知らないほうがいいこともあるものだ。』
-- COMMENT --
 図書館の書棚で見つけた初見の作家。もともとは歴史小説家でミステリは本作が処女作品。なにしろ全英ゴルフ・トーナメントにでたことのあるセミプロのゴルファーの警部で、車はマセラッティ、著者と同じく歴史小説は書くは、古いマナー・ハウスのフラットに住むとか、超優雅な主人公が、カントリークラブで起きる事件を追う…というぶっ飛んだ設定でやりすぎかなぁ。おしゃれなゴルファー・ミステリといったところ。
 引用のところは、納屋に閉じ込められて放火されたのを美貌のリテラリ・エージェントのローリーに助けてもらうシーン。溜飲を下げられるシーンとも言えそう。ローリーの"磨きぬかれたBMW"、犯人の"濃い色のメトロ"、ゴルフ・トーナメント・スポンサー社のこれまた美人広報スタッフの"グレイのグラナダ"など。(2007.4.06 #468)

謎めく孤島の警部マセラッティ・ミストラーレUnnatural Hazard (C)1989山本やよい訳 早川 1991

『修理工場に着くと、つなぎに包まれた尻が三つもわたしのマセラッティ・ミストラーレの上にかがみこんでいた。おなじみの不安の波を感じた。ここの賃金が時給20ポンドとすると、尻一つでも厄介なのに、20の3倍は60で、一日の工賃が500ポンド近くにはねあがる計算となる。だが、ローリーがよくいうように、わたしはこのために本を書いているのだ。
「おや、ミスタ・ストローン。おはようございます」
専門工場、つまりひとつの車種しかあつかわない修理工場には、素晴らしい点がいっぱいある。目玉の飛び出そうな金額を請求するものの、概して、信頼できる工場がそろっている。わたしがペリング・モーターズを利用するのは今回がはじめてだが、向こうはわたしの名前を覚えてくれたし、着ているつなぎも清潔だ。工場そのものはジョージ王朝時代の馬車置き場を改造したもので、仕切りをとりはらって一つにしてあるが、床には花崗岩の敷石がもとのまま残っている。  この工場ではマセラッティしか扱っておらず、心臓をぬかれたわがミストラーレの向こうに、ギブリ一台、メキシコ二台、そして、パネルを外されて網の目のような細かいパイプ類が露出しているレース用のバードケージ(マセラッティ60の俗称)が見えた。車はどれも傷ひとつないし、工具類は輝いている。かってはごく普通のことだったのに、今ではがっかりするほど珍しくなってしまった職人の自信とプライドが、あたりに漂っている。』
-- COMMENT --
 ストローン警部シリーズ2作目は、スコットランドの離島の古城ホテルでのプロアマ・マッチに招待されたのはいいが、殺人事件に遭遇。のりのいいエンターテイメント・ゴルフ・ミステリだが、続編は邦訳されておらず多分この作品で打ち止めかしらね?
 前作でメイクしかでてこなかったマセラッティが"ミストラーレ"と特定されて、エンジントラブルで修理工場入りしたシーンが詳しく描かれ、作者(英国人一般か)の車好きがよく伝わってくる。スコットランドへいく列車から何者かに突き落とされてから、拾ってもらうの"初老の粋なスコットランド紳士のロングシャシー・ランドローヴァー"などもでてくる。p.s.列車から突き落とされたのに、そのあとで主人公がカバンを持っている場面があり、随分と大雑把な筋運びではある。(2007.4.17 #471)


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