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Cox, A.B. A・B・コックス

プリーストリー氏の問題二人乗りセダンMr.Priestley's Problem (C)1927小林晋訳 晶文社 2004

『二人はマンステッドに向かって車を走らせた。
 プリーストリー氏は道路際に車を乗り捨てる考えだった。ローラにはそのつもりはなく、ガレージに置いておけば何か月も人に気づかれないかもしれないのに、そんなことをしたら警察に足取りを掴まれるのは必至であると強調した。プリーストリー氏はこの理屈に心を動かされ、彼女の意見に従った。
 そこでマンステッドに到着すると、ローラはプリーストリー氏を駅で降ろし、一人で車を開いているガレージに入れた。若い女性はどうしたって同じような服装に同じような型の帽子をかぶり、スカートの丈も同じだから区別がつきにくく、警察には突き止められる可能性を少なくすることができるのに対して、プリーストリー氏はプリーストリー氏以外の何者でもない、と彼女は説明した。こうしてローラはガレージで、一日二日したらジョージ・ハワードという名前の大柄な紳士が引き取りに来る、駐車代も彼が支払うと、何はばかることなく言うことができた。
 そのあと、彼女は少し考えて、車をここに置いておく間にブレーキを調整し、クラッチをゆるめ、塗装面を洗い、問題のある部品を交換し、要するに、全体的なオーヴァーホールをしてほしいと言った。ローラとガレージの作業員は友好的に別れた。』
--COMMENT--
 ユーモア作家の先駆者??とも言える、A.B.コックス(別ペンネーム アントニイ・バークリー)の<…炸裂するスラップスティックとしゃれたロマンス:美女と手錠/犯罪狂騒曲、退屈な人生を送っていたプリーストリー氏は見知らぬ美女と手錠でつながれ殺人犯として逃げ回るはめに…スクリューボール・コメディの逸品…>と、本書のオビはトコトン(^0_0^)、80年も前に書かれたとは思えない、古さを感じさせないタッチはたいしたものだし、楽しめる。
 犯罪心理学好きの有閑階級の紳士たちが冗談ではじめた架空事件が、どんどんエスカレート、カモにされたぱっとしないプリーストリー氏が何とか警察の追跡をかわして、最後は連中に仕返しをしたうえに美女とゴールインまでしてしまう。
 抜き出した部分の車がけっこう活躍するのだが、残念ながら車名はない(この頃の英国車だとベントレーあたりのような気がします)。ガレージに頼む車の整備は、現代のちょい前でも通用するような内容で、クルマの基本部分っていかに不変のものか、または、代わり映えがしていないなぁと思わせられます。(2006.4.11 #409)


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