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Crais, Robert ロバート・クレイス

ララバイ・タウンコルヴェット・コンバーティブルLULLABY TOWN (c)1992高橋恭美子訳 扶桑 1994

『四階から階段を使って駐車場に降り、車でハリウッドの繁華街を通り抜け、サンタモニカ大通りを東に向かった。十月なので、外の空気は涼しい。車は1966年型コルヴェットのコンヴァーティブルだが、車内は外ほど涼しくないので、幌をたたまなければならなかった。めずらしいことだ。
地球の温暖化だろうか。夏が終わり、ユタ州やミシガン州やデラウェア州のナンバーをつけた車は姿を消したが、かわりにカナダ・ナンバーの車が増えつつある。暖を求めてやってくる避寒客。サンタモニカとラ・ブレアの交差点の赤信号で待っていると、隣にアルバータ州のナンバーをつけた栗色のビュイックのセダンがとまった。前の座席にはちんちくりんの男女、後ろにはちんちくりんの子供が二人。運転席の男はとまどい顔だ。わたしはニカッと笑いかけて手を振った。「ようこそロサンゼルスへ」女があわてて窓を閉め、ドアをロックした。』

--COMMENT--
 夏休みの北海道ツーリングの途中、よくある中古CD/Book/Gameショップでみつけ(100円でした!)、帰りのフェリーで読んだミステリー。初めて接するクレイスだが、男っぽくて筋がとおっている私立探偵エルヴィス・コールが売れっ子映画監督から昔わかれた妻子を探してほしいと頼まれる。けっこう会話もしゃれていて楽しく、ロバート・B・パーカーを思わせる私の好きな感じのハードボイルドだった。
 上記の引用でも、ロサンゼルスを愛している雰囲気がよく出ている。ほかに、1991年型の白のスープラ、茶色のトヨタ・セリカ、茶色のニッサン・セントラなどなども登場する。(1999/08/19)

モンキーズ・レインコートジープ・チェロキーTHE MONKEY'S RAINCOAT (c)1987田村義進訳 新潮 1994

『ジョー・パイクの赤いジープ・チェロキーは、駐車場わきの路上にとまっていた。いぼいぼタイヤの、ずんぐりした巨大な旧式モデルで、コルヴェットと比較すると、まるで大人と子供。三年前に、それで北部の山に釣りに行ったとき、わたしはフェンダーをひげそりの鏡がわりに使った。いまでも十分に鏡がわりになる。
わたしはかぶりをふった。「車を粗末に扱う人間の気が知れないよ」
パイクは厳かにうなずいた。「たしかに」そして、コルヴェットを指でなでた。指は真っ黒になった。
「風のせいだ。砂埃が車庫にまで入ってくる。手の施しようがない」
パイクは木星からきたもののように指を見つめた。「信じられない」
車はローレル・キャニオンをくだって、ハリウッド大通りを東におれた。晴れた暖かい日で、ハリウッドは花におおわれていた。アル中の浮浪者がベンチに座って瓶からマヨネーズを指ですくいとって食べている。イソギンチャクのような髪をした四人の娘がレコード屋の前で、煙草をふかしている。ベレー帽をかぶり赤い飛沫模様のよれよれのシャツを着た少年達が、そのまわりにハエのようにまとわりついている。太い首に、大きな尻をしたクルーカットの男達が、二人三人と連れだって商店やポルノ・パーラーの前をぶらついている。刺激を求めてペンドルトンからでてきた休暇中の海兵隊員だろう。』

--COMMENT--
 ロバート・クレイスってあまり売れていない作家だと思うんだけど、地元の図書館には翻訳書が全部揃っていて、好きな人もけっこういるんだ・・。ハリウッドの私立探偵エルヴィス・コールのシリーズ第一作。ベトナム戦あがりのコールとパートナーのパイクが失踪した父子の捜索をするうちに大がかりなコカイン・シンジケートと戦うことになる。舞台となるロサンゼルスが素敵に描かれていたり、ビールや自分で作るサンドイッチなどの食事のシーンが多いなど個性を出そうとしているのだが、マッチョすぎるとか、なんでもうまく行き過ぎのストーリーがちょいと物足りないけど。
 パートナーのチェロキーがピカピカなのは、スペンサーのサポート役のホークの車もそうだったような気がする。コールの「コルヴェット・コンヴァーティブルは66年のジャマイカ・イエロー」、依頼主のエレンが「薄緑色のスバル・ワゴン」、依頼主の友達ジャネットが「スカイ・ブルーのムスタング・コンヴァーティブル」、失踪した父親が「82年祖気キャディラック・セヴィル」、その他、「メタリック・ブラウンのトヨタ・セリカ」「緑色のフォードLTD」「ベージュのボルボセダン」「ノヴァ」「ポルシェ914」「83年トランザム」・・まさにウエスト・コースト・ファッションですね。(2000/03/20)

ぬきさしならない依頼スタンザFREE FALL (c)1993高橋恭美子訳 扶桑 1996

『わたしたちはあわてて<トミーズ>の隣のニッサンの販売代理店に曲がったちょうどそのとき、マーク・サーマンが窓際のテーブルを離れて、ディーズを出迎えに外に出てきた。パイクはジープの速度を落として、ニッサンの新車の列のあいだを縫って彼らのほうに近づいていき、ヴァンの列の後ろで車を停めた。
 真っ青なマイルズ・ヴァンデビューのスポーツ・コートを着た禿頭の販売員がにこやかな笑みとともにやってきた。
「いまご覧になっていらっしゃる小型のヴァンなんか最高でございますよ、お客様。この古いポンコツ車の下取りをご希望でしたら、こちらも精いっぱい勉強させていただきます」そう言って、パイクのジープを側面をぴしゃりとたたいた。思いきり強く。パイクの頭がゆっくり販売員のほうに回転した。「ポンコツ車!」
 わたしはあいだに割ってはいった。「今日は見に来ただけなんだ、すまないね。質問があれば、こちらからききにいくから」
 販売員はヴァンを示してなおも言った。「5年間、5万マイルは保証つきの超お得な新型車でございます」ジープを振り返り、今度はボンネットをぴしゃり。「格段の進歩ですよ、こんな手間のかかるばかでかい旧式のポンコツ車に比べたら」
「ああ、なんてことを」
パイクが販売員に顔を近づけた。「こっちを向け」セールスマンは向いた」
「あと一回でもこのジープにさわってみろ、ぶちのめしてやる」
 彼は最後にもう一度営業スマイルを試みたが、あまりうまくいかず、そのまま少しずつ後ずさって、最後に緑色のスタンザにぶつかった。』

--COMMENT--
 エルヴィス・シリーズ第4作は、いつものユーモア・ハードボイルド調ながら、派手な立ち回りアクションがけっこう楽しめました。ロス市警特別グループのリアクト・チームと黒人ギャング団のぬきさしならない関係に迫るエルヴィス、パイクそしていつもエルヴィスをバックアップしてくれる北ハリウッド署のポイトラスなど気のあったところがいい。引用部分は、リアクト・チームを見張るため、ニッサンのディーラーに紛れ込んでセールスに付きまとわれてしまうシーン。前作にあったパイクがとても大事にしているチェロキーをポンコツと言われて怒り出してしまう。
 エルビスの"66年コルベット"以外に、チームの若手の"1983年型青いフォード"、事件に巻き込まれる質屋の"きちんと手入れされたビュイック・ルセイバー"、チームの同僚の"白のオールズモビル・デルタ88"、弁護士秘書の"新型ホンダ・アキュラ"、ギャングの"真っ黒なシヴォレー・モンテカルロ"と"ラメ入りのぶどう色をしたワーゲン・ビートル"などたくさん登場する。あと何かと電化製品が出てくるが、ほとんど日本メーカのものばかりで、一度、リストしてみると面白そうだ。(2000/04/04)

死者の河を渉るレクサス400VOODOO RIVER (c)1995高橋恭美子訳 扶桑 2000

『わたしがビール代を払うのを待って、ルーシーは自分の車に案内した。水色のレクサス400、二ドアのふたり乗り。スポーツ車タイプ。傷もなくなめらかで、洗車したばかりらしい。AT&Tの自動車電話があり、狭い後部座席にはCDが無造作に置かれ、ほとんどはk・d・ラングとレバ・マッケンタイヤだった。持ち主と車の相性がいいのか、ハンドルを握る姿がさまになっている。「いいね」とわたしは言った。
ルーシーは笑い皺をちらりと見せた。仕事のときもテニスの時もこの調子なのだろうと思わせるような、自信に満ちたあざやかな運転ぶりで、まもなく車は、人がひっきりなしに出入りしている大きな倉庫のなかにはいった。<ラルフ&カコーズ> 彼女は言った。「最初に言っておくわね。内装はちょっと怪しいけど、料理は最高よ」』

--COMMENT--
 エルビス・コールを続けて読んでいたら、また最新刊が2月に出てさっそく手にした。ルイジアナを舞台として、人気女優の出生を調査するのだが、これまでのアクション主体のストーリーから、養女と実の親との関わり、ルイジアナの女性弁護士ルーシーとの恋など人間関係の面で厚みを増して語られるようになってきた。
 弁護士の車は、やっぱりレクサスで決まり! 一癖あるザリガニ養殖業の部下の"金色のポラーラ"(聞いたことなし)、"60年代後半のベル・エアのセダン"、ポンティアック・サンダーバードなど南部に似合うクラッシックな車が登場する。(2000/04/14)

サンセット大通りの疑惑コルヴェットSunset Express (C)1996高橋恭美子訳 扶桑 2000

『ルーシーのレンタカーが車庫の左側に寄せられ、暮れゆく日のなかで、ひっそりと冷ややかにとまっていた。彼方に見える尾根は赤や黄みを帯びた銅いろに縁取られ、ユーカリの放つ芳香にまじって、スイカズラの香がほのかに漂ってきた。車庫の端に立って、深々と息を吸い込んだ。山のにおいのほかに、油脂や愛車コルヴェットのにおいもした。エンジンの熱が感じられ、車体が冷えるカチッカチッという音がする。家は静まりかえっていた。ミミズクが通りを渡って斜面を降りていき、家の陰に姿を消した。渓谷の上で虫が渦を巻き、コウモリたちの黒影にかき消された。わたしはその場にたたじみ、ひんやりした大気や、動き出した夜行性の生き物たち、山々の黄昏を堪能した。"探偵はわが家にもどる、眠るために"。打ちのめされ、失業し、少なからぬ疑惑を抱いて。』

--COMMENT--
 またまた3月にこの本がでてフォローアップが大変というか、とても幸い。ロスの辣腕弁護士から調査をたのまれたが、偽証の片棒をかつがされていることがわかり、その悪に挑む。けっこうアクションシーンも多く、ルーシーがロスに来て名所をいろいろ案内し、いよいよ彼女との関係が深まる・・。ルーシーのレンタカーは、トーラスだったかな? 他のところで、エルビスのコルベットが1966年モデルであることが書かれていた。引用した部分のような、ロスの自然の景色を語るシーンが絶品ですね。(2000/06/24)

破壊天使シヴォレー・シェヴェルSS396DEMOLITION ANGEL (C)2000村上和久訳 講談社 2002

『ジョン・マイクル・ファウルズは、ルイジアナ州メタリーにある<ディゴ・レッド中古車店>で1969年型のシヴォレー・シェヴェルSS396を購入した。SS396は、後部をリフトアップあいたうえに、グッドイヤーのロゴが浮き出たばかでかいラジアルタイヤをはき、フェンダーからロッカーパネルに沿ってずっと錆が走っていた。錆はおまけだった。
 ジョンがこいつを買ったのは、色が赤だったからだ。<ディゴ・レッド中古車店>でミスター・レッドのために買った赤い車。ジョン・マイクル・ファウルズは、実にいかしていると思った。
 ジョンはマイアミでの報酬を使い、クレア・フォントノー名義のルイジアナ州の偽造ライセンスを見せて現金で支払いをすますと、近所のショッピングセンターに車を乗りつけ、新しい衣類と新品のアップルibookをやはり現金で買った。ボディー色は赤みの強いオレンジを選んだ。』

--COMMENT--
 元爆発物捜査員だったロス市警の女性刑事キャロル・スターキーがとても勇ましくいきいきと描かれていて、爆弾魔レッドを追いつめる迫真のアクションとサスペンスが大いに楽しめた。久しぶりに出あったジェットコースター・ノヴェルだ。
上記のシェヴェルに加えて、爆死した同僚の姉の<白いホンダ・アコード>、同じく爆発物捜査員のチーフの<トヨタ・フォーランナー>なども登場する。(2004/9/9)

追いつめられた天使コルヴェット・コンヴァーティブルStalking The Angel (C)1989田村義進訳 新潮 1992

『小切手を半分に折り、財布にしまい、ダン・ウェッスン38とショルダー・ホルスターを机の右のいちばん上の引き出しから取り出した。それを白いコットン・ジャケットで隠し、車に向かった。派手なジャマイカ・イエローの1966年式コルヴェット・コンヴァーティブル。白いジャケットとコンヴァーティブルとポケットの白地小切手とで、ドナルド・トランプと間違われたりして…。
 サンタ・モニカ大通りを西に向かい、ビバリーヒルズをつっきり、センチュリー・シティの北端からビバリー・グレン大通りを北へ。パーム・ツリー、化粧漆喰の共同住宅、アラブ人所有のビルの工事現場。6月初めのLAはまぶしい。スモッグが低くたれこみ、空は白く濁り、看板や天幕やビルの窓ガラスやワックスのかかったフェンダーやクロムのバンパーの列に、陽はまばゆく反射する。スケートボードでウェストウッドにむかう上半身裸の少年も、大きな帽子をかぶった買い物帰りの主婦も、道路工事の作業員も、バスを待つヒスパニックの女も、みなサングラスをかけている。まるでレイバンのコマーシャルだ。』

--COMMENT--
 以前の刊行だが、読む機会がなかった、ハリウッドの私立探偵エルヴィス・コール・シリーズ第二作が杉並区図書館にあることが分かり借り出した。投資顧問会社社長宅から、武士道の古文書が盗まれ、さらに脅迫電話がかかりコールとパイクの出番となる。男前で思いやりもあって、スマートでさらにすごい腕っ節なのはいつものとおりだが、冗談たっぷりの会話など楽しめるエンターテイメント・アクションと言ったところ。
 仲間のパイクの"ぴかぴかに磨かれた赤いチェロキー"、依頼人の"チョコレート色のロールスロイス"、その娘の同級生の"白のフォルクスワーゲン・ラビット・コンヴァーティブル"、秘書の"白いBMW"、ヤクザの"緑色のアルファ・ロメオ・スパイダー"などなど。(2004/9/27)

ホステージレクサス、ニッサンHOSTAGE (C)2001村上和久訳 講談 2005

『二つ目のガソリンポンプの外側で愛車レクサスから降りたとき、マーガレット・ハモンドは車のバックファイアの音を聞いた。
 マーガレットは通りの反対側にある、この開発地に建つほかの無数の家とまったく同じように見えるタイル屋根の家に住んでいた。彼女は、白人の若者三人が食料雑貨店から走り出て、赤いニッサンの小型トラックに乗り込むのを目にした。トラックは跳ねるように加速しながらぎくしゃくと走り去ったので、クラッチがいかれていることがわかった。車は西のフリーウェイの方へ向かった。
 マーガレットはタンクをいっぱいにするためにポンプのノズルを固定すると、それからネスレのクランチ・チョコバーを買いに食料雑貨店に入っていった。家に帰る前に食べるつもりだった。
 自分の推定ではそれから十秒もしないうちに、マーガレットは駐車場に駆け戻っていた。赤いニッサンはすでに姿を消していた。』

--COMMENT--
『破壊天使』につづくノンシリーズ二作目。2001年のAmazon.comベストワン・ミステリに選ばれただけあって、もう読み始めたらやめられないジェットコースター・ミステリーだった。上下巻700ページを一気に読んだので疲れたましたが、ぜひお試しあれ。
 上記は、人質事件の契機となった食料品への押し込み現場から逃走するシーン。ただし、原文を確認できたらいいのだが、いくらセルサービスに慣れたアメリカ人でも、車に給油しながら買い物するとは思えないが… (2005.8.19 #366)


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