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CRUMLEY, JAMES /ジェイムズ・クラムリー

酔いどれの誇りトヨタ・ランドクルーザーTHE WRONG CASE , (c)1975,1992

『彼女ともう一度話すには、とにかく弟を見つけだすにかぎるし、私はしらふで、ほかにすることもなかった。そこで私の愛車、トヨタの中古の四輪駆動車を銀行の駐車場から出し、電化製品専門の古買屋をやっている養子のマフィンを探しに出発した。暑さにほてった通りを、寝ぐらを探す、巨大で疲れた動物のようにのろのろと行き交うキャンピング・カーの群れをよけながら、私は車を走らせた。・・・・・
 マフィンから聞いたリースのねぐらというのは、近所の家にくらべていささかガタがきていた。そのポーチにサイモンが立っていて、膝の上で切ったジーンズに灰色のTシャツをきた、やせっぽちの娘に激しい身ぶり手振りでをまじえて話しかけていた。娘のTシャツには<コネチカット大学体育学科>とプリントされていた。私は、コネチカットに大学などというものがあることも、体育学科があることも知らなかった。私の東部に対する偏見は、東部出身の母親の、いんちき臭い上流趣味を見て育ったために培われたのだ。
 家の正面に車をとめ、鍵をかけてから、私は盗難防止用の警報器のスイッチを入れた。どこに行くにも私は、車の後部に千j相当のがらくたを積んでいる。ライフルが2梃、散弾銃と38口径のリヴォルバーがそれぞれ1梃ずつ、テープデッキに道具箱、釣竿および釣り用具一式、一パイント瓶入りのブランディにメキシコ産のマリワナが少々、その他もろもろだ。覚悟を決めると私は向きなおり、ところどころコンクリートのくずれた歩道を横切った。』

--COMMENT--
 ちょっと前に読んで気に入っていたマイク・リプリーが推薦する作家として挙げていたのがこのクラムリーだったので、探して頁をめくってみた。
アメリカ西部のモンタナ州の片田舎の都市で、うらびれた私立探偵ミロのところに持ち込まれる人探しにまつわるネオ・ハードボイルド。  この時代でトヨタの四駆といえば、ランクルしか該当がない。 (96/05)

ダンシング・ベアたくさんDANCING BEAR , (c)1983早川,1993

『チューウェルズを誘拐しようという思いつきはしだいに本気になっていった。・・・
 しかし三日目の夜の8時頃、犬のくそのような茶色をした目立たないチャンプに乗って私がチューウェルズの屋敷を見張っていたとき、毛皮で縁どられたフードのついた灰色のパーカを着た運転手が階段を降りてきた。運転手はガレージをあけ、トヨタのランドクルーザーのステーションワゴンをバックさせて出した。ふわふわした羊毛のコートにつばなし帽、大きな手袋といういでたちのチューウェルズが、ブリーフケースを手に出てきて、車に乗り込み出発した。
 尾行しながら私は、CB無線機のアンテナを窓の外に出し、シモンズを起こしにかかった。
「応答せよ、スパイダー・マン。応答せよ」私は数回くり返した。「こちら、ロシアの熊」
「こちらスパイダー・マン」シモンズは眠たげにいった。「どうぞ」
「スパイダー・マン、スパイダー・マン」私はマイクに向かっていった。いまこそ攻撃の時だと思い、身震いした。二人とも無防備で、ランドクルーザーをショーでも見に行くように走らせている。 「ゴミ屋がゴミ捨て場に向かっている。小型トラック、冬用の衣類、その他すべてを欲しい、どうぞ」』

--COMMENT--
クラムリーの次の作品は、私立探偵ミロがある組織犯罪に追われるようになるもの。なぜか急に車がたくさん出てくる。
フォード四駆(ミロの車)、トヨタ小型トラック(若い商店主)、メルセデス(警備会社社長)、修復された1964年ムスタング・コンヴァーティブルとGM社製四駆(女性カメラマン)、ホンダ・シビック(依頼人の娘)、黄色のトヨタ・カローラ(長距離トラッカー)、ダットサンのステーション・ワゴン(レンタカー)、シボレー四駆、フォードの商用車、ワーゲンのヴァン、赤いポルシェ(犯行グループ)、アメリカン・イーグル(レンタカー)、ダッジのパワー・ワゴン(犯行グループ)などなど。(96/05)

明日なき二人キャディラック・クーペBORDERSNAKES (c)1996小鷹信光訳 早川 1998

『私はモンタナ西部の小さな町、メリウェザーで生まれ育った。軍隊時代をのぞいて、その地を離れて住んだことはない。まだ一ヶ月しかたっていないが、いま私は借金もなく、生まれ故郷には受信サービスが答えてくれる電話番号とレンタルの郵便受けがあるだけだ。私は過去を抹殺し、両親の墓を放置し、まだ生きている数少ない友人達に別れを告げてシアトルにとび、新しい車を買った。死よりも早く、地面に吸い付くように走り、国税局の役人より足どりの達者な、派手なコンヴァーティブルを買うつもりだったが、どんな高価な車でも買える身分になってみると、小型車では満足できない気分になった。ポルシェのセールスマンは、キャディラック・エルドラドのツーリング・クーペを見せに案内してくれた。32気筒、V8エンジン、300馬力、2トンはありそうなデトロイト産の"けもの"(beast)だった。頭も尻も楽に収まり、小国ほどの広さのトランクのスペースがあり、ノーススター・エンジンはアクセルをいっぱい踏み込んだとたんに、尻が運転席に釘付けになるほどのパワーがあった。セールスマンは濃いモンタナ・ブルーの車を売りつけようとしたが、中年も後半にさしかかったいま、感傷とは縁を切るべきだと考え、ダーク・チェリーが手に入るのを待った。』
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「酔いどれの誇り」のミロと、「さらば甘き口づけ」のシュグルーの探偵二人を登場させてしまう大サービスのハードボイルド。男っぽいというのか、猥雑というのか、かなり荒っぽい筋立てだったが「'99このミス」21位とけっこうこの手を好む読者も多いんですね。読んでいてとても疲れました。 近作の例にもれず、車がたくさん出てきて、引用したのはミロのド派手なキャディラック・エルドラド・クーペ、ジャーナリストのリンカーン、ミロの最初の車ミッドナイト・ブラックの49年型マーキュリー、そのほかグリーンのトヨタランドクルーザー、赤白ツートンの52年型ビュイック、ブレイザーなど。よほどクラムリーはクルマ好きですね。でも、引用した部分にでてくるセールスマンを、なぜポルシェとしたのか意味がよくわからないですよね。(1999/03/12) 再チェック(2006.6.17 #420)

友よ、戦いの果てにフォルクスワーゲン・キャンパーTHE MEXICAN TREE DUCK (c)1993小鷹信光訳 早川 1996

『ノーマンの予備のヴァンは輝く濃紺のキャンパータイプだ。とはいえ、ポケットは現ナマでふくらんでいるので、キャンプといってもルームサービスぬきのモーテル暮らしになりそうだ。
 エンジンをかけ、ギアをファーストに入れた。そして、ひょいとクラッチをつないだ。注意深くしていたら、エンジンの奇妙なほどなめらかな音やトランスミッションのきりっとした接続音、ダッシュボードにのっている小型のレーダー探知機に気付いていたはずだ。ところがそれに気付かぬまま私はエンジンをかけ、あっさりとギアを入れてしまった。ヴァンは、前輪を舗道から浮かして勢いよく信号を二つ突っ切り、私は、装具が倒れて散乱する車の後部にあわや放り出されそうになった。
 立ち直る最初のチャンスをつかんで車を停め、後部のエンジンカヴァーをあけてみた。フォルクスワーゲンの工場では絶対お目にかかれない横列V6エンジンがカヴァーの下にひそんでいた。完全主義者のノーマン、いったん始めたら、なにごとも並ではすまされない男だ。近くの楡の木陰にでも隠れて、私がスケートをやるブタのようなぶざまな発進をするのを、ネズミの巣のような袖で口をおおってくっくっと笑っていたのではないだろうか。
 なぜ予備のフォルクス・ワーゲンを持っているのかノーマンに訊いたとき、彼はこう答えた。「ノスタルジアさ。正真正銘のノスタルジアってやつよ」』
--COMMENT--
 私立探偵シュグルー・シリーズであり長編5作目にあたり、国際推理作家協会のハメット賞を受賞。ベトナム帰還兵の心の傷や連帯を扱いながら、ど派手なハードボイルドタッチのエンターテイメントに仕上がっているところは、だいたいクラムリーの定番ですね。出てくる車も、引用したようなスーパー・カーが続々でした。(2001.8.17)

ファイナル・カントリーキャディラック・エルドラドTHE FINAL COUNTRY (C)2001小鷹信光訳 早川 2004

『駐車場に乗り入れ、3台のピックアップとくたびれたサバーバンのわきにキャディラック・エルドラドを停め、私はサングラスと一緒にS&Wのエアウェイト38を車の小物入れに投げ込んで鍵をかけた。数年前に私は腹に25口径の弾を撃ちこまれて町を18インチとそれまで抱いていた小型銃器によせる愛着心とを失った。それ以来めったに銃を携帯しなくなった。キャロル・ジーンときょう対面することになったら、彼女が撃ってこないことを願うしかない。あるいは噛みついたり、新しいおっぱいで私を殴らないことを。
 私が落ち込んだ気分からねけだし、エルドラドから這い出る前に、オクラホマ州のディーラーのステッカーがべたべた貼られた黒いリンカンのタウンカーがブレーキをロックさせて駐車場に滑り込み、素晴らしい午後の空気が薄ぼんやりとなるほどの土ぼこりのスクリーンを作り出した。』
--COMMENT--
 ミロドラゴヴィッチ・シリーズの第四作で、CWA賞、シルバーダガー賞を受賞したそうだ。まあ、この頃では珍しいハードボイルド・タッチの暴力的アクションたっぷりで、かつ登場人物の多さと、筋立ても途中で読者の推測をつきはなすような複雑さ・難解さ!!
 『…くたびれたトヨタ車のかわりにキャディラックに乗っている。ただし、最近はトヨタのランドクルーザーの値段はキャディラックとほぼ同じだ…』というようなせりふも出てくる。また、BMWも多く登場するが、"ビーマー"という愛称で呼ばれていて、そう言えば日本でもそうだしたね。(2004.8.25)

正当なる狂気BMW-ZThe Right Madness (C)2005小鷹信光訳 早川 2007

『「たんなる偶然さ」私は言った。「だが三日のうちに死体が二つとなると、こっちも不安になる。だから、何のつながりもないと思いたい」
「そう思ってほしい」そう言って彼は一気にスコッチを飲み下した。「ローナに車を運転してもらうべきだろう。たまに運転してもらうたびに、おそろしくて酔いが醒めるからな」ローナは彼女のBMWのZタイプを楽しみのために猛スピードで走らせる。…中略
 もう一度グラスにたっぷりに注いでから、私はケリー・ウィリスのCDをプレーヤーにすべりこませ音量を調整したあと、広いヴェランダに出て小枝で編んだ椅子に尻をすえた。太陽はついにハードロックス山脈のかげにゆっくりと沈み、長い影が芝生を横切っている。二羽のカササギが小川に沿って気取って歩いている。三頭の鹿がグラスホッパー・ヒルの斜面を足音をたてて降り高さ5フィートのフェンスを優雅に飛び越えてきた。芝生の草をついばんだり、スナックがわりにすばやく一輪の花を食べたり、灰色のヤナギの葉を一気にむしゃむしゃしたりする日課の仕事にとりかかった。私が二本目のタバコにマッチで火を点けると、シカたちは子どもの目のように茶色な瞳で私を眺めた。』
--COMMENT--
 私立探偵C.W.シュグルーのシリーズ。親友の精神科医に盗まれた診療記録の調査を頼まるうちに次々に患者が殺されていく。荒っぽい筋立てと捨て鉢なトークをふくめて読み辛さが増してきて読みきるのがしんどかったこと!!
 医師のレンジ・ローヴァー、その妻ローナの車が引用にでてくるBMWだ。ここではZシリーズのどれか書き込まれていないが、ストーリー後段でロードスターと説明されていてZ8ということがわかる。患者の女性の"古いけどよく手入れされたフォルクスワーゲンのヴァン"、会計士のリンカーン・ナビゲーターなど相変わらず搭乗車は豊富だ。(2008.2.7 #532)


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