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Crusie, Jennifer /ジェニファー・クルージー

プレイボーイをやっつけろ!86年型シヴィックWELCOME TO TEMPTATION (C)2000米山裕子訳 二見 2005

『ソフィ・デンプシーは、最初からテンプテーションが好きではなかった。ガーヴィー夫妻が、ソフィの乗った86年型シヴィックに突っ込んできて妹のサングラスを壊し、ベージュのキャディラックを運転する田舎者に対してかねてから抱いてきた偏見を最悪な形で裏付けてくれる前から、この町が気に入らなかった。
 それよりさかのぼること30分、ソフィの妹エイミーは、意気揚揚としてハイウェイ32号線をすっ飛ばしていた。まばゆい赤毛を風になびかせ、テープデッキからながれるダスティ・スプリングフィールドの『イン・ザ・ミドル・オヴ・ノーウェア』にあわせて歌っていた。楓の木々は、暖かな風に吹かれて嬉しそうに枝を揺らし、青く澄み切った空には、真綿のような雲がぽっかりと浮かび、8月の終わりの太陽が、目に映るすべてのものに、じりじりと照りつけていた。
 そこでソフィはぞくっと寒気をおぼえた。間違いない。第六感が働いたのだ。デンプシー一族の者たちが、何代にもわたって ― たいていの場合は ― 留置場にぶちこまれずにすんできたのは、この第六感のおかげだった。
「スピードを落として」ソフィはエイミーに言った。「急ぐ必要はないわ」中指の指輪を回しながら、窓の外に目をやった。オハイオ州南部の風景は、ますます能天気な色彩を帯びている。これがいい兆候であるわけがない。』
--COMMENT--
 "ロマンティック・ミステリー"というタイトルに惹かれて手にしたところ、多彩で魅力的な登場人物、洒落てエッチで抱腹絶倒のトーク、などなど、久しぶりににたにたしっぱなしの面白さ…これは"ロマンティック・エンターテイメント"だろうね。
 引用は、本書の出だしのところ、二人の主人公、出だしの事件、オハイオという物語の場、ここから全編にわたって流れるダスティ S.のポップス…がすべて網羅されています。うまい!!
 テンプテーションの町長:おぼっちゃまプレイボーイのボルボ、落ち目の女優のいけすかない夫の黒のポルシェ、町長の母親の紺のBMW、高校時代にソフィを振ったチャドのチェリーレッドのカマロ(ソフィの弟がとことん仕返しをする顛末がちょー笑わせる)、ソフィのとりあえずのカレシだったセラピストの古い型のトヨタ("実用性を重んじる男"とコメントが…)などそれっぽいクルマが登場する。(2005.11.23 #385)

ファーストウーマンポルシェ911FAST WOMEN (C)2001葉月陽子訳 二見 2003

『そのとき、タイヤのきしる音、それから、爆発のような衝撃音がした。短く鋭く硬い、大きな音だった。
「この世に神がいるなら」ネルはマレーネに言ったら。「いまのは下司野郎のトレヴァーね」
二時間後。救急隊がトレヴァーを病院に運び、警察がポルシェの残骸をレッカー移動するよう手配したあとで、事務所に四人で集まった。「おれの車が……」ゲイブが嘆いた。
「ほんと、あなたの車で自殺を図るなんて、勝手よね」ぽかぽかのマレーネを抱きしめてネルは言った。
「自殺を図ったんじゃない。車を調べるために持っていこうとしていたんだ。ゲイブのすてきなアイディアさ」(中略)
「で、なにが起こったの?」スーズが尋ねた。「なんで公園に突っ込んだの?」
ポルシェ911カレラは普通の車じゃない」ライリーが説明した。「ターボ・ラグが尋常じゃないんだ」
「コントロールを失ったんだ。そのとき、車が公園のあの石柱に向かっていたのが運の尽きだった」
「ターボ・ラグ?」とスーズが訊き返した。
「エンジンがすぐには反応しないんだ。トレヴァーはアクセルを思いっきり踏み込んだに違いない。ラグがあって、そして次の瞬間、車は吹っ飛んだ」
「トレヴァーもターボ・ラグもどうだっていい」ネルはマレーネをひしと抱き寄せた。』
--COMMENT--
 夫と、ビジネスを一挙に失ったネルが、探偵事務所の秘書・庶務係に雇われ持ち前の気丈さで事務所をひっかきまわし、昔の事件の解明に一役買う。訳者あとがきにあるように「離婚と結婚とアンティークの磁器とマレーネというダックスフントの物語」であり、登場人物、ユーモアたっぷりのパンチの効いた会話など、エンターテイメント度200%の面白さ。
 原題の"Fast Women"は、いつも周りにいるネルの親友二人(同じような結婚歴?離婚歴、と夫との微妙な関係の)もあわせて"結婚が素早すぎた女たち"を示していそう。
 探偵事務所代表ゲイブは親から譲られて乗っているポルシェをとても大事にしていることが何度も出てきて、ネルが車の掃除をしようとしても指一本触らせない。親友スーズの"黄色のビートル"、ネルの前夫のBMWなども登場する。
 ほかにクラリス・クリフやスージー・クーパーの磁器コレクションを購入したりオークションにかけたりするため、イーベイ(eBay、日本ではbidders)なんかも何度も登場してきてミステリの世界にもITが押し寄せてきています。パームコンピューターでモバイルするようなシーンもあったり… (2005.12.4 #386)

キスは極上ナッシュFaking It (C)2002中村三千恵訳 二見 2006

『翌朝9時、グウェンはコーヒーをいれ、ジュークボックスでバカラックのメドレーをかけ、アンドリューがジョギングついでに買ってきてくれたマフィンの袋からパイナップル・オレンジ・マフィンを取り出した。そしてギャラリーの大理石のカウンターにつくと、最新のダブルクロスティックに取り掛かった。右手側からは、ショーウインドウのひび割れたガラス越しに朝陽が射し込み、がたついた金属製の天井タイルがエアコンの風に踊っている。背後では、ジャッキー・デシャノンの『カム・アンド・ゲット・ミー』が流れ、グエンは思った。"Come and Get Me"?まず無理。わたしは一生ここに縛り付けられている。
 Gのヒントは"むかし人気のあった車"とくれば"NASH"に決まっている。なんでいつも同じヒントばっかり載せるんだろう。むかし人気の車なら他にもたくさんあるものを。これで4文字のうち2文字が分かった。
 じゃぁ、H。"レイ・ミランド出演の1954年の映画"…14マス。「クソッ!!」
「言葉には気をつけましょう、おばあちゃん」ナディーヌが背後で言い、グウェンは振り向いた。』

--COMMENT--
 いまにもつぶれそうな画廊の、落ち目の壁絵画家マティルダの一家のどたばた・エンターテイメント。これまでの作品はけっこう好みだったものの、今回は、登場人物がややこしく(ずっと読んでいても名前が紛らわしくて憶えられなかった?!)、どうでもいいようなおしゃべり−タイトル通りの"フェイク"ばかりに食傷−珍しく途中でギブアップ。(2006.10.6 #441)


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