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CUSSLER, CLIVE/クライブ・カッスラー

ドラゴン・センターを破壊せよ1932年型スタッツDRAGON , (c)1990新潮,1990

『考えにふっけていると、ジョルディーノが機体の後部へ歩いてきて、隣に腰をおろした。「くたびれたようだな、君」 ピットは伸びをした。「家へ帰れるんでうれしい」
 ジョルディーノにはピットの気分が読めた。そこで彼は、友人の時代物や古典的な車の収集の方に話題を巧みに持っていった。「今、何を手がけているんだね」 「くるまのことか?」ジョルディーノはうなずいた。「パッカード、それともマーモン?」
「どっちでもない」とピットは答えた。「太平洋へ出発する前に、スタッツのエンジンをくみ立て直したんだが、取付はまだだ」
「一九三二年の緑のタウンカー」 「そいつさ」 「二カ月早く家に向かっているわけだ。ぎりぎりだがまだ間に合うぜ、クラッシクカーのリッチモンド・ドラッグレースにでる気なら」・・・』

--COMMENT--
アメリカの海洋冒険小説のスター、カッスラーのダーク・ピットシリーズ最新作。この段落の部分は、小説の進行には直接関係のない息抜き的なところであり、カッスラーの自分の趣味そのままを題材にしている。カッスラー自身はクラッシクカーのコレクターとしても知られており、なんとこの新潮文庫の扉のカラーページに著者とリストアしたスタッツの写真がでているほどの入れ込みようである。
 小説の後の方には、リッチモンドでのレースの模様がいききと登場するし、これまでの彼の邦訳九作にも、車のシーンがさりげなくでてくる。 さて、小説の方は、アメリカに対する日本の経済侵略下での日本の“悪徳”財閥の攻撃に対抗する米政府がテーマになっており、特に日本の読者にとっては、たいへん刺激的な内容となっている。それにしても、まさに今日的なテーマと良くも悪くもとても分析的な日本人観には、敬服してしまう。この本が、米国でベストセラーになったそうであり、思いは複雑である。
  なお、ハイパワークラッシクスの一翼を担っていたスタッツの1914年ベアキャット・シリーズAがトヨタ博物館に収蔵されている。(91/01)

死のサハラを脱出せよアヴィオン・ヴォザンSAHARA, (c)1992新潮,1993

『ピットの目を惹いたのは、修理工場の中央に鎮座している車だった。第2次世界対戦前の古い車が照らし出された。そのラインは優美で、明るいローズマゼンダ色で統一されていた。
「こりゃすごい」ピットは感激して呟いた。「アヴィオン・ヴォザンだ」
アヴィオン。1919年から39年まで、ガブリエル・ヴォザンが製造した。非常に珍しい車なんだ」  ジョルディーノはバンパーからバンパーへと歩いて、きわめて個性的で異色な車のスタイルを観察した。ドアのハンドルが変わっていたし、風防ガラスにはワイパーが三つ付いている。フロントのフェンダーとラジエーターを、クロームの支柱が継いでいる。ラジエーターシェルの上には、丈の高い、羽のあるマスコットが載っていた。「おれには奇妙な感じがする」
「難癖をつけるのはよすんだ。この上等なホイールセットが、おれたちをここから連れ出してくれる切り札なんだから」
エンジンが始動しても、回転音はまったくしなかった。殆ど聞こえない程度のせきこむような音と排気管から吐き出されるほんのわずかな排気ガスが、エンジンが急に作動し始めたことをわずかに伝えているだけだった。
「静かだな、この古い車は」ジョルディーノが感心して言った。
「この車はナイト・スリーブ・バルブ・エンジンで、静かな作動性能が求められていた当時は大変な人気だったんだ。」
「この昔の遺物を駆って、本当にサハラ砂漠を横断する気なのか?」』

--COMMENT--
カッスラー11作目の歴史の謎を織りまぜた熱血冒険もの。アフリカ東海岸からニジェール川を遡る高速クルーザー、上記のクラシックカーでのサハラ横断、手製のサンドヨットでの脱出、戦闘デューンバギーなどあらゆるのりものを駆使するいつもの仕立てになっておりスピードあふれる展開が楽しめる。(93/02)

インカの黄金を追えピアースアローのハウストレーラーINCA GOLD , (c) 1994新潮,1994

『「お腹空いたでしょう」と彼女は陽気にピットに話しかけた。
「私たち、あるデリカテッセンを半分買い占めちゃったのよ」
「彼女が言わんとしているのはだね」ジョルディーノはアイスボックスを芝生の上におろすとため息まじりにぼやいた。「樵の一隊を養えるぐらい食べ物を用意したってことよ」
 ピットは声をたてて笑い、62年たった古いハウストレーラーのドアの方を指さした。「おれの移動式宮殿に収まって、日差しを避けるってのはどうかね?」
 ジョルディーノはアイスボックスを持ち上げて運び込み台所の隅においた。ローレンは後からついていき、ベッドに転用できるブースのテーブルに、ピクニックバスケットの中身をひろげはじめた。「大不況当時につくられたにしては」と彼女は木製の内部や食器棚の鉛ガラスの板を見つめながら言った。 「意外なほどモダンだわ」 「ピアースアローは時代を先取りしていたからね」とピットは説明した。
「あの会社は乗用車売上を補うために、旅行用トレーラーの分野に進出した。その二年後に、会社は閉鎖された。大不況が命取りになったのさ。三っモデルを作ったが、一つはこれより長く、もうひとつはこれより短い。ストーブと冷蔵庫を現代風に改造しただけで、あとは元の姿に修復したんだ」』

--COMMENT--
 まだまだ意気軒昂なカッスラーのダーク・ピットシリーズ十二作目。タイトルのとおりの骨子に、砂漠の地下河川を100`も下る冒険が加わる。いつもながらの不死身ピットに多少厭きがこないわけでもないが・・・・
 この作品でも、カッスラーのクラシックカー好みが存分にあらわれており、今回はなんとただピアースアローではなく、ハウストレラーとは驚きですね。ほかには、アラードJ2Xというスポーツカーもでてくる。(全然知りません!)
そういえば、一作ごとに違うヴィンテージをあしらっているいるんですね。 (95/01)

暴虐の奔流を止めろ(上下)デューゼンバーグFlood Tide (c)1997中山善之訳 新潮1998

『タウンハウス前にとめておいた威風堂々とした車へピットは案内した。彼女は驚きをあらわに、大きなクロームワイヤーのホイールと幅の広いホワイトウォールタイヤの巨大な車に見入った。
「ますごい!」ジュリアは叫んだ。「どういう車なの、私たちが乗るこれは?」
1929年製のデューゼンバーグ」とピットは答えた。
「世界でも指折りの金持ちが開くパーティへ押し掛ける命令をうけたので、ぱりっとした格好で登場するのが当を得ていると思ったんだ」
「J・デューゼンバーグ・モデルは、アメリカ自動車工業が産んだ最高の車種だ」とピットは説明した。「1929年から1936年まで製造されたこのモデルは、数多くの自動車鑑定家たちに、これまで造られた中でいちばん均整がとれた車とされている。約480台のシャシーとエンジンが生産され、この国で最高の評価を受けていた車体メーカーたちのもとに送り込まれて立派な設計を施された。この車のボディは、カリフォルニア州パサディナのウォルター・M・マーフィー社で製造されたコンバーティブルセダン。安くはない。フォードのモデルAが400ドル前後で売られていた当時に、二万ドルもしたんだ。」』
--COMMENT--
 ダーク・ピット・シリーズも14作目。中国の犯罪組織の不法移民や豪華客船を使ってルイジアナを壊滅させようとするたくらみに立ち向かう。相変わらず船、車、飛行機、ヘリを存分に登場させる大活劇といったところ。
 作品によってフューチャーする車を変えており、今回はデューゼンバーグが、ワシントンのモールでカーチェイスを演じる。ほかには、ボロ車に偽装した高性能なトヨタなども登場する。(1999/01)

ロマノフの幻を追えモーリス・マイナーFIRE ICE (C)2002土屋晃訳 新潮 2004

『ダドソン卿は英国ミステリーによく登場する、村人全員が教区の牧師殺しの容疑者となるような小さな集落に暮らしていた。ダドソンの家は、車一台がかろうじて通れる曲がりくねった小道にぽつんと一軒だけ建っている。ザバーラは生垣に囲まれた砂利敷きの車寄せを進み、年代もののモーリス・マイナーのピックアップ・トラックに並べて車をとめた。
 トラックの正面に、温もりを感じさせる茶色の石と暗色の瓦屋根からなる二階建ての家があった。その田舎家はザバーラが想像していたイギリス貴族の邸宅とはまるでちがった。石壁に囲まれ、色とりどりの花が咲く庭がある。
 その花に膝まで埋もれていたのが、つぎをあてた綿のスラックスに色落ちしたワークシャツという格好の男だった。』
--COMMENT--
 クライブ・カッスラーとポール・ケンプレスコの共著による新NUMAファイル・シリーズ第3弾。世界の海底に眠る未來代替燃料のメタン・ハイドレート〔これが原書タイトルの FIRE ICE〕を独占しようとする、ロシア皇帝の末裔?をNUMAが追いつめる…というシナリオはよいのだが、何度も遭遇する危機をえらく簡単に乗り越えてしまう安易さが残念。原子力潜水調査船NR-1なども登場してきて、海洋好きの人には面白そうだ。
 舟艇は当然かなり専門的で詳しいが、車については以前ほどはこだわっていないようだ。引用部分で、ザバーラがイギリスで使ったレンタカーは、<…NUMAの経理が心臓発作をおこしかねない、ジャガー・コンバーティブル…>だ。(2004.11.4)

オデッセイの脅威を暴けマーモンTHE TROJAN ODYSSEY (C)2003中山善之訳 新潮 2005

『駐機場で待機している唯一の車は、1931年に生産されたV16エンジン搭載のすこぶる大きなタウンカー、マーモンだった。品位と格式をそなえた逸品で、技術的には時代を先取りしており、高貴にして優雅だ。390台しか製造されなかったV16の一台であるこの車は不思議なほどスムーズなうえに静かだし、大型エンジンの出力は192馬力で、トルクは407fpだった。くすんだバラ色に塗り上げられた車体は、マーモンの"世界で最も進んでいる車"という宣伝文句と完全に一致していた。
 その脇に立っている女性がまた、車に引けをとらず隅々まで美しく<…中略…>、手を振って微笑むと、ピットに走り寄った。彼を見上げて唇に軽くキスをした。
「お帰り、船乗りさん」
「君にそう言われるたびに一ドルもらいたいものだ」』

--COMMENT--
 翻訳17点目も、カリブ海に巨大なハリケーンが襲来したり、ニカラグア沖で海水汚染現象から浮かび上がる国際陰謀組織オデッセイ(その首謀者が"スペクター"で、まったく007風だ?!)に戦いをいどんだり、海洋アドヴェンチャーが楽しめる。この作品から、ピットといき別れになっていた双子の男女の実子が登場してしまうなど、安易なプロットとか、あまりに簡単に危機を脱したり、お綺麗な美女たちばかりを登場させたり…はちょいと鼻につくようになった。
 ほかにも名車コレクターのピットの1952年型トップダウン方式のメテオールが出てくる。ファイバーグラス・ボディのカリフォルニア仕様ホットロッド(270HPにチューンされたデソト・ファイアドームV8エンジンを搭載)なども出てくる。"トップダウン方式"ってよく分かりませんが?? (2005.8.12 #363)

オケアノスの野望を砕けハマーWHITE DEATH (C)2003土屋晃訳 新潮 2006

『ワシントンのひどい渋滞のなかを、ポール・トラウトは車幅のあるハマーを駆り、スーパーボールでタッチダウンをねらうプレイヤーさながらに走っていた。彼とガメーはよく四輪駆動のハマーでヴァージニア郊外へ出かけるのだが、オフロードで遭遇するいかなる事態も、国家の首都で運転する苦労にくらべたら何ほどのこともない。
 だが彼らは思ったより順調に進んでいた。ガメーが隙を見つけて声をあげれば、ポールはためらいもなくステアリングをきる。よく油をさされた機会のように二人三脚で動く夫妻の能力はNUMAの任務において数知れない重要な役割をはたしてきたわけで、これはふたりを同時に雇用したサンデッカー提督の慧眼である。
 ジョージタウンの狭い通りに折れ、レンガのタウンハウスの裏手にある駐車場にハマーを停めると、二人は自宅に急いだ。それから数分後、一泊用の荷物を手にタクシーに飛び乗った。空港ではNUMA専用機がエンジンを暖めて待機していた。』

--COMMENT--
 クライブ・カッスラーとポール・ケンプレスコの共著による新NUMAファイル・シリーズ第4作。遺伝子操作したおばけ魚で魚資源を独占しようとする悪辣企業をやっつけるという、このところのカッスラーの超奇想天外シリーズ(-_-;) の延長であり、まさに向かうところ敵なしのオースティン&ザバーラがブレーク。沈没したデンマーク巡洋艦から閉じ込められた船員を救助したり、北海の秘密基地を壊滅させたり、ドイツのヒンデンブル号を復元した大型飛行船がでてきたり…それなりには盛りだくさんのアドヴェンチャー・シーンがある。
 引用は、主人公を支援する同僚の研究者夫妻が急な任務で車で帰宅する場面。米国ミステリでは、最近なんせハマーが大人気だこと。ただし、ハマーを登場させる必要性はあまりなさそうだけどね。ほかには、以前の作品に紹介されたことがある、ザバーラ自慢の"1961年型コルヴェット・コンヴァーティブル"もでてきていた。 (2006.8.14 #429)

極東細菌テロを爆砕せよクライスラー300DBLACK WIND (C)2004中山善之訳 新潮 2006

『ダークはポートランド目指してドライブを続け、同市のはずれにある広い芝生の催し場に、探していたクラシックカー・オークション会場を探し当てた。大勢の人々が煌めく車の周りを動き回っていた。その大半は40代、50代、60代で、車は広い芝生の野外に整然と並んでいた。ダークは塗装の仕上げや機械類の修復の見事さを堪能しながら車の横をぶらついてから、競売が行われている天蓋つきの白いテントへ向かった。
 その中では、競売人が付値を速射機関銃並みにまくしたてる耳障りな声が断続的にスピーカーから響き渡っていた。ダークは、大音声を避けて遠く離れたサイドシートに座り、競売車のに見入った。
 スポーツカーのコルヴェット数台と初期のサンダーバードが引き下がったところで、ダークは身を起こした。1958年型のクライスラー 300Dコンバーチブルがステージに登場したのだ。そのすこぶる大きな車はオリジナルなアステカ・ターコイズブルーに塗り上げられていて、長々と続くきらめくクロームと、サメの背びれさながらに宙に突き出た一対のテールフィンが際立っていた。根っから車にほれ込んであいるものにしか理解できぬ反応だが、ダークは鋼鉄とガラスの芸術的な塊を見たとたんに心臓の鼓動が早まるのを感じた。』
--COMMENT--
 ダーク・ピット・シリーズ18作目は、クライブの長男ダーク・カッスラーとの初共著となる。これまでの作品のテイストがほぼ完璧に継承されているのは驚き。日本軍の沈没した潜水艦を探索し、細菌爆弾を回収するなどなかなかスリリングな舞台設定もいつもの通り。
 クラシックカー好きの主人公を彷彿とさせる引用部分だが、なぜか急にオークション会場へ出かけるのがいかにも唐突だ。なお、そこで入手したクライスラー 300Dは、テロ組織の追撃を受けて離岸するフェリーに飛び込む大立ち回りで大破する。ほかに、NUMAの"青紫色のジープチェロキー"、テロ組織の"黒いキャディラックCTS"、関西空港で使う"オレンジ色のスズキ"など。 (2007.2.1 #458)


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