lagoon symbol
DEIGHTON, LEN /レン・デイトン

笑うカモには ランドローヴァー ONLY WHEN I LARF , (c) 1967 早川 、 1980

『私は英貨七百ポンドでランドローヴァーを買った.安くはなかったが、状態の良い車がほしかったのだ.その車には、燃料と水が入ったジェリー缶、鋤、ライフル架、軟弱路からタイヤを救い出すための穴あき溝型鋼板、頑丈なウィンチ、泥除けに溶接された粗製金属の太陽羅針盤、燃料計が最後の5ガロンになったことを警告する切り替えスイッチつき予備燃料缶が装備されてあった.
私は、1台の長距離用無線機、そして4台の近距離交信用小型トランシーバーを取り付けた.それから、車を鮮やかなストライプで塗った.ベイルートの修理工場の連中に、車が故障で立ち往生した場合、空から発見する助けになると言われたからだ.
 ボブとリズが到着するまでに車の準備は完成していた.ボブはその車をすっかり気に入った.
 日曜日に私たちはソーファーとバー・イライアスを抜けて山地へドライブした.天気は素晴らしく、私たちはスピードをかなり上げてシリア国境を越え、ダマスカスまで行った.私たちはそこで昼食を取り、午後にベイルートへ戻った.ふたつの山脈のあいだの中間地点で、主道路をそれた.
 私は主道路に平行して走る現在では使われていない道を走るようにボブに命じた.二本の小さな木に隠されている曲がり角に達すると、ここが第二集合地点であると告げた.
「なにか手違いがあったら、ここに全員が集合するんだ」と私が言った.
私たちはそこに車を止め、しばらくのあいだ熱い土地の香りをかいでいた.』

--COMMENT--
スパイ、戦争小説を得意とするデイトンには珍しく、華麗な詐欺師のコン・ゲームものとなっているが、デイトンらしさが十分におりこまれており、楽しい.
 仲間3人が最後の賭にでるためベイルートで活動するための車が順当にランドローヴァーであり、いろいろ荒野のための仕立てをするが、それが意外な結末への伏線になっており、車がストーリー展開の重要な役を担っている.(94/01)

優雅な死に場所 Eタイプ・ジャガー AN EXPENSIVE PLACE TO DIE , (c) 1967 早川書房 、1980

『女は笑った。気持ちの良い、音楽的な響きを持った笑いだった。
「Eタイプよ。ジャガーのEタイプから誘いをかける夜の女なんて、いっこないわよ。だいたい、これは女の車かしら?」 画廊にいた女だった。
「ぼくの母国では、理髪師の車とよんでいたがね」と、わたしはいった。
 女は笑った。どうやら、わたしが彼女のことを、この界わいを自動車ではいかいしている売春婦と間違えたのを興がっているらしい。わたしが隣の席に乗り込むと、車は内務省を通り過ぎ、マレゼルブ街へ出た。・・・・
 われわれの車は、コンクリートの坂道を下って大きな地下ガレージに入った。そこにはさまざまの高かな外国車が二十台ほど並んでいた。フォードGT,フェラーリ、ベントリーのコンバーティブルなどである。 エレベーターの近くに立っていた男が、「キイはそのままに」と、いった。 マリアはやわらかな運転用の靴を脱いでイブニング・シューズにはきかえた。「ぴったりくっついているのよ」と、彼女は静かな声でいった。 私はその肩をそっと撫でた。「くっつきすぎよ」と、彼女がいった。』

--COMMENT--
英国情報部からパリに派遣された“わたし”と得体の知れない美人スパイのマリアの出合における会話。
 Eタイプジャガーを乗りまわす女とくれば、かなり複雑な背景をもったキャラクターであろうことが伺いしれるが、小説の展開もレン・デイトン得意の濃密なスパイ戦となっており、疲れの出ている読者はとても読み切れないほど。
 続々と出てくる車名もそうそうたるものだが、今一息ストーリーとの噛み合いが悪く物足りなさが残る。  この話はどこかで聞いたことがあるなーと思っていたら、1936年に英国政界を騒がせたキーラー事件を題材にしているとのこと。(91/02)

ベルリン・ゲーム ベントレー、他 BERLIN GAME , (c) 1983 光文社 、1984

『ブレットには、金持ちでしかもアメリカ人という両方の条件が揃わないと持ち合わせられない、ゆったりとした自信がそなわっていた。他の上級職員はジャガーやメルセデスやボルボで我慢しているのに、彼は制服を着たおかかえ運転手つきのばかでかいベントレーのリムジンに乗っていた。
地階でエレベーターから降りると、ブレットのピカピカの黒いベントレーが駐車しているのが見えた。車内灯がついていて、ステレオからモーツァルトの曲が聞こえてきた。 
運転手のアルバート・ビンガムは60才ぐらいの元スコットランド近衛兵で、運転中沈黙を強いられる反動として、仕事を離れたときはひどくおしゃべりになった。「ハロー、ミスター・サムソン」彼は私に呼びかけた。
「奥さんの車でお帰りなのかなと思いましたよ」彼はいった。「でも、奥さんがご自分でとりに戻ってこられそうな気もしてましたっけ。なにしろあのかたは、あのポルシェを運転なさるのが、そりゃもうお好きですからな。わたしは奥さんに、私がいつもベントレーを入れているサービス工場で知ってるやつに、あれをチューン・アップさせようかと申しあげてみたんですよ」
 「ぼくはこのおじんのフォードで帰るよ」わたしはキーでガラスを叩きながらいった。「こんどボルボを買いなさるとか」彼はいった。「ご家族もちにはピッタリの車ですよ」「なにぶん、かみさんのポルシェにすっかり吸い取られちまったでね」』

--COMMENT--
デイトン得意とするイギリス秘密情報局局員バーナード・サムソンをめぐる濃厚なスパイストーリー。
諜報員の日々の生活、苦悩を生々しく描写するデイトンの筆力には感心しますし、車もふんだんにでてくる。
 サムソンの妻の妹ととの会話で日本の自動車メーカーの日本へのディーラーツアーが皮肉気味に語られたりする。(91/12)

スパイ ライン スバル SPY LINE, (c) 1989 光文社、1990

『シュタイガー男爵は、私が昨夜、彼の家を辞去してから泊まったウイーンのホテルへ迎えにきた。
私たちが乗っているのは白のジープ型のスバルで、東欧諸国のエキゾチックな車の集まりの中ではかなりめだった。
そこにあるのは、いっぱいに泥のはねがこびり着いたラダや、臭いにおいをたてる二気筒エンジンのワルトブルグのほか、派手なピンクに塗りなおされたスコダのキャブリオレや、後部エンジンのエアダクトに沿って長いフィンのついた古いタトラプランなどもまざっていた。
 シュタイガーはほかのドライバー達に頓着せず、列の先頭へいって、五、六人のチェコ人の役人が無感動な、人を見下すような目付きで外をながめているガラス張りのボックスに車を横づけした。』

--COMMENT--
 イギリス秘密情報局員のバーナード・サムソンをめぐって謀略と混沌のスパイ合戦が繰り広げられる。
 4WDスバルが登場するのは、たいへんめずらしいが、切手のオークションにあらわれる切手売買エージェントの”男爵”のクルマとしては、うなずかせるものがある。(90/11)

マミスタ ランドクルーザー、他 MAMISTA, (c) 1991 早川 、1992

『ルーカスが説明を受け、カーキのシャツスタイルに着替えてしまったところへ、アンヘル・パスが設営地の構内にある車のリストを持ってやってきた.
 ジープが四台、ピックアップ・トラックが二台、人がたって通れる天井の高さがあるバンが二台、トヨタのランドクルーザーが二台、ボルボのトラックが三台.
 ラモンはそのリストを見て、言った.「程度の良い方の二台のボルボと、いちばん良いトヨタと、程度の良い方のジープ二台.あとの車は全部動けないようにする.ヘリコプターがやってきたら、頭のおかしい誰かが我々を追うように命じるかもしれんからな」
 「やつらはCIAだ」パスが言った.「地質調査をやるだけなら、こんなにたくさん車がいるもんか」彼は腕組をして立っていた.
 ラモンは言った.「谷を調査しに行く班のために備えてあるのさ.食料もここの冷蔵庫ストックして、必要に応じて持ち出すようにしている.やっぱりただの調査だろう」
 パスは言った.「四輪駆動のボルボのシャーシは、特別に改造してあるようです.あいつは壁でも上れますよ.あいつは全部持って行きましょう」
「我々が行くところには、そうたくさん壁はない」ラモンは言った. 「トヨタの方が車幅が狭くて、ジャングルの道に向いている」』

--COMMENT--
東西冷戦をバックにした複雑、混沌とした本格スパイものの旗手であったデイトンが、ベルリンの壁崩壊後の時代に新境地を問う作品.南米のジャングルでゲリラグループと苦しい逃避行をするという冒険小説の基本に近づいてきたように思えます.
 相変わらず車は上記のようにたくさんでてきますが、他にゲリラの首領が、壊れてばかりいる古いダッジを何とか修理しながら、手ばなさいで使っているこだわりのシーンがある.
 恋愛小説の側面もデイトンとしては異色であるが、何にも残らない壮絶とも言える結末には驚かされます.(93/09)


作家著作リストD Lagoon top copyright inserted by FC2 system