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DEMILLE, NELSON /ネルソン・デミル

ゴールド・コーストフォード・ブロンコTHE GOLD COAST, (c)1990文芸春秋、1992

『クラブの門を抜けて、素晴らしいアメリカ楡の古木の立ち並ぶ砂利敷きの車道をクラブハウス指して走る.駐車場にスーザンのジャガーは見えない。金曜日には彼女もときどきクラブへやってきて一緒にいっぱいやり、それからクラブの食堂か他のレストランで食事するのだ。私は空いたスペースにブロンコを止めて、クラブハウスに向かった。
 先祖代々の金を持っている、またはそう思われている人間の利点の一つは、どんな車でも大いばりで乗り回せるということだ。事実、私の知っている中でも最高の金持ちであるヴァンダービルト家のひとりは、1977年のシェヴィのワゴンに乗っているが、このあたりの人たちはそれを変わった趣味とか大いなる自信のあらわれだとみなしている。ここは、車がそのひとの人格の50パーセントを左右するカルフォルニアではないのだ。
 この土地で重要なのは乗っている車ではなく、その車のバンパーに張ってある駐車のステッカーだ。私のブロンコには、ローカストヴァリーのを初めとして、クリーク・クラブとスワナカ・コリント・ヨットクラブとサウスハンプトン・テニスクラブのステッカーが貼ってあり、これがすべてを物語ってくれる。いわば軍人の勲章の民間版で、ただそれを服につけないだけだ。』

--COMMENT--
ニューヨーク州ロングアイランド北海岸の超高級住宅地ゴールド・コーストで隣人同士の弁護士夫妻とマフィアのボスとの滑稽でユーモアあふれるかかわり合いがなんともいえず魅力の作品。
 まさにペーソス、ウイットがとびかう会話の冴え、洒落は強烈といえるほど。この夫妻の車がブロンコとジャガーとくれば上の引用のトーンが納得いく。(92/12)

プラムアイランドジープ・チェロキーPLUM ISLAND (c)1997上田公子訳 文芸春秋 1999

『ゴードン家に通じる小径に車を進めたのは、11時すぎ。満月に近い月夜で、潮の香りを運ぶ心地よい風が開け放した窓から車内に吹き込む。車はモスグリーンのジープ・チェロキー・リミテッドの新車。死の寸前までいったジョン・コーリーが自分へのご褒美として許した4万ドルの贅沢だ。
 家から50メートルほどのところに車をとめると、ギアをパークに入れてジャイヤンツ対ダラスの試合中継をあとしばらく聞いてからエンジンを切った。「ヘッドライトがついています」という声が。
「うるさい」とわたしは応じた。「黙ってろ」といってヘッドライトを消す。
 人生にはいろいろのオプションがあるが、"音声警告オプション"というやつ、これは絶対に選ぶべきではない。
 わたしはドアを開けた。「キーがイグニッションにささったままです。サイドブレーキがかかっていません」女性の声で、神に誓って、先妻の声にそっくりだ。「ありがとうよ」キーを抜いて車をおり、ドアをバタンと閉めた。』

--COMMENT--
 ネルソン・デミルの作品は久しぶりだが、デミルってこんなに面白かったっけ!と思うほど、大いに楽しめました。私の"面白いミステリの5条件":舞台となる土地柄が大事に描かれている、ユーモアのある会話、登場人物のキャラクター、サスペンス、ディテール、と全てを満たしているなぁ。ハリケーンが来襲している大荒れの海で、ほとんどさわったことのない高速モーターボートで犯人を追いかけるシーンなんか、デズモンド・バグリイを想わせるクラシックな冒険小説を髣髴とさせながらとてもスリルあって、これこそ冒険小説だ! 2000年版『このミス』を見返したら、上位にはランクされていなかったけど、わたしが好きな西尾忠久、内藤陳さんだけがノミネートをしていましたね・・(^o^)
 休職中のニューヨーク市警殺人課刑事ジョンが、友人だった夫妻が殺害された現場に呼び出された場面。チェロキーのこの音声警告について、あとあとまで何回もでてくる。ストップさせようとしたら、米語からフランス語アナウンスになってしまったり、メートル表示に変わってしまったり、・・読んでのお楽しみ。それにしても単行本600ページは、読みごたえありますよ。(2001.6.17)

ワイルドファイアヒュンダイWILD FIRE (C)2006白石朗訳 講談社 2008

『「よかった。<ザ・ポイント>までは、車で長い道のりだからね――酒を飲んでるとなれば尚更だが…おや、まだ飲み足りない顔をしているようじゃないか?」マドックスは微笑んで、さらに話題を広げてきた。「ついでに言えば、きみは乗りなれない車を走らせてきたようだね」
わたしは無言で応じた。マドックスは続けた。
「たしか――そう、きのう君はトーラスを走らせてきたね。それが今日の午後はヒュンダイだった。そして今夜はルーディのヴァンだ。気に入った車は見つかったかね?」
 わたしは小賢しい口をたたく利口者が大嫌いだ――ただし、自分はそのかぎりではない。とりあえずマドックスにはこう返した。「いままさに、あなたのジープを借りられないかという話を切り出そうかと思っていました」
マドックスはこれには応えず、こう質問してきた。「なんでああも頻繁に車を替えているんだ?」
ここは真実を話してマドックスを混乱させてやろう、そう思ってわたしは答えた。
「当局から逃げ回っているからです」マドックスはにやりと笑った」』

--COMMENT--
 ジョン・コーリー・シリーズ4作目は、9.11以降の極右翼秘密クラブの末恐ろしい計画に妻のケイトと迫る。上下巻あわせて1,100ページにもなる大作ではあるが、ストーリーの謀略そのものが滑稽すぎて、まさに007を思わせるような活劇調は大味かなぁ。テクニカルな面での目玉になっていたELF(Extremely Low Frequency、3Hzから30Hzの極超長波)はなかなか面白い着想でした。
 抜き書きは、ニューヨーク州北部のSaranac Lakeにあるクラブ本拠地に乗り込んだときの会話。ちなみにトーラスは青のレンタカー、ヒュンダイもレンタカーの"アクセント"、ヴァンはスタンドのおやじの"くたびれたダッジ"。他には、殺害された監視スタッフ・ハリーのキャンピングカー(政府支給のポンティアック・グランダム、自前のトヨタ車も)などが出てくる。
※先月ブログのほうにleiaさんから「ご主人がネルソン・デミルを読んでいて"…BMWxxxの後部座席にカバンを…"なんて変な文がありました」とお知らせいただいて、たぶん最新作の本書かと思い読んでみたもの。残念ながらBMWは登場しなかったので『王者のゲーム』か『ナイトフォール』かしら?(2009.1.6 #576)


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