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DOILE, RICHARD /リチャード・ドイル

インペリアル航空第109便イスパノ・スイザ・ブーローニュ IMPERIAL 109 , (c)1947サンリオ

『1924年に初めて造られた当時、イスパノ・スイザ・ブーローニュはその贅沢さ性能ともに最高の車であった。息を呑むような12フィートのボディはチューリップウッドの手作りで、スイス製のシャシーにのせられ、有名な戦時中の航空機エンジンを8リッターに改造したものを動力とし、二度と達成される事のない機械工学と車体製造技術の頂点を具現していた。
 美しく木目塗りにされた赤茶色の木製のボディのどの部分も手で形作られ、車体の流れるような優雅な曲線にはめ込まれて、数インチおきに無数の真鍮の鋲で飾られ、そのために全体の効果は深みのある赤と黄金色の豊かな雰囲気を醸し、陽光の中で燦然ときらめく。
 九ヶ月前ファルークの宮殿のガレージを訪れたとき、デズモンドはずらりとならんだ最新式の列の陰に見捨てられ、朽ち果てるに任せられたイスパノに気づき、自分にそれを買い取らせてくれるように国王を説得した。以来、余暇の大部分は、スペア部品を捜しまわり、車を元の壮麗な姿に復元することに費やされた。
 しかし、いっさいを考慮に入れてみてもイスパノはずば抜けてすばらしいコンディションにある、と彼は車の下に仰向けに寝そべり、サンプ・ガードのボルトを締めながら自分に言い聞かせた。確かにこの車は15年を経過しているし、現在のドライエやジャガーの加速力はない。しかし直線路と策をひねる余地を与えられれば、強力なエンジンはおおかたの車のスピードと肩を並べられるし、何時間でも無理なく、疲れも見せずにそのペースを維持することができるのだ。』

--COMMENT--
なんと大戦前に4発の水上機カテリナが、南アフリカからニューヨークまで旅客と金塊を搭載して飛ぶ間におきる事件、さまざまな障害を描く大サスペンス。
航空ロマン派には欠かせない一冊。上記はその主人公たる英国人機長が経由地のカイロに置いていたイスパノについての思いいれたっぷりの一節であり、寄港中にこの車でロードレースに出場し優勝してしまうというおまけまでついているのがほほえましい。(94/12)


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