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Dun, David /ディヴィッド・ダン

氷雪のサバイバル戦ボルボNecessary Evil, (C) 2001佐和誠 訳、早川 2003

『頂上からの道を10キロほど降りた時、前方に雪をかぶった角型の車の後部が見えた。クローディー・ドナヒューのボルボに似ていた。一帯に認可されるナンバーからしてもその可能性は高い。この荒天に町から戻るというのも奇妙だ。雪道の場合、道つくりにトラックがセダンに先行するのが普通だ。なのにクローディーが道を譲りもしない。
 ボルボのスピードはさらに落ちた。ブリザードがあたりを白一色に染め、曲がり角を見過ごすのをクローディーが恐れているのかもしれない。しかし、ありえないかった。誰よりもこの一帯の地理に詳しいのだから。
 車を停止させようとキアはヘッドライトを何度も点滅させた。やっと彼女が合図に気づいた。ボルボにピックアップをならべ、シート上で尻を滑らせる。窓を開け、彼は顔を突き出した。
「なにかご用?」
ハンドルを握る女はせせらぎに輝く小石のように不思議な褐色をたたえていた。瞳がうるんでいて、褐色の髪の毛はさっとなでつけられ、末端できれいにカールしていた。金糸の刺繍のほどこされた黒っぽいセーター、バラのゴールド・ブローチをつけている。雰囲気はどう見ても都会のものだ。ミル・ヴァレーではお目にかかったこともない洗練された香り、それがこのブリザードのなかで出逢うとは。』

--COMMENT--
新刊案内のタイトルから推して「冒険もの」らしかったのでさっそく手にした。バイオ産業の犯罪を背景にした、昨今では珍しい“本格アドヴェンチャー”だった。カリフォルニア州北部の山岳地帯に墜落したビジネスジェットを調べにでかけた、アメリカ先住民獣医とFBI女性捜査官が事件に巻き込まれていく・・・ この二人の出会いが上記の引用部分。
 うーん、翻訳がやっつけというか、とても読みにくかったのが残念。('03.7.30)

鷲の眼コルヴェットの67年モデルOVERFALL, (C) 2003田中昌太郎 訳、早川 2004

『サムは外に出てグレイディを待った。やがてジーンズとTシャツ姿で出てきた彼女は別人のように美しかった。しかし、表情と顔立ちはいささか険しかった。二人はサムのメタリックブルーのスポーツカーに乗り込んだ。
「いい車ね。コルヴェットの67年モデルでしょ?」
「そのとおり」
「ボンネットの下は半端じゃない?」
「うん」
「見かけも感じも普通じゃないわ。どんな改造なの?」
「427可変ブーストL88ターボエンジンに、スーパーチャージャーがついているから、750馬力まででる。それに6段変速のトランスミッション、サスペンションのチューン、アイバックのスプリング、ビルシュタインのアブソーバーを加えた。さらにロールバーで車体を補強し、ブレンボのブレーキがついている。それだけじゃない、おかげでエアコンがきかないんだ。だからだろうな、友達はみんなこれを"青い地獄"と呼ぶ」
 彼は話さなかったが、窓はポリカーボネイトで、たいがいの銃弾を通さないし、ドアは内側にスチールと防弾服にも使われるケブラーが張られていた。』

--COMMENT--
このごろ何故かスーパー・ヒーローの華麗アクションものに出くわすことが多い。秘密調査の専門家サムは、アメリカ先住民の混血で、コンピュータ・サイエンスの博士号をもち、引用に出てくるようなコルヴェットや、<全長48フィートの特注クルーザー>をシングルハンドで操り、国内の移動は小型ビジネスジェットのホーカー700、辺地へは水上機ビーヴァー、必ずツインタービン以上のヘリにしか乗らない…。
 もうこれ以上はないという豪華仕立て!! これがひところ前の著作かと思いきや、昨年発刊されたばかりものだったので、さらにあんぐり。(2004.9.22)

破壊計画「コルジセプス」コルヴェットUNACCEPTABLE RISK (C) 2004田中昌太郎 訳、早川 2006

『サムは"青い地獄"と呼ばれている彼の改造コルヴェットを降り、脚を伸ばしてからハリーを連れて倉庫を横切り、今度はベージュのフォード・トーラスに乗り込んだ。ハリーは助手席側の床に座った。とっくにそう躾けてあったのだ。
 助手席には息子のものだった黒い革のバッグが置いてあった。サムはその中に手をいれ、なんとなくハロウィンの仮面に似た、だがもっとずっと手の込んだしろものを取り出した。彼はそれをかぶり、皺をのばしメーキャップをして、そのプラスチックの頭のてっぺんの銀色の髪をなでつけてから、そこに庇の広い古い帽子をのせ、黒いサングラスをかけた。
「どうだい?」というと、ハリーがくんくん鼻をならした。
サムは倉庫から車を出して、空中のヘリコプターを捜し、尾行をチェックしながら商業地区をくねくね走っていった。連中があの小屋で彼を殺そうとしてから一週間がたった。ゴーテがメキシコに行ったという情報があり、万一の僥倖をあてに、サムは彼をつかまえに行ってきたのだった。』

--COMMENT--
 前作『鷲の眼』と同じくスーパーヒーロー?!調査工作員サムの大味ド派手冒険アクションもので、私にはいまいち。車も前作と同じコルヴェットとなっていた。(2007.11.28 #523)


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