lagoon symbol
DURHAM, GUY /ガイ・ダーハム

ステルス陽動作戦ジャガーマークIISTEALTH, (c)1989文春、1990

『彼は納屋へいき、油のきいたローラーに乗った押し戸を開け、車にかぶせたポリエチレンの防水シートをはいだ。現れたのは古いジャガー、よく手入れの行き届いた、ぴかぴかと光沢を放つマークIIである。
プレトリアスはある時近所の農家の庭で、それが朽ち果て、ただの置物とかそうとしているのを見つけた。もう10年も走らせていないと持ち主の農夫はいったが、赤銅におおわれた下のボディはしかりしていそうに見えた。プレトリアスがそのがらくたに百ポンド払おうと持ちかけると、相手は喜んで承知し、彼に飛びきりの好運が訪れるようにと祈ってくれた。 それからまる1年かけて、プレトリアスはジャガーの手入れに精を出した。
 ひと皮むけばプレトリアスは筋金入りのトラディショナリストだった。絵画ならターナー、ピアノはセロニアスモンクで止まっている、そう信じていた。
 彼はジャガーをA380号線に乗り入れ、すぐにM5に乗り換えた。広々とした高速道路にでると、アクセルを床につかんばかりにぐっと踏み込む。一気に加速したジャガーはまるでウェットソープを垂らしたように路面にはりつくかに見えた。
 かれはダッシュボードの下にかくしたプレーヤにカセットを入れた。ジューン・クリスティのヴォーカルが車内に満ちた。冷たくこうらしたウオッカコリンズのように、軽やかで完璧な声だ。曲はライオネル・ハンプトンのミッドナイト・サン。ハウハイザムーンの曲調を変えてつくられたメロディーに、ジョーニー・マーサーの珠玉の歌詞が彩りを添えている。・・・・』

-- COMMENT --
 元アメリカ国防情報局の工作員だったが今は英国の田舎で静かな日を送る主人公プレトリアスの車に対する愛着がよく解りますね。こんな状況ではまさにマークZははまり役すぎと言えます。
ストーリーの方は、当然彼をそのままにしておかず、過酷なおとり作戦に駆り出して進行する。 他にも中央情報局長官の特別製の4WDセダン、国防情報局の作戦車などがどんどん登場し、かつ描写も精致でなかなかのもの。
 ハードボイルドタッチのスパイものといえるが、リズム感の薄い展開が惜しまれる。(91/02)


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