ELLROY, JAMES /ジェイムズ・エルロイ
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ブラック・ダリア | パッカード | BLACK DAHLIA, (c)1987 | 文春,1990 |
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『私は写真をしまうと、十秒数えてから女のあとを追い、ちょうど彼女が車のドアにキーを差し込むのが見えたところで、私も自分の車のところに達した。彼女の車は、私の車から2台分前に駐車している純白のパッカード・クーペだった。それが走り出すと、私は5秒待ってから追跡に移った。
ヴェンチュラ・ブールバードからカフェンガ・パスへ、それからハリウッドへと、尾行を続けた。
パッカードはミュアフィールド・ロードの角を曲がると、フットボール・フィールド並の広さの芝生の前庭をそなえた、チューダ様式の大邸宅の前で駐車した。私はそのまま走り続け、ヘッドライトがバックナンバーを捉えた。CALRQ765.バックミラーを覗いて、女が運転席のドアをロックしているのを見届けた。離れていても、シャークスキンのスーツですっきりと装った姿は目立った。
私は公衆電話を見つけ、陸運局の夜間回線にダイヤルして、白のパッカード、CALRQ765の持ち主と犯罪記録を調べるように頼んだ。5分近くも待たせてから、係員がリードアウトを読み上げた。
マデリン・スプレイグ、白人女性、25年11月14日生まれ、逃亡中にあらず、逮捕歴なし、犯罪歴なし』
--COMMENT--
“私”とはロス市警の警察官であり、ブラック・ダリアとよばれる女性の猟奇殺人から端を発しているので、刑事もの犯罪小説の分類には入るのだろうが、なんとも壮絶でアメリカ社会の暗部をさらけ出すような筆太のタッチと筋立てに引き込まれてしまいました。
なるほど90年の海外ミステリベスト3(JICC)に入っている作品だけのことはあります。
事件の鍵をにぎる女性の車が、上に出てくる白のパッカード・クーペであり、ロスの不動産開発業者の娘が使うにはお似合いであるといえます。(92/02)
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