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ELTON, BEN  ベン・エルトン

ポップコーンランボルギーニ、レクサス、シボレーPOPCORN (c)1996早川書房 1997

『最後の角をまわって、邸の正面で静かに停車したとき、、ジェイの予感どおりショッピングモール殺人犯がここに来ていることをを、ふたりともすぐにさとった。邸宅の前に三台の車がばらばらにとめてある。ブルースのランボルギーニ、ナンバープレートにFARRAHの銀文字のあるファラのレクサス、それに57年式の大型シボレーのポンコツ車だ。
すこぶる慎重にクロフォードがギアをリバースにいれ、バックで角をまわって、邸から見えないところに車を止めた。
「ジェイ刑事より本部へ」ジェイが興奮を抑えようと努めながら無線にささやいた。「緊急支援を要請」ジェイがそういうかいわぬかに、彼らの背後と上方からうなりが聞こえ、それはたちまち轟音になった。ふたりはふりかえってリアウインドーごしに外を見た。「なんてこった!」クロフォードが叫んだ。「早すぎるぜ」
トラックと乗用車の大軍団が表門から突入してくる。さまざまなテレビ局のマークをつけた車もあった。そのなかにはロサンゼルス最高の局のものもいくいつかある。上空を旋回する二機のヘリの回転翼の音がこの不協和音に加わる。どちらもメディアのヘリだ。警察のヘリの手配はもう少し時間がかかるが、間もなく到着するだろう。
刑事ふたりが車から眺め、ウェインが窓から眺めるうち、長いドライブウェーを突進してきた大軍団は、みごとな芝生の上でドラマチックに展開し(スプリンクラーを踏みつぶして)、何百人もの人間を車から吐き出し始めた。ジェイとクロフォードがついいましがたまで楽しんでいた静かさは三分間もしないうちに過去の記憶になってしまった。壁という壁、生け垣という生け垣のうしろに狙撃手がひそみ、見通しのいい場所はすべてニュース・リポーターと彼もしくは彼女のクルーに占領されている。この場に欠けているものといえば、何か事件が起こってニュース・カメラがまわっているときには必ずうしろでニタニタ笑って手を振る野次馬だけだ。』

--COMMENT--
 英国推理作家協会ゴールド・ダガー賞受賞、『98このミス』16位ということで手にとった作品だが、もう文句なく爆笑保証のブラックユーモア・スリラーだった。 しかしだだコメディーだけというのではなく、犯罪と道徳、メディアの横暴などけっこう考えさせられるテーマが含まれている。上記は、ショッピングモール殺人犯カップルが忍び込んだアカデミー賞受賞の映画監督の邸宅に警察の手配より先にテレビ各局が駆けつけるシーン。監督のランボルギーニ、その妻のレクサス、殺人犯のシボレーのポンコツ車はまさにぴったしの設定ですね。(98/01)


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