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ERDRICH, LOUISE and DORRIS, MICHAEL /ルイス・アードリック

コロンブス・マジックシボレーTHE CROWN OF COLUMBUS, (c)1991角川,1992

『滑りやすいクラッチペダルは嫌いだ.車というのは自分自身の延長物.世間に示す、いわば“四輪の顔”である.他者を惹きつけ、必要とあらば他者から守ってもくれる、頼みの体外骨格.車は持ち主を語る.車はメッセージであり、手段は目的を正当化する.飛行機で出かけたときは、愛車サーブに乗れなくなるが、その場合は上等のレンタカーに惜しまず金をだすほうだ.
 午後も遅くに僕らが店を訪ねていくと、クロックは、多額の小切手と引換に、僕が、ガールフレンドの公立高校三年生主催のダンスパーティへ乗っていったのと同じ車を差しだした.黄褐色で広々としたその車はシボレーのようでもあり、タイヤはトレッドパターンがなくつるんとはれた内管のようだった.前のベンチシート、こんな懐かしい言葉をよくぞ覚えていたものだ、の布地は、恋や情熱、尻ポケットにナイフを忍ばせた乗客、灰皿などなきがごとくに煙草を吸う運転手、それらさまざまの物語が染み込んでいるようだ.走行距離は、なんと九万七千マイルを示していた.
 「まず」シドニーは良心的にも欠陥について説明した.
「ボンネットとトランクを同時に開けることはできません.どちらも支えがいるので」
彼はつっかい棒の流木を取り出すと車の前と後ろの口がぱっくりと閉じてしまうのを、それがいかに防ぐかを実演してみせた.
「スペアタイアは修理中なもんでして」と悲しげに言い添える.「エンコしたときは、いつでも連絡して下さい」』

--COMMENT--
コロンブス直筆の日誌の謎を追って、バハマへ渡った学者夫妻が出くわす車のシーン。
五百年前の新大陸発見の意味を先住民の立場から問直す歴史的謎ときを軸として物語がすすむため、少々重い展開なのが残念。(93/03)


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