lagoon symbol
Evanovich, Janet/ジャネット・イヴァノヴィッチ

私が愛したリボルバーノヴァONE for the MONEY (c)1994細美遥子訳、扶桑社1996

『アパートに鍵をかけ、セント・ジェームズ通りを三ブロック歩いてブルーリボン中古車センターに行った。センターの正面に500ドルのノヴァが鎮座して、買ってちょうだいと懇願していた。全身の錆と無数の事故のおかげで、ノヴァはとても車とは見えず、いわんやシヴォレーとは見えなかった。ブルーリボンは、快くこのポンコツをあたしのテレビとラジカセと交換してくれ、さらにフードプロセッサーと電子レンジとひきかえに、あたしの登録料と税金をはらってくれた。
あたしはノヴァを運転してセンターから出ると、まっすぐヴィニーのところへ向かった。ハミルトン通りとオルデン通りの角の駐車スペースに車を止め、キーを抜いて、車の揺れがおさまるのを待った。誰か知り合いに見られませんようにと短く祈りながら、車のドアをこじるようにあけ、建物の正面にあるオフィスまでの短い距離を足早に歩いた。』
--COMMENT--
 ユーモア・ミステリとは、こういう作品を言うのか!!! まさに、ページ毎ににんまり笑う登場人物、会話、描写がでてきて、あまり楽しみすぎて読むのに疲れるほど。
ユーモア・ミステリに贈られるラスト・ラフ賞受賞作家ものを探してみつけたこのイヴァノヴィッチは、もともとロマンス小説を書いていたそうだが、CWA優秀処女長編賞を獲得した初の犯罪小説。
イタリア・ハンガリー系移民のバツイチ、ステファニーは、失業してやむなく保釈逃亡者探しのバウンティ・ハンターになる。それまで乗っていたマツダ・ミアータは月賦が払えず回収されてしまい、上記のノヴァを手に入れたが、ご想像のとおりのクルマで、オイル漏れがひどくてストーリーが展開していくなかで何回もオイル継ぎ足さざるをえない。ステファニーを助けてくれるバウンティハンター仲間は黒のメルセデス・ベンツ、勝手に借用してしまう逃亡者のクルマが真新しい赤とゴールドのジープ・チェロキー、その他、トヨタの黒の四輪駆動車、ダークブルーの最新式フォード・エスコート、ニッサン・セントラなど車に関する書き込みも大変楽しい。(1998/12/26)

あたしにしかできない職業ビュイックTWO for THE DOUGH (c)1996細美遥子訳、扶桑社1997

『もらいもののあら探しをするのはなんだが、本心をいうと、サンダーおじさんの車はもらいたくなかった。それは実に1953年もののパウダーブルーのビュイックで、屋根はぴかぴか輝く白、ホワイトウォール・タイヤはトラクターにぴったりというほどでかく、きらきら輝くクロムの窓がついている。形も大きさもシロクジラそのもので、おそらくガソリン一リットルで二キロ半しかもたないだろう。
「それはだめよ」あたしはお母さんに言った。「申し出はありがたいけど、あれはメイザおばあちゃんの車だもの」
「メイザおばあちゃんがあんたに使ってもらいたがっているんだよ。あんたの父さんがもうそっちに向かってるよ。りっぱに動くよ」
はるか遠くで巨大なエンジンがずうずうしくガソリンを喰らう音が、駐車場に届いてきた。あたしはアパートに身を寄せて縮こまり、あれがビュイックの近づく音ではありませんようにと、はかない願いを抱いた。
丸い鼻面のカバそっくりの車が角を曲がってくるのが見え、あたしの心臓はピストンみたいにはげしく打ち始めた。そう、それは全身ぴかぴかで錆ひとつないビュイックだった。サンダーおじさんはこの車を1953年に新車で購入し、ずっとショールーム展示状態を保たせてきたのだ。』
--COMMENT--
 イヴァノヴィッチのステファニー・シリーズ第二作目も、感激ものの面白さ。原書タイトルが作品番号になっているのもしゃれている。
こんど担当する保釈逃亡犯もなかなか捕まらず、逆にステファニーやメイザおばあちゃんに危害を加えようとする始末。前作のノヴァの次に買った元ピザの配達車だったジープ・ラングラーが盗難にあってしまい困っていたところに、クラシックなビュイックを押しつけられてしまう。なにしろ車がからむシーンも多くて楽しめるが、ステファニーの恋人?の警官のフェアレーンを潰してしまったり、葬儀屋のリンカーン、逃亡犯のツートンカラーのシボレー・サバーバンなどが登場する。
とくにステファニーと家族の母、父、おばあちゃんのキャラクターがもう絶妙で、会話の一言づつおかしく楽しい。彼女をよぶのに、『ベイビー』はいいほうで、『カップケーキちゃん』とか『クッキーちゃん』とかでてきて、ちょっとセクシーで下品な言葉使いが多く原書で読めたらなぁ。(1999/01/05)

モーおじさんの失踪53年型ビュイックThree To Get Deadly (c)1997細美遙子訳 扶桑社1998

『ルーラはバッグの持ち手を腕にかけた。「ま、見てりゃいいさ」ルーラはあたしについて外の出た。「まだあの古いビュイックに乗っているのかい?」
 「そうよ。あたしのロータスはまだショールームのなかよ」
 実をいうと、あたしのロータスというのは夢見ているだけだ。二ヶ月前、あたしはジープを盗まれた。すると、あたしの母さんが見当違いの善意を炸裂させて、ほとんど強制的にん、あたしをサンダーおじさんの53年型ビュイックの運転席にすわらせたのだ。そしてあたしは、財力と気力の欠如のため、いまだに一マイルはあろうかと思われるパウダーブルーのボンネットの向こうを透かし見ながら、こんな車を乗り回さなければならないは何か悪いことをした報いだろうかと思い悩むのだった。
 一陣の突風が、ヴィニーのオフィスのとなりの、フィオレオ・デリカテッセンの看板をがたがた鳴らした。あたしはジャンパーの襟を引き上げ、ポケットのなかの手袋を探った。
 「少なくとも、このビュイックは調子はいいわ」あたしはルーラに言った。「大事なのはそこよ、そうでしょう?」
 「ふふん」ルーラは言った。「そんなことをぬかすのは、イカす車を持ってないやつだけだよ。ラジオはどうだい。ついているのはどうせろくなラジオじゃないだろ? ドルビーサウンドシステムかい?」
 「ドルビーじゃないわ」
 「ちょっと待った。まさかあたしがドルビーサウンドなしの車に乗るなんて思っているんじゃないだろうね。悪党をつかめに行くんなら、ホットなミュージックでその気にならなきゃ」』
--COMMENT--
 バウンティ・ハンターのステファニー・シリーズ第3作も、泣けてくるほど幸せになるユーモアたっぷり。保釈保証会社のルーラが新たに相棒になる以外は、父母・祖母そしてハムスターのレックス、ファッション、食べ物、彼氏の警官モレリ、舞台となるニュージャージー州都トレントンが引き続きいきいきと描かれる。そうそう、イヴァノヴィッチにとっては車も大事な舞台道具で、今回は、上記のビュイックからスタートし、中古車センターで一目ぼれしたニッサンの軽トラック(ダットサン・トラックでしょうね)をローンで購入して、何度もエンジントラブルを起こし、3回も修理するシーンが克明に描かれる。でも、結局は、ロケット弾の攻撃をうけ粉々になってしまう。作品ごとに違うクルマを登場させる心配りがにくい−次作はまた違うクルマが活躍するでしょうね! ほかには、逃亡者のホンダ、修理代車のマツダ、ルーラの赤いファイアーバードなどがしっかり出てくる。デビュー作がジョン・クリーシー最優秀新人賞、第2作が最優秀ユーモア・ミステリーのラスト・ラフ賞、本書はなんと1997年の英国推理作家協会CWAのシルバーダガー賞をとっている。やっぱり、並大抵の作家じゃないですね。』(1999/01/25)

サリーは謎解き名人ホンダCRXFOUR TO SCORE (c)1998細美遙子訳 扶桑社1999

『クンツはポーチに立ち、あたしが車に乗り込むのを見守っていた。
「イカすよな」クンツが声をあげた。「ヒヨコちゃんがスポーティなちっこい車に乗るっていいよな」
あたしはほとんどしかめ面に感じられる笑みをクンツに向け、車を歩道の縁石のところから出した。このCRXは二月に買ったものだだった。ピカピカの塗装と二万キロに達していない走行距離にだまされたのだ。新品同様だぜ、と持ち主は言った。ほとんど乗っていないも同然だ。そしてある意味では、それは本当だった。走行距離計のケーブルをつないだ状態ではほとんど乗っていなかった。だが問題はそんなことではなかった。値段は適当だったし、運転席に座るあたしはイカして見えた。最近、排気管の腐食部分が十セント玉大に広がったが、メタリカを大音量でかけていればマフラーの騒音はほとんど聞こえない。もしエディ・クンツがこの車をイカすということを知っていれば、これを買うのを考え直したと思うのだが。』
--COMMENT--
 待ちに待ったシリーズ4作目も、面白さ・楽しさ保証つきだったし、つくずく訳出のうまさ(きわどい"下品"なやりとりがとってもうまく日本文になっている)に感心。こんどは、男のクルマを盗んで訴えられた女を追うのだが、妙な暗号文が次々に現れ、それを解いてくれるのがドラッグ・クイーンのサリーで、これが邦訳タイトルになったもの。
 主人公ステファニーのこんどの車ホンダCRXは、CRXというだけで読者にわかるほど、北米で売れているんですかね? このCRXも、早々に火炎ビンが投げ込まれてバーベキューにされてしまいステファニーは車なしで困ってしまう。クルマがめったやたら出てくるが、多分、登場人物毎に必ず車の説明があるのだと思う。
依頼人の男の洗車したての白のシボレー・ブレイザー、女の同僚ウエイトレスの赤のイスズ、バウンティ・ハンター仲間の九万八千ドルのBMWと黒のレンジローバー、ステファニーの邪魔をする女の黒のチェロキー、セブンイレブンの店員の青のノヴァ、父親のパウダーブルーと白の53年式ビュイック、サリーのポルシェ、ステファニーの彼(刑事)の赤のドゥカティ、女の母親の古いぺこぺこのエスコート・・・・。なにはなくとも、車だけは欠かせないアメリカの生活なんですね。 (1999/09/05)

けちんぼフレッドを探せ!53年型ビュイックHIGH FIVE (c)1999細美遙子訳 扶桑社2001

『月曜の朝で、通りに面したヴィニーのオフィスの前をたくさんの車が通り過ぎていく。十月の空はニュージャージーに許されるかぎりの青空で、排気ガス不足の空気はさわやかだ。たまにはこういうのも悪くないが、呼吸してもスリルに欠けるともいえる。
 歩道の縁石に寄せて停めてあるあたしの53年型ビュイックのうしろに、新品の真っ赤なファイアーバードがすべりこんできた。その車からルーラは降り立ち、両手を腰にあてて首を振ってみせた。「おや、あんた、まだこんなポン引き専用車に乗ってるのかい?」
 ルーラはヴィニーの会社の書類整理係だが、もと売春婦だけあってポン引き専用車にとてもくわしい。彼女は穏やかな言い方をするなら大柄な女性で、体重は90キロをちょっと越すぐらい、身長は163センチ。体重のほとんどは筋肉のように見える。今週は髪をオレンジ色に染めていて、濃いこげ茶色の肌とあいまって実に秋らしい風景だ。
「これはクラシックカーなのよ」あたしはルーラに言った。二人とも、クラシックカーというのは蔑称だと知っている。あたしがこのバケモノ車に乗っているのは、前に乗っていたホンダ車が燃えて黒こげになって、そして新しい車を買うお金がないためだ。そういうわけで、目下あたしは、ガソリンをどか食いするカバのようなこの車を、サンダーおじさんから借りているのだ・・・・またしても。』
--COMMENT--
 待ちに待ってようやく手にした2000年アンソニー・長編最優秀賞の<ステファニー・プラム・シリーズ>第5作も、期待たがわず保証つき面白さ。ステフと彼女をとりまくへんてこな連中の壮絶なユーモアは絶好調。捕まえるのにてこづった"小柄な"保釈逃亡者ブリッグズもとてもいいキャラクターだった。
 登場車は引用文にあるとおり、シリーズでちゃんと連続性があって、またまたたくさん出てくる。バウンティー・ハンター仲間の"黒のメルセデスS600V"、"つやつやと黒光りするレンジローバー"、呑み屋の"しょぼくれた茶色のダッジ"、ステフの彼氏の"いい車だが、クイーンサイズのベッドにはならない、トヨタの四輪駆動ピックアップ・トラック"、アルバイトのため使わせてもらったが"爆破されてしまうポルシェ・ボクスター"、挙動不信の銀行員の"褐色のトーラスとロータス"などなど。(2002/01/02)

わしの息子はろくでなしシルヴァー・ウィンド・マシンHOT SIX (c)2000細美遙子訳 扶桑社 2002

『レックスはスープ缶のなかで眠っていたし、おばあちゃんはトイレに入っていた。そこであたしは誰にも挨拶をせずに出かけた。駐車場に出て、シルヴァー・ウィンド・マシンを探した。そう、たしかにそれが見つかった。たしかにそれはロールスワーゲンでもあった。車体はひどく古いフォルクスワーゲン・ビートルで、前部はさらに古いロールスロイスだった。車の側面全体が玉虫色のような光沢をはなつ銀色で、そこに銀河のように夢幻的な青い渦が巻いている。そしてその渦のあちこちに星が散っていた。
 わたしは目を閉じて、ふたたび目を開けたときにはこの車が消えてなくなっていますようにと念じた。三つ数えて目を開けた。車はやっぱりそこにあった。
 あたしは走って部屋にもどり、つば広の帽子とサングラスを取って車のところに戻った。運転席にすべりこみ、シートの中で身を低くして大急ぎで駐車場から出た。こんなものがわたしのオーラを補足しているわけがない。そう心の中でつぶやいた。あたしのオーラは断じて、フォルクスワーゲン・ビートルの半分なっかじゃない。』
--COMMENT--
 シリーズ6作目(原題に必ず入っている数字でわかりやすい!)も、次から次へとステフに降りかかる災難に…ざっと10ページに1回ぐらい、ということは全編400ページだから40回ぐらい!!…どじを踏みながらもなんとかごまかしクリアして、めげない彼女の活躍ぶりがおおいに楽しめる。  今回は、恋人モレリ警部、バウンティ・ハンター先輩のレンジャー、保釈保証会社の整理係ルーラ…の常連のほかに、ステフを最初から最後までつけねらう犯罪組織のおかしな二人組と、自称ディーラーこと何でも屋のこれまたはちゃめちゃの二人組、ボブという大型犬が加わって、さらにノンストップ・ユーモアが倍加。  ステフの車…6年前のブルーのホンダ・シビックがまたも焼かれてお陀仏になり、やむなく上記のロールスワーゲンを借りる(これも衝突してお釈迦に)、犯罪組織の殺し屋は、はじめ黒のリンカーンそれから絨毯セールスの10年物のダッジ、そして家族用のミニバン、武器密売人のダークグリーンのジャガー、ステフのおばあちゃんの赤いコルベット、商売敵ジョイスの最新SUV、高校時代の女友達のシルバーのポルシェ・・・等々、作者のクルマ大好きがヒシヒシと伝わってくる。(2002/09/23)

怪傑ムーンはご機嫌ななめハーレーダビッドソンのFXDLダイナ・ロー・ライダーSEVEN UP (C)2001細美遙子訳 扶桑社 2003

『「おまえに貸してやれるバイクが裏に置いてある」ヴィニーが言った。「保釈金のかたに取ったばかりなんだ。そいつは金がなかったもんで、バイクをおれによこしたんだ。うちのガレージはすでにがらくたでいっぱいだから、バイクを入れることができないんだよ」
・・・・・
ルーラとあたしはバイクを見に出ていった。
「ちょっと気恥ずかしい気がするね」裏のドアをあけながら、ルーラが言った。「きっとこれ…ちょっと!、見てごらんよ。すっごいよ。ただのまぬけなバイクじゃないよ。こいつは大型バイクだ」
 それはハーレーダビッドソンのFXDLダイナ・ロー・ライダーだった。特注の緑色のフレームと特注パイプをつけた黒の車体。ルーラの言ったとおりだ。ただのまぬけなバイクじゃない。これは夢精をもたらす悪夢だ。
「こんなのの乗りかたを知ってるのかい?」ルーラが訊いた。
あたしは笑ってみせた。「ええ、そりゃもう」あたしは言った。「そうりゃもう」
ルーラとあたしはヘルメットをかぶり、バイクにまたがった、イグニッションにキーをさしこみ、キックすると、ハーレーはあたしの下でごろごろと震えはじめた。「ヒューストン、離昇します!」あたしは言った。それから軽いオーガズムに達した。』

--COMMENT--
 待ちに待ったシリーズ7作目も、もうかなりよいよいになっている元密輸煙草業者の老人を捕まえられずにきりきり舞いさせられたり、モレリとの婚約破棄とか姉が出戻ってくるなど山場がたっぷりで、めげない彼女の活躍ぶりがおおいに楽しめる。  今度のステフの車は、"黒のホンダCR-V"だが、案の定、すぐ衝突されてしまい、上記のハーレーを借りる羽目になる。すでに8作目のHard Eight (2002)が刊行されているそうだ。(2003/05/20)

やっつけ仕事で八方ふさがりホンダCR-VHARD EIGHT (C)2002細美遙子訳 扶桑社 2003

『あたしは起き上がり、こそこそと車にもどって、リモコンでドアをあけた。茫然自失状態で運転席に乗り込む。運動はもうたくさん。自動運転モードになって駐車場から走り出て、無意識に近い状態でハミルトン・アヴェニューへの道を見出した。アパートまであと二ブロックというところで、となりのシートに何か動くのが感じられた。そちらに顔を向けると、ディナー皿ほどもあるクモが一匹、あたしに飛びかかってきた。
「ギャアアアアッ! 何これ! なんなのよこれはっ!」駐車している車のえわきを掠めて縁石を乗り越え、民家の芝生の上で急停止した。ドアをあけ、車から飛び出す。
 最初の警官がたちがやってきたときも、あたしはそこらじゅう飛び回って頭をばさばさ振り立てていた。
「話をはっきりさせようじゃないか」警官の一人が言った。「そこの縁石のところに駐車していたトヨタ車を大破させた―当然あんたのCR-Vも大損害を受けたことは言うまでもないが―そんなことになったのはあんたがクモに襲われたからだって?」
「ただのクモじゃないわ。一匹じゃないのよ。それにすごく大きいの。突然変異のクモかもしれないわ。ミュータントグモの一団よ」
「あんたの顔には見覚えがある」警官は言った。「あんた、バウンティ・ハンターじゃないか?」
「そうよ、それにあたしはとても勇敢なのよ。クモが相手でさえなきゃね」』

--COMMENT--
 実家のとなりの老婆の孫娘を簡単に見つけるはずだったが、孫娘を追っているギャングからとことんマークされ、ありとあらゆる嫌がらせを受けてしまう。上記シーンはその一つで、クモが潜んでいたステフの車で大衝突と・・・と、ステフ絶不調がつづく。
 結局、ステフのCR-Vは、爆弾を投げ込まれ燃え上がり、次の代車で使っていたCR-Vもまた燃やされ、加えてレンジャーが大切に乗っていたピックアップまで同じく燃やされてしまう・・・もう無事な車は一台もない!!。さらに、ステフがギャングに追われて絶体絶命のタイミングに、彼女の母がビュイック・レザーブル??に乗って通りかかり、犯人を轢き飛ばすなんていう場面もある。 (2003/07/14)

お騒がせなクリスマスファイアーバードVISIONS OF SUGAR PLUMS, (C)2002細美遙子訳 扶桑社 2003

『「ちっくしょう」クエーカーブリッジ・モールの駐車場に車を乗り入れながら、ルーラは言った。
「この駐車場を見てごらんよ。限界を超える満杯だ。あたしも我慢の限界だよ。いったいどこに車を停めたらいいっていうんだい? ショッピングするのにあと二日しかないんだよ。なのに車を停めることすらできないじゃないか。だいたい、一番いい場所はみんな障害者用になっているってどういうことだい? これだけある障害者用スペースに障害者の車が停まっているの、見たことあるかい? ニュージャージーにいったいどれくらいの数の障害者がいると思う?」
ルーラは20分間、駐車場のなかを回ったが、駐車スペースは見つからなかった。
「見てごらん、このちびっちゃいセントラの鼻先がおんぼろピントにくっつきそうだよ」そう言いながらハンドルをきり、自分のファイアーバードの前のバンパーをセントラの後部バンパーから数センチのところに近づける。
「うっわー」と言いながら、さらにじりじりと前進する。「ほら、セントラがひとりでに前に動いて行くよ。おやおや、あのピントが走行車線まで出て行ってくれたお陰で駐車スペースがひとつできそうだよ」
「停まっている車を押し出しちゃだめよ!」あたしは言った。 「そんなことはないね」ルーラは言った。「ほら、もう停めちゃった」ルーラはハンドバッグを肩にかけ、ファイアーバードから出ると、ものすごい早足でモールの入口に向かった。
「やらなくちゃならないことがたくさんあるからね。2時半に車のところで落ち合うことにしよう!」』

--COMMENT--
 ステファニー・プラム・シリーズのクリスマス番外編として刊行されたもの。おもちゃ屋主人の追跡に、忽然と現れ消える謎の男が加わり、おもちゃ工場にはたくさんのエルフ(小人?妖精)が働いているというファンタジー仕立てになっている。
 バウンティーハンター事務所のルーラと、クリスマスの直前にプレゼントを買いにモールに出かけるシーンが笑えてします。今回も燃え上がってしまうステフのホンダCR-V、謎の男の黒いジャガーなどが登場する。 (2003/12/17)

気分はフルハウス緑色のミニバンFULL HOUSE, (C)2002細美遙子訳 扶桑社 2004

『生徒の大半は帰っていたが、まだ居残っておしゃべりをしている生徒も数人いた。おそらく初めての授業の感想を述べ合っているのだろう。厩舎の横の原っぱに残っている車に、ニックは目を向けた。「きみの車はどれだ?」
 ビリーはポケットを探って鍵束を取り出した。「あの緑色のミニバンよ」
ママさん車だ。そうニックは思った。小さい子ども達がいっぱい乗りこみ、げらげら笑って金属製の歯列矯正器を陽射しにきらめかせているさまが目に浮かぶようだった。後部座席にはきっと、動物クラッカーが散らばり、ウェットティッシュの箱も置かれているのだろう。
 ちょっと病院にひとっ走りしてくるだけだ。そうニックは自分に言い聞かせた。はいって出てくるだけだ、時間はかかるまい。それに、ビリー・ピアスにポロをあきらめるよう説得する最初のチャンスも得られるのだ。彼の手はいろんな厄介ごとでふさがっているし、この人生で一番必要ないものと言えば、それはビリー・ピアスのような女性なのだ。』

--COMMENT--
 著者の初期のロマンス小説"Full House"(1989)を手直しして復刊させた新シリーズ。ごく普通のバツいち2児つきの小学校教師ビリーに、大富豪で美男子のニックがなぜか惹かれてしまう。もう登場人物一人一人がけっさくで、ページごとに大笑いできる痛快ロマンスに仕上がっていた。  上記引用部分は、初めての実習でかわいくない馬に足を踏みつけられてしまったビリーをやむなくニックが送っていくかどうか迷っているシーン。ミニバンはクライスラー・ボイジャーあたりですかね? ニックのメルセデスは甥っ子に壊されてしまうし、社用に使っていたBMWも、ビリーに追突されてしまう。そう、車がつぎつぎ破壊されるのは、ステファニー・プラム・シリーズといっしょですね!? ニックの元カノジョの車は「白のジャガー」で、まさにそのキャラが想像できてしまう。(2004.4.13)

九死に一生 ハンター稼業ファイアバードTO THE NINES, (C)2003細美遙子訳 扶桑社 2006

『ルーラがモレリの家の前に車を停めた。ルーラは大きくて古い赤のファイアバードに乗っている。その音響設備は歯の詰め物が振動でゆるむほどの威力をもっていた。ジョーの家の玄関ドアは閉まって鍵がかかっており、あたしは家の裏側のキッチンにいた…それでもルーラが来たことは、エミネムの低音で不整脈が起きたことでわかった。
「あんまり顔色よくないよ」車に乗り込んだあたしにルーラは言った。「目の下に大きなくまができてる。それに目がすっかり充血してる。今朝こんなひどいありさまだってことは、昨夜よっぽどお楽しみだったに違いないね」
「昨夜麻酔ダーツで撃たれたのよ。その後遺症で、今朝の4時ごろまで眠れなかったの」』

--COMMENT--
 シリーズでいうと『やっつけ仕事で八方ふさがり』以来の3年ぶり−待ちくたびれました(^○^) 引用のところのダーツで撃たれたり、もう散々な目にあわされるステフと、親密度をますモレリや、得体の知れないのレンジャーと彼のチーム、ステフの家族、バウンティー・ハンター事務所の連中など、もうとことん楽しめる。とくに、ルーラとコニーとで出かけたラスベガスでの騒動、ステフの姉ヴァレリーの出産シーンのまたまたの大騒動、ルーラの大ダイエット作戦など、腹の皮がよじれるほど…捜査事件なんてもうどうでもいいぐらい(@_@)
 ステフの"新品のお日様みたいな黄色いフォード・エスケープ"(エクスプロラーのコンパクト版、マツダとの共同開発車、マツダではトリビュート)、失踪したインド人の"グレーのニッサン・セントラ"、モレリの"もとはダークブルーだったが今は色あせて何色とも言えないクラウン・ヴィクトリアの警察車"、レンジャーの"つややかに光る新品の黒のポルシェ、黒のダッジ・ラム"、殺人ゲームに加わっていた男性の"94年型青のホンダ・シヴィック"など…(2006.4.26 #411)

気分はフル回転!ヴィンテージ・マスタングFULL TILT (C)2003細美遙子訳 扶桑社 2007

『ジェイミーは言った。「わたしも車のことはちょっと知ってるものだから」
「へえ、そうかい?」マックスは興味をそそられたようだった。
「父が以前、うちのガレージでクラシックカーを復元していたの。わたしが今乗っているヴィンテージ・マスタングはわたしが父を手伝って組み立てたものなのよ。実を言うと、それはショールーム・フロアから外に出た最初のものの一つなのよ。1964.5バージョンといわれるものよ。当時はクーペタイプとコンヴァーティブルしか市販されていなかったの。わたしが乗っているのはコンヴァーティブルよ」
マックスは赤信号で止まったときに、しげしげと彼女を見つめた。』

--COMMENT--
 ロマンス小説「フル」シリーズ2作目。田舎町の地方新聞の女性オーナー・ジェイミーと、天才?!実業家で大富豪のマックスが選挙がらみの事件に立ち向かう。前作『気分はフルハウス』と較べると、普通のユーモア・ロマンスものになっていて"プラム・シリーズ"ほどはひねりとパンチが薄味。
 引用はジェイミーが、マックスに出会って彼の車(マックスモービルとかいって、ヘンなロボット・カー)に乗ったときのシーン。(2007.11.3 #520)

あたしはメトロガールミニ・クーパーMetro Girl (C)2004川副智子訳 ソフトバンク 2007

『「じゃ、みんな乗って」とあたしは言った。「この小柄な坊やの実力を見てやりましょ」
 あたしは運転席に座った。子どものまま成長が止まったスポーツカーに乗っているような気分だった。内装は黒のなめし革、バケットシートも黒のなめし革だった。見かけによらず座り心地は快適。視界は最高。キーをまわしてアクセルを踏むと、車が前に飛び出した。あたしがふだん乗っているのはフォード・エスケープだ。エスケープに較べるとこのミニ・クーパーはターボチャージャーつきのローラースケートといったところ。
 通りの角まで一気に突っ走り、ブレーキをかけずに左折した。
 ローサは両手でダッシュボードにつかまっていた。「勘弁してよ〜」
後部座席から滑り落ちたフッカーは、もう一度座りなおすとシートベルトに手を伸ばした。
「カーブの切れが夢のようにいいわ」あたしはふたりに教えてあげた。
「ああ」とフッカーが応じた。「きみの運転は悪夢だけど… この馬車の手綱をおれに譲るつもりはないんだろうね?」「ないわ、全然」
 あたしはコーズウェイ橋を渡ってマイアミ市街にはいり、混んだ通りをすいすいと走るミニ・クーパーの感覚を愉しんだ。この車はハチドリみたいなハンドル操作ができる。信号で空中停止し、ぴゅんと飛び出し渋滞する車の波をぬって走れるのだ。
 あたしの人生は真実は、車の運転が大好きだということ、それにたぶん、保険会社で働くよりトラックの運転で生計をたてていたほうが幸せだっただろうということだ。』

--COMMENT--
 父親のサービス工場で育ち玄人はだしのメカニックで、ストックカーレースにも出ていたという車好きバーニーこと、アレクザンドラ・バーナビーの新シリーズ第一作。失踪した弟を探し出すために出かけたマイアミでこれまたNASCARグランプリ・レーサーと一緒にキューバ離島にかくされた金塊と物騒な爆弾にからむ事件に巻き込まれる。楽しくお色気たっぷり、そして元気なアクション&トークはステファニー・プラムのキャラをほぼ踏襲していている。マイアミ、キーズを舞台にするお好みフロリダ・ミステリに仕上がっているなぁ。
 引用は、弟のミニ・クーパーを見つけ出してぶっ飛ばすシーン。最後まで本職レーサーのフッカーはハンドルを握らせてもらえない! フッカーのポルシェ・カレラ、巷の車としてスバル、ニッサン・セントラ、"ピンクに塗った車体にパウダーブルーでヤシの木と、蛍光色の緑ででかでかとPiZZA TiMEと描いてある年季の入った配達車のフォード・エスコート"、NASCARチームの18輪トランスポーターや全長18mのサンシーカー・プレデター・パワーボートなどが登場する。(2008.4.19 #541)

カスに向かって撃て!ビュイック・ロードマスターTen Big Ones (C)2004細美遙子訳 集英 2008

『あたしのサンダー大伯父さんは、老人ホームにはいるときに、愛車の53年式のパウダーブルーと白のビュイック・ロードマスターをメイザおばあちゃんに譲った。メイザおばあちゃんは車の運転はしないので(少なくとも法律上は)、その車はたいてい父さんのガレージに鎮座している。これは8キロ走るのに1ガロンのガソリンを食うしろもので、四輪のついた冷蔵庫みたいな走りをする。そしてあたしのセルフイメージにはまったく合わない。あたしとしては、レクサスSC430のほうがずっと似合うと思っている。ただ、予算からみると、中古のホンダ・シビックがせいぜいのように思える。そしてあたしの銀行口座が許してくれるのは、フォード・エスケープがやっとなのだ。
「ジョーよ」あたしはみんなに言った。「警察に行かなきゃならなくなったわ。警察は、あたしの車に火をつけた男をつかまえたかもしれないと思っているのよ」
「チキンを食べに戻ってくるだろうね?」母さんが知りたがった。「それにデザートはどうするんだい?」
「ディナーは待ってなくてもいいわ。できたら戻ってくるけど、もし間に合わなかった残り物を貰っていく」あたしはおばあちゃんのほうを向いた。「エスケープの代わりが手に入るまで、あのビュイックに乗らなくちゃならないんだけど」 「好きにしていいよ」おばあちゃんは言った。』

--COMMENT--
 ステファニー・プラム・シリーズ10作は、デリ・マート連続強盗犯の顔を見てしまったばかりに手のつけようのないギャング団から追われる立場になってしまう。2年間も待ちましたが、読みきってしまうのが勿体ないぐらいハチャメチャ爆笑ぶりが健在。保釈保証会社の書類整理係りルーラは机仕事がいやでプラムの助手として活躍するは、祖母のメイザおばちゃんも益々出番が多くなるやら、結婚すると言い出すばついち姉のヴァレリー等々、登場者がそれぞれぶっとんいて楽しい。
 引用のビュイックは、第2-3-4-5作に引き続いての登場、中古を買った(9作目)フォード・エスケープは本書冒頭でそうそうに強盗犯に燃やされてしまう。レンジャーから借りるポルシェ911ターボ(後でポルシェ・カイエンヌに替えてもらう)、保釈保証会社社長のキャディラック・セヴィル、フリトスを食べ続ける女性の"青いホンダ・シヴィック"、ルーラの"赤いファイアーバード"、ギャング団の"クロムメッキのホイールカバーがぴかぴか光り、ウィンドを黒く塗った新品のリンカーン・ナビゲーター"、中古車屋から200ドルで買う"1ブロックほどの長さがあるかと思える紫色のリンカーン・タウンカー"…と登場車もゴージャス!? (2008.6.17 #549)

バスルームから気合を込めてサターンSL-2Eleven On Top (C)2005細美遙子訳 集英 2008

『あたしは部屋から出て、玄関ドアに鍵をかけた。エレベーターに乗って、1階の小さなロビーに出て、二枚組のガラスドアをおし開け、駐車場を突っ切って車に向かった。あたしが乗っているのは、ダークグリーンのサターンSL-2だ。このサターンは<太っ腹ジョージの中古車センター>の、本日のお買い得品だったものだ。本当のところはレクサスのSC430がほしかったのだが、太っ腹ジョージは、あたしの限られた予算ではサターンのほうが適正といえると考えたのだ。
 あたしは運転席に滑り込んで、エンジンをかけた。ボタン工場の求人に応募しにいくつもりだったが、それを考えると気分が落ち込んだ。これが新たなはじまりなのよと自分に言い聞かせてはみたものの、実際のところは悲しき終焉というように感じられた。ハミルトン通りに折れ、<テイスティー・ペストリー・ベーカリー>までの二ブロックを走りながら、ドーナッツをひとつ食べればもっと気分が明るくなるに違いないと考えた。  5分後、あたしはドーナッツの袋を手に、ベーカリーの前の歩道に立ち、モレリと向き合っていた。
「通りかかったら、おまえが入っていくのが見えたんだ」モレリはあたしの間近にたってあたしを見下ろし、ドーナッツの袋をじっと見つめた。「ボストン・クリームははいっているか?」そう訊いたが答えはすでに知っていた。
「幸せをくれる食べ物が必要だったのよ」』

--COMMENT--
 ステファニー・プラム・シリーズ11作は、バウンティ・ハンターの仕事に愛想をつかせて、ボタン工場だのクリーニング店だの、フライドチキン店<バケツのなかのめんどり>などに働きに出るが、ことごとく裏目の不運続き。バウンティ・ハンターに昇格した書類整理係りのルーラを手伝わされたり、ストーカーに追われて、サターンが燃やされたり、あまりのふがいなさにスィーツ断ちをしたり、姉のヴァレリーが結婚式当日蒸発したり…相も変らず究極の抱腹絶倒ぶり。
 登場車は、レクサスSC430(前作にも欲しい車として登場)とはかけ離れたサターン(保釈逃亡者にハンマーでめった打ちされてから放火され、最後は爆破されるとすさまじい)、レンジャーのポルシェはステフを乗せたまま大破、いつも応急で借りるサンダー大おじさんのビュイック、モレリのSUV(もちろんステフを狙っての爆破)、爆弾が仕掛けられないということでステフはドゥカティ・モンスターをレンジャーから借りる(よほどの男勝りじゃないと乗れないバイクですね)、追っていた真犯人の緑色のセダンにビュイックを何度も追突させ御用にするエンディングまで、さて何台車が炎上大破したか数え切れない。
 大した筋があるわけじゃないが、スピーディーなテンポ、無茶面白い登場上人物と会話、はちゃめちゃアクションの連続、各作ごとに変るステフの思い入れが新鮮など、いつまでも飽きないなぁ。(2008.10.28 #569)

モーターマウスにご用心シボレー・アバランチLTZMotor Mouth (C)2006川副智子訳 ソフトバンク 2008

『あたしたちは駐車場へ戻り、ゆっくりと一周した。フッカーは駐車場の車の2列目最後尾の車の後ろに停まった。そして、一台の車に目をつけ、にんまりとした。
「決めたぞ、あれだ」
 あたしはフッカーの視線の先を追った。ウェボから贈られたスパンキーの車だった。赤くぴかぴかに輝く新車、シボレーのSUT車、アバランチLTZ。割増料金を払って入手した特別のナンバープレートは<DICK69>。書類に書いたときはさぞ洒落て見えたことだろう。
「スパンキーの車がこんなところで何をしてるのかしら」とあたしは言った。
「ウェボから招待されたんだろ。二、三日ヨットでくつろいでくれたまえってさ」
あたしたちはSUVからミスター・ウェボ(の死体、引用者注)を引っ張り出して、スパンキーのSUTのカーゴエリアに乗せ、車の背後の道路と向き合うようにして立てひざにして座らせた。ドライブに出かけるのを待っているみたいに見える。
「この死体、なんだか変」ローサがつぶやいた。「この角度からだとよくわかる。絶対そうよ、あそこがたってる」
「これ、死者を敬う気持ちを忘れちゃいけないよ」フェリシアが言って、十字を二回きった。』

--COMMENT--
 バーナビー・シリーズ第2作は、NASCARレース車ドライバーとの無線連絡係り"スポッター"になったバーニーが競争チーム車から謎のコンピュータ・チップを発見し、殺人事件がからむ不正をエースドライバーのフッカーとともに追う。とことんドタバタのエンターテイメントではあるが、レース・チームについて、マシンやトラクションコントロールの話題、トランスポーター、ドライバーとクルーの動き、NASCAR各チームがノースカロライナのシャーロット近郊に集結している…などファンには堪らない内幕がぎっしりと詰め込まれていた。
 フッカーの"黒のシボレー・ブレイザー"、チームのしがないスタッフの"コルヴェットを離婚で妻にとられ代りに使っている錆の浮いたジープ"、優勝ドラーバーのスポッターの"ブルーのレクサス"、GMハマーにおかまを掘る暴走モーターコーチ、ローサの"リアスポイラーをつけ、蛍光塗料で炎がボディ全体に描かれたトヨタ・カムリ"などド派手な車がたくさん登場する。(2009.1.30 #580)

あたしの手元は10000ボルト黒と白のミニクーパーTwelve Sharp (C)2006細美遙子訳 集英 2009

『「なんかあたしにできることはある?」
「あんたは自分の仕事をしてくれていればいい。そうすればやつがあんたに対して行動を起こす機会があるだろう」レンジャーはテーブルから携帯電話を取り上げた。
「おれに連絡する必要が生じたら、この電話を使え。おれの番号は登録してある。それから、常に非常ボタンを携帯するようにしてくれ。あれはレンジマン社のネットワークに繋がっている。あんたがあのボタンを携帯しているかぎり、追跡できる。」
あたしはテーブルの上の車のキーを見た。
「おれは青のホンダ・シビックかシルバーのBMWセダンかトヨタ・カローラに乗る」レンジャーは言った。「それからタンクは緑色のフォード・エクスプローラーに乗る」
「あたしは黒と白のミニクーパーに乗ってるわ」あたしは言った。そして狭い車内で膝をぶつけるのだ。
あたしはミニクーパーでオフィスに戻り、よく見えるように縁石に寄せて停めた。ステファニー・プラム、異常犯罪者のおとりの餌。』

--COMMENT--
 ステフ・シリーズ12作は、レンジャーの娘を誘拐した"偽レンジャー"をおびき出すために捨て身のおとりになる。同僚のルーラとメイザおばちゃんはロックンローラー・デビューをするし、保釈保証会社の人手不足でまたまた変な人材が活躍するなど、はちゃめちゃ滅法楽しめる作品に仕上がっている。これだけ続くシリーズで、毎回新しいトピックスの味付けができる〜飽きない〜のはさすが著者の力量でしょうね。
 前作ではサターンに乗っていたはずが、ステフの車はいつのまにかミニクーパーに。うーん、どっかで読みもらしてしまったか? いつも大破か炎上するステフの車が無事なのはとても珍しい。その替わり、ステフ自身がスタンガンで何度も気絶させれてしまう。ほかの登場車はだいたいいつも通りで、レンジャーのチームの黒のSUV、ルーラの赤いファイアーバード、保釈逃亡者の黒のハマーや黒いキャディラック・エスカレード、臨時のバウンティ・ハンターでステフの天敵の"赤とオレンジと緑の炎がかかれた黒のコルヴェット"などなど。ほかに、ヴァージニアのスプリングフィールドで乗ったレンタカーのGPSナビに悪戦苦闘したり、犯人が盗んだシヴィックに乗せられたステフが「この次はレクサスを盗んでね、乗り心地本当にいいって聞いているわよ」と言ったり…。(2009.7.23 #602)

勝手に来やがれおんぼろのビートルPlum Lovin' (C)2006細美遙子訳 集英 2010

『トレントン警察署は市内の犯罪多発地帯として知られている地区にある、赤レンガづくりの箱みたいな建物に入っている。パトカーは有刺鉄線で囲まれた鍵つき駐車場に停めること…という命令が出されている。残念ながら、コニーもあたしもその駐車場に入れる資格をもたないので、路上駐車をせざるをえなかった。つまり、チョップショップ(盗んだ車の部品を売る店)の斥候ども用のスーパーマーケットとなりかねなかった。
 コニーはこういうときのために用意してあるおんぼろのビートルで乗り付けている。あたしはグローブボックスからにせのアンテナ2本と、にせダイヤモンドをちりばめた大きな十字架を取り出した。ミラーに十字架を吊るし、ルーフラックにアンテナを突き立てる。近寄ってよく見なければ、車上荒らしを見つけたら殺しかねない麻薬の密売人の車だと思ってくれるだろう。』

--COMMENT--
 原題に出版の番号がつく本編シリーズではなく、いわばセレブレーション・シリーズ(当方が勝手につけた名称)の第2作となる。『お騒がせなクリスマス』(2002)に続き、バレンタイン・デーにひっかけ、キューピッド役を押しつけられたステフが活躍するコージー・ミステリで240ページほどの薄く軽目の作品。ボタン工場に勤める35歳女性の「処女をうまく失うための苦悩!」など登場人物の面白さはまた格別。
 引用には、物騒な下町に駐車しなければならない時の盗難防衛秘策が出ており、この手の対策が何回もでてくるのでアメリカでは余程大変なことらしい。ステフの"黄色のフォード・エスケープ"はこれまでも登場したクルマ、超能力??の仲間の"青いホンダ・シビック"などが登場する。(2010.4.19 #629)


作家著作リストE Lagoon top copyright inserted by FC2 system