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Ewan, Chris / クリス・イーワン

腕利き泥棒のためのアムステルダム・ガイドメルセデスThe Good Thef's Guide To Amsterdam (c)2007佐藤耕士訳 講談社 2008

『あの男はアパートの外でぼくを待っていた。ぼくは縁なしの丸いビーニーハットをかぶり、ウォークマンのヘッドホンをつけて、降り始めのどしゃ降りで滑りやすくなっているアパート前の階段を降りると、西に向かった。車が真横にぴたりと並び、古いメルセデスの大きな助手席からあの男が身を乗り出しているのを見て、はじめて手招きされているのに気づいた。ぼくはヘッドフォンを外して立ち止まり、開いたウィンドウに顔を近づけた。
「これはバーグレーブ警部補」できるだけ愛想のいい声でぼくはいった。「通りがかりですか?」
バーグレーブはぼくをにらみつけた。こっちのゲームにつきあう気はなさそうだ。「車に乗れ」ロボットみたいに平板な口調で、バーグレーブはいった。…中略…
「乗るんだ」バーグレーブはくり返した。
「ぼくは逮捕されるのかい?」
「いいから乗れ」
「ということは、今回は社交上の訪問というわけだ。残念だけど、今朝は予定があってね。またにしていれるかな?」』
--COMMENT--
 本業が弁護士の著者のデビュー作で、泥棒稼業兼、冴えないミステリー作家のチャーリー・ハワードがアムステルダムを舞台に、盗むのを依頼された<三猿像>にまつわる殺人事件を追う。泥棒古書店主ドートマンダー・シリーズのドナルド E.ウェストレイク風で気軽なユーモア・ミステリ。
 登場する唯一の車は、引用のしつこい警部補のメルセデスだけ。主人公とこの警部補のやりとりには、次のようなくだりも…
「アムステルダムにはどんな用件で?」
「本を書くためです」ぼくはそういって、原稿のほうに手をやった。「ミステリ小説の作家なんですよ。もしかして、あなたも読んだことがあるかも」
「ありません」メモをとりながらバーグレーブは答えた。「お国以外ではあまり人気がないのかもしれませんよ」
「日本じゃよく売れているんですけどね」「オランダは日本じゃありませんから」…
(2009.5.6 #593)


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