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FOLLETT, KEN /ケン・フォレット

第三双生児ダットサンTHE THIRD TWIN, (c)1996新潮社,1997

『ダウンタウン北部の白人労働者階級が住む地区を、錆びだらけの白いダットサンが走り抜けていた。その車は、ヘッドライトの割れたレンズをX字型にはった絶縁テープで固定していた。エアコンがあるはずもなく、窓は開け放されていた。運転しているのは22歳のハンサムな青年で、膝の上で切ったジーンズ、きれいな白いTシャツ、前に白い字で"警備"と書いた赤い野球帽という恰好だった。腿の下のビニール張りのシートは汗で滑りやすくなっていたが、気にする様子もなかった。
 信号で、ブロンドの女が運転するポルシェのコンヴァーティブルが横に並んだ。彼はにっこりとして、声をかけた。「いい車じゃない!」
女は何もいわずにそっぽを向いた。だが、口もとにかすかな笑みのようなものがのぞいた、と彼は思った。女は大きなサングラスをかけていたが、年は自分の二倍ぐらいと見当をつけた。ポルシェに乗っている女というのは、だいたいがそんなものだ。』

--COMMENT--
 さて、久かたぶりのケン・フォレットもの。大学キャンパスで起きたレイプ事件について、一卵生双生児の可能性のある犯人を追う心理学科助教授ジニーを中心とした遺伝子操作やインターネット、ソシオバイオロジー、M&Aと最新科学環境をふんだんに折り込んでいる。途中から、早いテンポのサスペンスが面白くなり、上下2冊を夜二日で読んでしまった。
 車も、主任教授の銀色のリンカーン、刑事の淡い青色のダッジ・コルト、ジニーの赤いメルセデス、大佐の黒いリンカーン・マークVII、ジニーの友達の白いホンダなどたくさん登場する。そういえば、すべてボディーカラーが書き込まれていますね。(97/11)

針の眼MGオープンカーEYE of THE NEEDLE (c)1978戸田裕之訳 新潮社,1995
『さらに三十分も握手攻め、キス攻めにあったあと、二人はようやく車にたどり着いた。そのMGのオープンカーには、デイヴィッドの従兄弟たちの手でいろんな悪さがしてあった。バンパーにはブリキの缶と古いブーツが長い紐でくくりつけられ、ステップは紙吹雪が山をなし、ボディのいたるところに、真っ赤な口紅で【新婚ほやほや】と書きなぐられていた。
通りにあふれんばかりの人たちに見送られ、二人は笑顔で手を振りながら車を出した。そして、一マイルほど走ったところで車を止め、ブリキ缶やブーツを外し、ペイントを拭き取った。
ふたたびエンジンをかけるころには、もう薄暗くなっていた。ヘッドライトには灯火管制用の遮断マスクがかかっていたが、デイヴィッドは委細構わず突っ走った。ルーシィは隣に座って、浮き立つような気分を味わっていた。』
--COMMENT--
 フォレットが29歳で書いたデビュー作であり、以前にも読んだが今年TVで映画(リチャード・マーカンド監督、ドナルド・サザーランド、ケイト・ネリガン主演)が放映されて、また読みたくなって手にした。ストーリーを読み進むと、映画のシーンが思い起こされたが、けっこう原作に忠実な映画でした。デビュー作でMWA賞最優秀長編賞を獲得しただけあって、ドイツのスパイ、イギリス軍のスパイ・キャッチャーそして、このスパイに翻弄される上記の新婚夫婦のトライアングルの関係がとてもスリリングで、またストーリー構成が緻密で楽しめた。
 二次大戦の大詰めとなるノルマンディー作戦の前夜が舞台となるイギリスなので、MG全盛の頃だ。ストーム・アイランドという孤島でデイヴィッドが乗る改造ジープ、スパイが逃避行で盗むのがブルノーズ?というモーリス、ロンドン警視庁公安部警部のサンビーム・タルボットと、懐かしい車たちが登場する。(99/09/19)

ハンマー・オブ・エデンシボレー・モンテカルロTHE HAMMER OF EDEN (c)1998矢野浩三郎訳 小学館,2000
『ジュディは拳銃をショルダーバッグに潜ませた。ベトナムの民族衣装であるアオザイを着る。丈の長いブラウス様の服で、小さな立ち襟に、両脇にはスリットが入っていて、ゆったりしたバギーパンツのうえに着る。普段着として気に入っているのは、着やすいからでもあるが、自分によく似合うと思うからだ。アオザイの白地に、肩までの黒髪と蜂蜜色の肌が映え、体にぴったりとしたデザインが華奢な体型に合っている。ふつうは職場には着ていかないが、遅い時間だし、どうせもう辞めるのだから。
 外に出た。歩道によせてシボレー・モンテカルロが留めてある。FBIの車だ。手放すのが惜しいとは思わない。弁護士になれば、いくらでもいい車、たとえばポルシェやMGなど、しゃれたヨーロッパのスポーツカーを買える。』
--COMMENT--
 初めて小学館から出版されたフォレットの近作。カリフォルニアの奥地にひっそり生活するコミューンがダム建設のため立ち退きを迫られて、ある奇想天外な脅しで州知事にその計画の撤回を求める。着想といい、筋立てがとても面白く、上記引用にでてくるFBI女性エージェントのジュディも魅力的で楽しめる。コミューンの連中が乗っているがたがたの71年型プリマス・クーダ(バラクーダです)、オレンジ色のスバルなども登場する。(2001/07/08)


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