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Grimes, Martha /マーサ・グライムズ

桟橋で読書する女The End of the Pier (c)1992黒いメルセデス秋津知子訳 文春 1994

『「ま、ヘブリディーズにはいるがね。あの猫を獣医に連れていこうと思っているのかね?」
「腫瘍がだんだん大きくなっているわ。わたしは連れていけないわよ。車がないもの」 「マークがあるじゃないか」
「あれは動かないわ、知っているじゃないの」彼女はサムがあの黒いメルセデスに惚れ込んでいるのを知っていた。モードがいったいどこであの古いメルセデスを手に入れたのかと。
「たぶん、問題があるのはトランスミッションだと、メインシリンダーだと思うんだが」メインシリンダー。この人は何の話しをしているんだろう?モードは自分頭のなかで燃えつきかけている、あるいは摩滅しかけているのは、メインシリンダーなのだろうかと思った。手にしたグラスに水滴がつき、彼女は樽の上にグラスをおくと、目を閉じ、杭に打ち寄せる水の音に耳をかたむけた。
サムは国道十二号線ぞいに住むポールという名のトランスミッションの専門家の話をしていた。きわめて腕がいいのだと。「しかも、目がまったくみえないんだ」サムはそういいながら、感嘆するように小さく首を振った。
 モードは、向こう岸の、まるで花のように寄り添ってうなだれているように見える踊り手たちから凝視を転じた。盲目の音楽家がいるのは知っているが、盲目のトランスミッションの専門家は知らなかった。』

--COMMENT--
スコットランドヤード警視ジュリー・シリーズのマーサ・グライムズは知っていたが、ノン・シリーズものとしては初の作品だそうだ。ミシシッピー州とアラバマ州の州境あたりの湖畔のさびれかけた避暑地に連続婦女殺人事件がおきるが、離婚した中年の女性モードと、彼女を守ろうとする保安官サムのほんのりとしたふれあいが素敵だ。
上記は、その一シーン。ちょっと、ぼくの好きなアン・タイラー作品に出てくるような感じの主人公像かしら。元の夫が一緒になったのが「トヨタの販売店のセールスウーマン・・」なんて段落もありました。(1998/08)


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