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GRISHAM,JOHN / ジョン・グリシャム

甘い薬害アコードTHE KING of TORTS (c)2003天馬龍行訳 アカデミー出版 2008

『クレイはホンダのアコードを施設のまえに止め、降りようかこのまま走り去ろうか思案した。重厚な両開きドアの上部に表札がかかげられていた。"デリバランス・キャンプ 立ち入り禁止・通り抜けお断り"。あるでなかをうろつきたがる人間がいるかのような書き方だ。たしかにこの辺りには得体の知れない者がうろうろしている。ドラッグでハイになったチンピラや、警官と渡り合えるほどの武器を隠し持ったならず者、キャンプにいる家族を訪問するために二人乗り自転車でやってくるお調子者、などなど。
 クレイは仕事柄、首都のどんな危険な場所にも足を踏み入れてきた。恐れてはいないというポーズをとるのにも慣れてきた。ぼくは弁護士なんだ。ぼくは仕事でここに来たんだ。公選弁護士を五年間もやってきて狙われたことなら何度もある。
 クレイは歩道に駐車することにしてアコードに鍵をかけた。車が街のチンピラたちに狙われないだろうかと、そのことがちょっと頭を掠めた。12年間も走っている中古車で、走行距離は30万キロにも達しているオンボロ車だ。持っていくなら勝手に持って行きやがれ、と彼は独り言をはいた。辺りにたむろしているチンピラたちが好奇の目をこちらに向けていた。2マイル四方に白人はいなさそうだ、と思いながらクレイは玄関のベルを押した。』

--COMMENT--
 アメリカで弁護士サスペンスのベストセラー、かつ"超訳、アカデミー出版"もので読みやすいのだが、公選弁護士の薬害集団訴訟の栄光への道と、まっしぐらの転落…というフラットなストーリー運びで私にはいまいち。
 公選弁護士からなかなか抜け出せない主人公の車が、抜き書きのアコード、薬害訴訟で成功して買った黒塗りのポルシェ。恋人だった宅地開発業者の娘のBMW、拝金弁護士たちのミーティング会場でセールスされる"メルセデス・コンヴァーティブル、コルベット・リミテッド・エディション、ベントレー、ポルシェSUV、ランボルギーニ"等々も出てくる。なお、原書タイトル"tort"は、人体・財産・名誉などが傷つき補償請求のできる不法行為、という意味で薬害を引き起こしたメーカーなどを指すが、不当な和解協議をした弁護士も対象になるというところが唯一のひねりのようだ。(2008.7.30 #557)


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