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HALL, JAMES W. /ジェイムズ・W・ホール

まぶしい陽の下でトランザムUNDER COVER OF DAYLIGHT, (c)1987早川 1990

『ソーンは一歩下がって、にやりとした。
「きみとケイトがモリネズミを一匹残らず救ったとする。でもその後、どうするんだい 一匹ずつ、小さなレジャースーツでも買ってやるつもりかい?」
 「まさか」セーラはそういって、目をぎょろりとさせた。
「あなたにだって買ってあげないわよ」
・・・・・・・
 ソーンはセーラについて外にでると、ポーチに立って、セーラが階段を降り、トランザムに乗り込むのを見守っていた。
その車はソーンを戸惑はせた。
セーラには似合わない感じなのだ。余りに派手すぎるし、強力すぎる。
 セーラが車をまわして走り出すのをソーンは手をふって見送った。そして、V8エンジンが低いうなりをあげて私道を走り去る音に耳をすませていた。その音がハイウェイのもの音の中に紛れて聞き取れなくなるまで、ずっとそうしていた。』
--COMMENT--
 フロリダ・キィーズを舞台にして、フィッシングガイドとフライ作りを仕事とする主人公のソーンが、環境保護運動に懸命な恋人のセーラの車について考えるくだり。
 おわかりのとおり、モリネズミ保護運動家の彼女の車としては、トランザムは余りにもイメージがあわない。この伏線は、物語の進行とともに二人の宿命的な過去に関わる結末へとつながる。
 著者ジェームズ・W・ホールの長編第一作ではあるが、私の大好きなエルモア・レナードを思わせる軽妙で、いききとしたプロット、アクションがすばらしい。(91/01)

大座礁コルヴェットHARD A GROUND (C)1993山岡訓子訳 講談社 1996

『「何かが起こっているわ。だから注意しておくのだけど、あなた自身も拳銃を買って手元にいつも置いておくか、家の中に引っ込んで頭を低くしていることね」
 彼女はふたたびサングラスをかけて立ち上がり、もう二度と彼には目をくれずにポーチをおりてゆき、買って20年はたつコルヴェットまで芝生を突っ切った。それに乗り込むと、軽くエンジンをふかして走り去った。なかなか消えない埃を、ハップはしばらく見守った。
 何をかくそう、頭を低くしている練習なら、俺はいやというほどやってきた。』
--COMMENT--
 ビスケー湾で沈没したスペイン船が積んでいたマヤの財宝を巡って、マイアミの名門一家の過去の事件が浮かび上がる。本作の主人公ハップはヴェトナム帰りでウィンドサーフィンのボードを作ったりしている変わり者だが、財宝探しに雇われるホリングスというしがない与太者も準主役として描かれていてなかなか味わいがあった。ホールお得意テーマ<環境保護>もしっかりストーリーに織り込まれる。
 ハップの兄の恋人のコルベット(途中からシェヴィBel Airになるのが不思議だが!?)、上述ホリングスのダットサンB210、名門上院議員の"メタリックグリーンのロールスロイス・シルヴァー・クラウド"、成金開発業者の"赤いBMW731"、財宝探しに雇われたお尋ね者の女の"ピンクの57年型シェヴィー"、ハップのMGなどが登場する。まぁ目くじらをたてるほどのことはないが、ホリングスのTシャツの模様の"赤いインディ・カーとSTPステッカー"のところで、訳者はわざわざ"STP(下水処理植物)"と可笑しな注をいれていた。もちろんガソリン添加剤のSTPなのだが、何やら植物なんてどこから調べたんでしょうかね! (2007.7.27 #493)

大潮流ジャガーXJ-6Mean High Tide (C)1994北澤和彦訳 講談社 1998

『「こちらの車ですね、ミスター・レイヴァリー。よろしいですね?」
ボーイは彼のためにドアを支えていた。「ああ」と、彼は言った。「…と思う」
ソーンは赤紫色のセダンをしばらく見つめてから、運転席にまわってボーイに最後の5ドル紙幣をわたし、車に乗り込んで深い革のシートに腰をおろした。ジャガーXJ-6
 磨きこんだクルミ材のダッシュボード、計器パネル、ずらりと並んだスイッチとつまみを見ていると、ようやく自分のなすべきことを思いだしシフトレヴァーをローに入れた。クラッチを切ると、車は急発進し、タイヤが高価な敷石をこすって煙をあげ加速した。
 彼はけっして車マニアではなかった。ティーンエイジャーのころ、友だちがみんな車を欲しがっているときですら、彼にはそういった遺伝子がないようだった。車はただの交通手段であって、だいたいにおいては有害ですらあった。だが、バターさながらになめらかな最初の一マイルがすぎると、改宗してもいいかなという気になってきた。』
--COMMENT--
 フロリダ・キイラーゴのフィッシングガイド、ソーンのシリーズ第3作は、ダイビング中の恋人が何者かによって殺され、その犯人を追う。大量のティラピアが放流されそうなったり、その養殖業者の奇妙な父娘とか、ちょい設定が奇抜であった。
 引用は、自分のワーゲンにしか乗らないソーンが、魚肉卸業者になりすましてジャガーに乗るシーン。ただし、急発進するのはクラッチを繋いだからであって、<…クラッチを切ると…>はいかにも誤訳。ほかに、養殖業者の娘の"83年型の赤いオールズモビル"、ソーンの親友のムスタングなどが登場する。(2007.11.17 #521)

豪華客船のテロリストコルヴェットBuzz Cut (C)1996北澤和彦訳 講談社 2004

『ソーンはつぎの出口、ケンドール・ドライブで降りた。マイアミのコンドミニアム地区のどまんなかだ。騒々しくランプをくだり、最初に見つけたガソリンスタンドに車を乗り入れる。食料雑貨店で、店先に6台のポンプがあった。
 ソーンは店の横に車を寄せ、暗がりに停めた。ハンドルをげんこつで殴り、神をののしり、腕をうしりにひいてフロントガラスにこぶしで狙いをさだめた。隣には鮮やかな黄色のコルヴェット鮮やかな黄色のコルヴェットが停まっていた。助手席に座っている黒髪の女が、気持ちはよくわかるわ、といわんばかりに微笑みながら、興味津々の眼でソーンを見つめていた。ソーンはこぶしをおろした。コルヴェットのスピーカーから、下品なサルサを唄うグロリア・エステファンが聴こえてきた。』
--COMMENT--
 フロリダ・キイラーゴのフィッシングガイド、ソーンのシリーズ第4作は、親友シュガーマンとともにカリブ海を巡る豪華客船エクリプス号のシージャック犯を追う。このシージャッカーは世界中の不幸せな子どもたちを援助する一方、巨大クルージングの航行を勝手に操るように仕掛けるなど知能犯でいつもしゃべらすと言葉の語源を説明したがる…というような衒学的でおかしなキャラクター。フタをあけると犯人も、クルーズ会社オーナーも、シュガーマンもファミリーだった!!なんていう不自然さが気になるところだが、まぁエンターテイメント&アクションとしては楽しめる。
 引用は、ソーンが深手をおった親友のところに駆けつけようとワーゲンでマイアミに向かうシーン。アライメントが狂って直進できなかったり、タイヤがパンクしたり散々。グロリア・エステファンは当方の好みのシンガーということもあって、"下品なサルサ"の訳出(原文もそうかしら?)にはがっくり。他には、親友のフォード・エクスプローラー、シージャッカーのウィネベーゴ、マイアミビーチ近くの豪邸がならぶスター島に行くためにレンタルする1969年型ロールスロイス・シルヴァークラウドなど。(2011.2.20 #676)


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