lagoon symbol
HALL, PARNELL/パーネル・ホール

お人好しでもいいシヴォレー、メルセデスFAVOR, (C)1988田中一江訳 早川,1992

『バーバラはガレージのほうへ行って大きな両開きのドアを勢いよくあけた。なかにはシヴォレーのステーション・ワゴンとコンバーチブルのメルセデス・ベンツがおさまっている。バーバラと子供はステーション・ワゴンのほうだな。思ったとおり、そうだった。ハロルド・ダンリーヴィは最低野郎だ。高い車は男のものって主義か。ベンツのコンバーティブルに乗ったら、バーバラはさぞかし女っぷりがあがるだろうに。
ステーション・ワゴンは車まわしから出て左に折れ、私のいる場所を過ぎて遠ざかっていった。
よし、名探偵よ、メモをとれ。<8:05母親が子供を車で学校に送る>
そしてまたじっとすわるのみ。刻々と間抜け度がつのるような気がした。悪いことに尿意もつのるいっぽうだ。』
--COMMENT--
 事故専門の調査員ヘイスティングは、知人の部長刑事から、自分の娘夫婦の様子を探ってくれと頼まれてしまい、アトランティック・シティへ乗り込むが・・
まあ、軽めのエンターテイメントとしては楽しめる探偵もの。(1999/10/11)

絞殺魔に会いたいトヨタSTRANGLER (C)1989田中一江訳 早川,1992

『サム・グラフストンの叔父の住まいというのは東36丁目のタウンハウスだった。そのうち、東36丁目に車を停めてみるといい。できっこないんだから。たとえ駐車できたとしたら、40番桟橋までのタクシー代115ドル以上を用意しておかないと、レッカー移動された車をとりもどすこともできない。それがいやだというのなら、駐車場料金15ドルを持っていなければならない。
わたしは持ち合わせがなかった。手元にある現金は7ドルぽっち。イースト・サイドを車で流しつつ、さんざん文句を言いながらどうすりゃいいのかと知恵を絞った結果、やっとのことで2番街と28丁目の角にパーキング・メーターを見つけたのだ。
それは30分ごとに25セントで最大一時間のメーターだった。つまり、わたしは25セント玉をふたつメーターにいれて大急ぎで36丁目まで行き、電光石火の早業でサム・グラフストンの叔父から契約をとりつけ、それから28丁目へ駆け戻らなければならないということだ。間に合わなくて交通警官に目を付けられたが最後、せっかく契約とりに成功して稼いだ報酬もメーター・オーバーの罰金でふいになる。やってできないことではないだろうが、できるという保証もなかった。』
--COMMENT--
 素人探偵のヘイスティングが、こんどは顧客の連続殺人の犯人扱いを受けたり、真犯人さがしを試みるが、ことごとく担当刑事に先をこされてしまう。あいかわらず軽妙なタッチが、楽しめる。引用した部分は、マンハッタンでいかに駐車するのが難しいかが、よくわかるシーン。なお、ヘイスティングの車は、別のところに"おんぼろトヨタ"とでてくるが、ぴったしの設定かな。(2000/2/6)

サスペンスは嫌い古ぼけたトヨタSUSPENSE (C)1998田中一江訳 早川 2004

『車は半ブロック先に停めてある。南北に走る通りの一ブロックは短い。いまわたしが歩いてきた東西の通りの半ブロックとは大違いだ。右へまがって歩道を歩き出した。道幅が広いので、まんなかを歩けば、建物からも路上の車からも届かない。
こうして、よく言うことをきく愛馬のごとく辛抱強く待っていたわが愛車、古ぼけたトヨタのところについた。車道におりて運転席側のドアに鍵を差し込む。これで帰れるぞ。いや、待てよ!!
わたしはすばやく愛車をながめ、窓ガラスが割られていたり、そのほか鍵を使わずに侵入した形跡はないかと確かめた。頭のなかに、バックシートに潜んでいる敵の姿が浮かんだ。私が運転席に乗り込んだら、さっと起き上がって細いワイヤを首にめりこませようと待ちかまえているのだ。
じょうだんじゃない。
車に乗り込む前に、後ろのドアを開けて、誰も潜んでいないことをよく確認した。それを済ませてから車に乗り、ドアをロックしてアラームの暗証番号をプッシュし、エンジンをかける。
そして、ほっと息をついた。ありがたいことに、車は爆発しなかったからだ。
路肩から車を出した時、エンジンをかける前に爆発物の可能性をチェックすればよかったと思ったが、もう少し早く考えついていたらおっかなくてエンジンをかけることができなかったかもしれない。
けれど、私は車に乗ってエンジンをかけ、そして無事だった。21丁目へ右折して、さらに右折して10番アヴェニューにのってしまえば、あとは我が家めざしてアップタウンへ走るだけ。もう何も心配はない。バックミラーを見る限りでは、誰にも付けられているようすはなかった。』
--COMMENT--
 のんきな事故調査探偵スタンリーが、今回は、ベストセラー・サスペンス作家の妻にかかってくる脅迫電話の犯人探しをする。ユーモアたっぷりの会話とか、スタンリーをなにかと助けてくれるNY市警のマコーリフ刑事、事件の担当するどじで融通の利かないサーマン刑事との関係などとても楽しめる。
引用部分は、怖いもの嫌いのスタンリーが、尾行されていると思い込んで過剰反応しているシーン。10年前の作品にも愛車=トヨタ、と出てきて、さらにおんぼろになったことでしょう。それでも、盗難防止装置をセットしなくてはならないなんて、NYはたいへんなところだ。(2004.6.18)

休暇はほしくない年代もののトヨタCOZY (C)2001田中一江訳 早川 2005

『つぎのカーヴをまがると、はるか前方に一台の車が見えた。遠すぎてはっきりしないが、わたしたちが追っている青のフォードであってもおかしくない。
「いたわ!」
「あれよ!」
「スピードあげて!」
 わたしはすでに目いっぱいアクセルを踏んでいた。年代もののトヨタはせいいっぱいがんばっている。すこしずつではあったが、距離がつまっているように見えた。きついカーヴを猛スピードでまがったとき、これじゃまるでヴァンを運転していたあのニキビ面の青年とそっくりじゃないかと思った。それともうひとつ、長年私立探偵をやってきて、ついにカーチェイスもやるようになったんだな ― とも思った。それも、後部座席に三人のお客を乗せて…
「あぶない!」
「気をつけて!」
「道路から目をはなしちゃダメ!」
まともなアドヴァイスだ。わたしが考えてもみないような。関係各位に感謝したいと思ったが、時間をかけて、だれがどんなアドヴァイスをしたのか判別している場合じゃない。
 タイヤをきしませて左にカーヴを切りながら、尾行している相手がこれでも私たちに気づかずにすむとは思えなかった。だってそうだろう、車にぎゅうぎゅう詰めになった観光客が時速90マイルでハイウェイをかっ飛ばすなんてことは、めったにあるもんじゃない。』
--COMMENT--
 息子のトミーがサマーキャンプに行ってしまったので、スタンリーは気の乗らないニューハンプシャーへのハイキングにアリスと出かけ、そのリゾート地で事件に遭遇してしまう。
 アリスや地元の堅物署長とのかけあいが、もう絶妙に楽しい。上記引用部分は、アリスと同宿のおばさん姉妹の三人をのせたまま、怪しい男のフォードを追跡するシーンだ。
<訳者あとがき>によると、パーネル・ホール自身が"古ぼけたトヨタ"を所有しているそうだ!!。(2004.8.18 #364)


 Lagoon top copyright inserted by FC2 system