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HANDLER, DAVID /デイヴィット・ハンドラー

笑いながら死んだ男アルファTHE MAN WHO DIED LAUGHING, (c)1988講談社,1992

『返事をする代わりに、彼女は通りかかったウエイターからラヴィオリの大皿を奪い取ると部屋の向こうから僕めがけて投げつけてきた。もっとも僕のところには汁すら飛んでこなかった。知りたければお教えするが、リー・ラッジウィルがほとんどかぶってしまったのだ。
 それから、ワンダはドアから走り出ると、思いきり大きな音でバタンと閉めた。ソニーは正しかった。両親は彼女をストーミィと名付けるべきだったのだ。
 ただひとつだけは彼女を買ってもいいと思う・・車で走り去って僕を置き去りにはしなかった点だ。勘定をすませ、まだ半分ほど残っているシャンパンのボトルを手に駐車場にぶらぶら出てきた僕を、アルファの中で待っていてくれたのだ。柔らかななめし皮のジャケットを着て、レーサー用の手袋をはめ、車の幌を下ろしエンジンをふかせて、鼻息も荒く座っていた。僕はシャンパンをぐいとあおると、ひょいと飛び乗った。尻がシートにつくかつかない内に、彼女はタイヤをきしませて車をだした。
 車はハリウッドの丘を登っていった。アクセルを踏みっぱなしだ。ワンダの運転はいかにもワンダの運転・・狂ったような運転だった。猛烈な勢いでギアを入れ替え、ヘアピンをタイヤを横滑りさせてやりすごした。車は細いキャニオンの道を疾走し、ワンダはカーブなどおかまいなしに闇雲にアクセルを踏み続けた。登ってくる車があったら、僕らはそろってラズベリージャムになっているところだ。サンセットに戻ると、彼女は車を止め、僕の胸にすがって泣いた。そして僕の渡したリネンのハンカチで鼻をかんだ。』
--COMMENT--
 ゴーストライター、ホーギーと愛犬ルルが都会の陰の事件に活躍する"ホーギー"ホーグ・ミステリー・シリーズ第一作。
 往年のハリウッド・ビッグスターの自伝を頼まれ、過去の秘密に係わる娘ワンダとの一騒動の様子が上記の引用部分。ショービジネス界の家族がロスで持つ車としてアルファはぴったり。(95/10)


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