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Hart, John /ジョン・ハート

ラスト・チャイルドステーションワゴンThe Last Child (C)2009東野さやか訳 早川 2010

『私道に停まっている車は古いステーションワゴンで、何年も前に父が買ったものだった。塗装はワックスがきいて美しく、タイヤ圧も毎週チェックしているが、ジョニーが手をかけられるのはそれだけだった。
 キーをまわすと排気管から青いガスが立ち昇った。助手席側のウィンドウは上がりきらない。排気が白くなるのを待ってギアを入れ、私道の先端まで車を進めた。まだ免許がとれる年齢にはほど遠かったから、しっかり左右を確認してから、ゆるゆると公道に出た。スピードを抑え、なるべく裏道を通った。
 いちばん近い店まではほんの2マイルだが、大通りにある大きな店だから知り合いに遭う恐れがある。3マイルよけいに走って、低価格商品を扱う小さな食料品に向かった。ガソリン代はかかるし、食べ物は高くつくがしかたない。すでに二度、社会福祉局の訪問を受けているのだ。』
--COMMENT--
《早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞&英国推理作家協会賞最優秀賞スリラー賞受賞》…ポケミスと文庫本とを同時に刊行する力の入れよう!
 ノース・カロライナの田舎町を舞台に、妹と父親とを同時に失った少年がひたすらくじけず親友と共に妹の行方を追う。『スタンド・バイ・ミー』を彷彿とさせるストーリーながら、地元警察の刑事と家族とのかかわりや、自然描写の巧みさ、予想を超えたエンディングなど、とにかくとことん楽しめる。
 引用は、家事を放棄した母親のかわりに少年が買出しにでかけるシーン。実業家の"白いキャディラック・エスカレード"、クライマーのトヨタ・ランドクルーザー、消防士のダッジ・ラム、別の刑事のダッジ・チャージャーなどが出てくる。(2010.8.3 #644)

アイアン・ハウスランドローバーIRON HOUSE (C)2011東野さやか訳 早川 2012

『ランドローバーに向かいかけると同時に、アビゲイルの強がりは融けてなくなった。スイッチが切れたように感じ、空は真っ青で、手を触れたトラックのボディは焼けるように熱かった。彼女は苦味を飲み込んで不安になっているのを自覚した―"若干"でも表面的にでもなく、心の底から怯えていた。…中略…
 汚れたウィンドウごしにマイケルをうかがい、グローブボックスをあけてジェサップの銃を出した。刻み目の入った木の握りと撃鉄が黒光りする。見るからに恐ろしげで物騒な代物だ。金属部分に<コルト・コブラ38口径スペシャル>と刻印がある。シリンダーを降り出し弾が装てんされているのを確認してもとに戻した。大きく深呼吸すると、銃をパンツの腰にさしてベストの裾で隠し、マイケルがいるメルセデスのトランクまで戻った。ダッフルバッグの口があいて、中の現金が見えていた。9ミリ口径のほうの銃を渡すと、彼もシリンダーを降り出し、動作の確認をした。「用意はいいか?」
「と、思う」
「断言できなきゃだめだ」
38口径のすべすべした固い感触が肌に伝わった。「断言できる」。』
--COMMENT--
第2作『川は静かに流れ』と第3作『ラスト・チャイルド』でアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を連続受賞!に続く第4作という鳴り物入りだったので期待したが、登場人物のプロフィールがとに角突飛だし、肝心の主題とプロットがごちゃごちゃとしていて当方にはいまいいち。
 引用は、殺し屋マイケルがギャングに人質にとられた恋人を、弟の義母と救出にいくシーン。それにしても訳文も分かりにくいなぁ。重箱の隅をつつくようで恐縮だが下巻304ページ※で<お前は何者だ、ジュリアンの弟などという…>は兄弟が逆転してしまっていたし(-_-;)
 ギャングのボスの息子のアウディ、昔の写真に写っていた1967年型コルベット、レストランを襲撃するエスカレード、引用のランドローバーは昔のディフェンダー、義母が用意する代車がレンジローバーなどが登場する。※文庫版です、本書もハヤカワ・ミステリ版と同時刊行 (2012.4.11 #730)


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