『「あなたどこに泊まっているの?」
こう彼女に聞かれると、自分がリカーとジャッキーの後遺症からまだ完全に快復できていないことに気付いた。しかし、ポケットには足代も残っていないし、寝るところもない。
「パイン・ストリート・インを当たってみようと思っている」…宿のない者を、ときには浮浪者まで、泊めて食事を出してくれる慈善施設だ。
「そんなとこ忘れなさい。寒い季節には、午後3時までにもう満杯よ。わたしのところに泊まれるわ。今何処にいるの? 拾いに行くから」
「ナンシー、そんなことを…」
「議論はなし、どこ?」
<エルシーの店>にいると彼女に言った。マウント・オーバーン・ストリートにあるレストランで、ハーヴァード・カレッジのハンバーガー屋では一番有名な店だ。
「30分で行く。赤いホンダ・シビックよ」
「ナンシー?」「なあに?」
「ありがとう」』
--COMMENT--
私立探偵カディのシリーズ第2作は、私立探偵小説大賞を受賞した作品となり、当方の読書リスト最後にとっておいた作品。ピッツバーグに住むベトナム戦時代の親友がボストンを訪れ連絡のあった日に惨殺された。家族、知人、会社関係をくまなく当たるがようとして犯人像がうかばないなか、ベトナム戦争の影が浮かびあがってくる。しっとりというよりは、カディが痛みつけられたり、犯人を追いつめる、かなり荒っぽいシーンも多く当時のハードボイルド調の色合いが強い作品だな。
引用は、ボストンのアパートが爆破されるは、犯人グループに拘束され殺害される寸前になんとか救出され(かなり都合よく警察が登場する!)たときのもの。初登場の地方副検事のナンシーのホンダ。カディの自身の車は前作登場の63年型ルノー・カラベルから、"73年型のフィアット124スポーツ・セダン"に替っている。ただし、フィアットに乗るシーンはほとんどない。ほかに、犯人を追いつめつために中古車屋の友人から調達する67年型2ドアのポンティアック、陸軍省の係員の"しみひとつないフォード・ピックアップ特別仕様車"など。(2011.9.30 #711)