lagoon symbol
Healy, J.F. /ジェレマイア・ヒーリイ

少年の荒野ルノー・カラベルBLUNT DARTS, (C)1984中川剛訳 早川 1986

『ヴァレリーはキニントンの屋敷まで私を送っていくといったが、きみは道案内だけしてくれればいい、夫人には私一人で会わせて欲しい、と言ってやった。
 彼女はしぶしぶとコプリー・スクエアにあるレンタカー会社までついてきた―私のおんぼろルノー・カラベルおんぼろルノー・カラベルは修理工場に入っており、ノースカロライナからくる中古のAフレームを待ちわびているところだった。私はマーキュリー・モナークを一台借り、彼女の車をパーキング・ガレージからひき出した。
 私たちは、マス・ターンパイクからルート128に入った。それは、ボストンの周囲をめぐる細長い環状道路である。ハイテク産業従業員の帰宅ラッシュ・アワーが始まる30分前にそこを抜けた。』
--COMMENT--
 私立探偵ジョン・フランシス・カディのシリーズ第一作。ボストンの保険会社の調査員をやめ私立探偵となったカディが、失踪した地元名家の少年を追跡する。文中にロバート B.パーカーのスペンサー物を読むシーンもあり、パーカーとかなり似たオーソドックスな探偵ものだった。
 引用は依頼主の祖母を訪ねるシーン。ボストンでわざわざルノー・カラベルにね…それほど個性的な車とはみえない!? ほかに少年の母が運転中に川に転落したメルセデスなど。(2011.8.11 #700)

死の跳躍トヨタ・ターセルSWAN DIVE (C)1988菊地よしみ訳 早川 1991

『シーウェイは実に眺めのいい道である。北に向かって車を走らせていくと、まずスワンプスコットの港が見えてくる。やがて、見渡す限りの大海原となり、海岸線が東にカーヴするにつれ、今度は南西10マイルの彼方に、ボストンの高層建築群のぎざぎざした輪郭が望めるようになる。
 13番地は通りの海側にあった。BMW633iは内装も外装も黒一色だった。ぴかぴかの車体がドライブウェイの一番ガレージよりのところにデンと構えている。その後ろには小さな茶色いトヨタ・ターセルが停めてあった。ぴたりと寄せてあるのだが、それでも歩道にわずかばかりはみ出している。ターセルのリアウィンドウにはサマリタン病院の駐車票があった。』
--COMMENT--
 私立探偵ジョン・フランシス・カディのシリーズ第4作は、ボディガードを依頼された離婚示談中の妻の夫と売春婦が殺されカディが容疑をはらすべく麻薬密売人と戦う。本作中にも、<私立探偵スペンサー>のロケ現場に言及されている場面がある。
 引用はその夫の邸宅を偵察にいくシーン。ターセルは病院看護婦の車にぴったりの設定だ。妻のエスコート・ワゴン、妻側の弁護士のポンティアック、夫側の女性弁護士のメルセデスのスポーツ・クーペ、売春婦のヒモに似合わない"お堅い白のオールズモビル98"など。日本ではあまりしない"3ポイントターン"が何度も出てくる。米国の運転免許試験には必ずある科目だそうだ。
 やたらとベトナム戦争の話をするこのヒモや、麻薬売人のおふざけトークなどがとても面白く描かれていた。ほかに、日本と同じく、ボストンの上空を漂う<フジ・フィルム>の飛行船がでてきたりする。(2011.8.16 #702)

別れの瞳ホンダ・プレリュードShallow Graves (C)1992菊地よしみ訳 早川 1995

『私たちはコモンウェルズ・アヴェニューを上手に向かって歩き、フェアフィールド・ストリートで折れて、ビーコン・ストリートにあるコンドミニアムに行った。シカゴで二年間の病院実習をしている医者から私が借りているものだ。私たちはそこの駐車区画までしか行かなかった。サウス・ボストンの自宅で眠り、明朝の闘いに備えて英気を養いたいと、ナンシーが言ったのだ。
 古いが信頼の置ける私のホンダ・プレリュード─色はシルバー─でスージーまで行くと、いつものように、彼女の自宅近くの路上に駐車場が見つかった。』
--COMMENT--
 私立探偵カディのシリーズ第7作は、ベトナム系のエキゾチックな人気少女モデルが何者かに絞殺され、元いた保険会社から調査を依頼される。くり返しくり返し聞き込みを重ねながら犯人を絞り込んでいくストーリーが迫力がある。引用に出てくる彼女─ナンシーとのデートシーンが色を添えるぐらいで容疑者洗い出しに傾注させ読者を惹きつける。
 主人公カディの車がルノー・カラベルから、プレリュードに代わっていて、これまでの作品を読み込んでいかないと経緯がわからない。当方が読んだ作品では、ロス・トーマス『神が忘れた町』に警官がのるプレリュード以来でミステリにはあまり登場しない車種だ。他には、街中で見かけるフラッシュ・ゴードン風のホットドッグ宣伝カー、マフィアの男のリンカーン・コンチネンタル…車中でクラシックを聴く粋な男、など。(2011.8.22 #704)

ニュースが死んだ街ホンダ・プレリュードYesterday's News (C)1989菊地よしみ訳 早川 1992

『ナッシャバーまでの小旅行は楽しいといってもよかった。アーニーのガレージでプレリュードの代金を払い、車両登録所と保険代理店で列を作って待った後、3号線、128号線、それから24号線を南にたどって、ナラガンセットの海岸に向かった。私のフィアットは排気ガス規制がしかれる前に輸入された最後の車の一台で、その全盛期には小型ロケットなみに走ったものだ。しかし、寄る年波と、鉛の混入したハイオクガソリンが消滅したために加速力が極度に落ちてしまっていたし、シンクロメッシュのギアボックスにもかかわらず、ギア・シフトにはしばしばダブルクラッチが必要だった。
 それに比べてホンダは、なめらかなこと絹のごとく、素早いこと猫のごとくで、5速ギアは、たった2400回転で、60マイルに近い快適な走りを可能としてくれる。
 私のモデルには電動で開閉するサンルーフもついていて、視線をあちこちさまよわすことをしなければ、コンヴァーティブルを運転しているような錯覚を与えてくれた。  しかしながら、ナッシャバーの町それ自体は、そんな車を正当に評価してくれる場所ではなかった。』
--COMMENT--
 私立探偵カディのシリーズ第5作は、ボストンの南にあるさびれた港町で警察の腐敗を追っていた地方紙女性記者の情報提供者が殺され、記者も自殺するという事件をカディが赴く。カディは地元警察から睨まれ、何者かに殺されそうなったりするが、動機はともかくも執拗に犯人を追い詰めるところが見もの。モーテルの経営者とか、地方紙のアル中気味の記者とか登場人物も味わいがある。知性派ハードボイルドとして安心して楽しめる。
 引用は、ステアリングが甘くなったりエンジンの調子が悪くなったフィアット124の修理代があまりに高く、勧められた中古のホンダ・プレリュード(シルバー、82年型、シートは赤、トリップメーター3万マイル、3500ドル)に替えて事件の町に向かうシーン。ジョギング中に橋上でひき殺そうと追いかけられるビュイック、カディを尾行していて救出してくれた男のカマロ、地方紙女性記者のアルファのコンバーティブル、マイアミに聞き込みにいったときのレンタカーがムスタング・コンヴァーティブル。著者はよほどコンバーティブル車が好きなようだ。(2011.9.13 #707)

死を選ぶ権利ホンダ・プレリュードRight to Die (C)1991菊地よしみ訳 早川 1994

『「いまでもプレイはできる?」
「とんでもない。つまり、本物のプレイはできないってこだな。あんたにもその違いはわかるだろう、例えば、コルヴェットとプレリュードの違いってことだが」
 私がプレリュードに乗っているのを知ってて皮肉っているのか、判断がつかなかったので<いや>と答えておいた。
「つまりコルヴェットというのはスポーツカーなわけだ。ところが、プレリュードとなると、スポーティカーにしかすぎない、わかるかな?」
「運動選手と、単に運動をしているにすぎない者の違い…そうゆうことだ。ま、おれの場合は、かってのコルヴェットだったのを知ってるプレリュードってわけだが。もちろんチャリティやらなんやらってことで、いんちきプレイを見せに、往年の有名選手のトーナメントには喜んで出向いていくが、しかし、もう本物のプレイはできない、だめだな」』
--COMMENT--
 私立探偵カディのシリーズ第6作は、"死ぬ権利"を主張する法学女性教授のところに送られてくる脅迫状の犯人を追う。地道な聞き込みを続けるが半年たっても犯人像が浮かんでこず、その間にボストンマラソンに出るためのトレーニングの場面が延々とでてくる。普通のランナーにも参考になるし、出会った世捨て人のマラソンコーチがなななかいい味を出している。最後の数ページで急転直下の犯人の出現は、どこでカディが気づいたのか明かされず唐突の観が否めない。ボストンの年末年始の風物詩の情景も楽しい。
 引用は法学教授の夫、テニスの元トーナメント・プレーヤーと話す場面。カディが気に入っているプレリュードが大した物ではないと言われているようで、ちょっと引いてしまうくだり。ほかには、スペインのヒホンの町で乗るタクシー、セアト600が登場する。
 主人公がボストンマラソンで着るTシャツには<肉体はノーチラスで、頭脳はマッテルで>が描かれている。バービー人形のことだろうから日本語では<マテル>と表記されるのが一般的。(2011.9.17 #708)

湖畔の四人インターナショナル・スカウトFoursome (C)1993菊地よしみ訳 早川 1996

『丸太小屋のわきに2ドアの古い小型トラックが置いてあった。インターナショナル・スカウトのようだ。アクアマリン色の車体にクリーム色の屋根。スペア・タイヤは助手席の後ろ、サイドウィンドウの下に積まれている。後部バンパーは車体にロープで縛り付けられ、ナンバープレートはリアウィンドウにテープで留められている。
 トラックの背後には、がらくたのつまったガレージと、L字形に曲がった木の枝をドアノブに利用した屋外便所。ガレージと屋外便所の間には金網が張られ、雑種の大きいな犬が三匹入っていたが、われ先に金網を破って出てこようとやっきになっている。』
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 私立探偵カディのシリーズ第8作は、風光明媚なメイン州の湖畔の別荘で起きた二組の夫婦の3人がクロスボウで射ぬかれ殺された事件について、被疑者の弁護士から依頼され真犯人を追う。湖畔の住人たちや、夫婦の近隣者や勤務先などに聞き込みを続けるが、なかなか犯人像が絞り込めないが、ヒーリイ作品の真骨頂はこの聞き込みにあるんだなぁとつくづく思う。単に情報を聞くだけではなく、聴取からその人物のバックグランドを描き出すことが作品の幅を広げる大切な要素と考えてのことだろう。大自然や田舎の素朴な生活も存分に描かれていて、かなり異色の作品に仕上がっているし、とにかく、読みやすく存分にストーリー・テラーとしてのヒーリイを楽しめる。
 引用は、別荘の隣に住む元からの住人の女性を訪ねたシーン。数ページあとで、オーナーが車はフォード・ブロンコの1967年モデルだよ…と教えてくれる。カディのホンダ・プレリュードは大活躍で何度も何度もでてくる。ただし悪路走行がたたって最後にはクラッチかミッションからのオイル漏れで修理に出されてしまう。女性保安官のシヴォレー・ブレイザー、自動車ディーラー経営者の"キャンディ・アップルのような赤いコンヴァーティブル、幌は白、内装も白"など。
 これまでのシリーズにはなかった壮絶な銃撃戦が印象的だった。カディは不良少女グループから銃撃を受けその3人を射殺する。何も射殺せず武装解除すればよかったのじゃないかとも思うが、障害を残し生きさせるよりは思い切って殺す…がやはりハードボイルドなんでしょうね。(2011.9.21 #709)

消された眠りフィアット124So Like Sleep (C)1987宇野輝雄訳 早川 1991

『わたしは、駐車できる場所をみつけ、どうにか識別のつく廃物や、外見はちゃんとしているワインの空き瓶などをよけて、愛車のフィアット124をとめた。マサチューセッツでは、容器再利用条例により、その材料がガラス、プラスティック、アルミのいかんを問わず、ビールや炭酸飲料の容器を路上で回収した者は一個あたり5セントの現金がもらえることになっている。だが、ワインのビンは対象外。おしい。
 車から降りると、ダニエルズ家の手前にある家の玄関口に三人の男が座っているのが見えた。連中のそばにあるラジカセからはボリュームを下げたリズム&ブルースが流れているが、なんお曲やら見当がつかない。』
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 私立探偵カディのシリーズ第3作は、悩みをかかえた黒人大学生が恋人の女子学生を撃ち殺した事件の事実関係調査を依頼され、真犯人を追う。とことん聞き込みに注力するところはシリーズでおなじだが、いかがわしい催眠グループ療法が舞台となるので、読者は早々に可能性の高い犯人の目星がついてしまいスリル感には欠け。まぁ初期の作品なのでやむをえないか。
 引用は被疑者の母親に会いにスラム街にいくシーン。本作だけ宇野輝雄訳のせいか、フィアットには、かならず"愛車"とつけて訳出されている。何度もでてくるので若干目ざわりかな。ほかに、グループ療法患者のオールズモビルと新型のキャディラック、殺された女子学生の父親(テレビ局の局長)のベンツ、シカゴの街を案内してくれるロウスクールの学事部長の"四角いかぼちゃみたいなラビット"、あまり出番のなかったカディの現恋人のホンダの赤い車などが登場する。(2011.9.24 #710)

つながれた山羊ホンダ・プレリュードThe Staked Goat (C)1986菊地よしみ訳 早川 1988

『「あなたどこに泊まっているの?」
 こう彼女に聞かれると、自分がリカーとジャッキーの後遺症からまだ完全に快復できていないことに気付いた。しかし、ポケットには足代も残っていないし、寝るところもない。
「パイン・ストリート・インを当たってみようと思っている」…宿のない者を、ときには浮浪者まで、泊めて食事を出してくれる慈善施設だ。
「そんなとこ忘れなさい。寒い季節には、午後3時までにもう満杯よ。わたしのところに泊まれるわ。今何処にいるの? 拾いに行くから」
「ナンシー、そんなことを…」
「議論はなし、どこ?」
<エルシーの店>にいると彼女に言った。マウント・オーバーン・ストリートにあるレストランで、ハーヴァード・カレッジのハンバーガー屋では一番有名な店だ。
「30分で行く。赤いホンダ・シビックよ」
「ナンシー?」「なあに?」
「ありがとう」』

--COMMENT--
 私立探偵カディのシリーズ第2作は、私立探偵小説大賞を受賞した作品となり、当方の読書リスト最後にとっておいた作品。ピッツバーグに住むベトナム戦時代の親友がボストンを訪れ連絡のあった日に惨殺された。家族、知人、会社関係をくまなく当たるがようとして犯人像がうかばないなか、ベトナム戦争の影が浮かびあがってくる。しっとりというよりは、カディが痛みつけられたり、犯人を追いつめる、かなり荒っぽいシーンも多く当時のハードボイルド調の色合いが強い作品だな。
 引用は、ボストンのアパートが爆破されるは、犯人グループに拘束され殺害される寸前になんとか救出され(かなり都合よく警察が登場する!)たときのもの。初登場の地方副検事のナンシーのホンダ。カディの自身の車は前作登場の63年型ルノー・カラベルから、"73年型のフィアット124スポーツ・セダン"に替っている。ただし、フィアットに乗るシーンはほとんどない。ほかに、犯人を追いつめつために中古車屋の友人から調達する67年型2ドアのポンティアック、陸軍省の係員の"しみひとつないフォード・ピックアップ特別仕様車"など。(2011.9.30 #711)


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