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Heller, Jane /ジェイン・ヘラー

美人姉妹は名探偵1948年型のインディアンSIS BOOM BAH, (C)1999法村里絵訳、扶桑,2000

『「ちっとも知らなかったわ。レイ・スカーリーは、バイク乗りだったのね」
「ちがうよ、レイ・スカーリーは、バイク蒐集家なんだ」彼は、私の誤りを正した。
「近くで見てごらん」
レイは、愛するバイクのほうに私を招き寄せた。
1948年型のインディアンだ」彼は得意げに言った。「『チーフ』は、メーカー最高傑作なんだよ」
「なんですって? ハーレーじゃないの?」私はからかうように言った。 「ちがうよ、今じゃ、ヤッピーどもが、こぞってハーレーに乗っている。インディアンはバイクの古典なんだ。なかなか手に入らないんだよ。20年代に製造を開始して、50年代には会社が倒産してしてしまったんだ。おれは、うんと時間をかけて、こいつを蘇らせた。とくにエンジンには手を焼いたんだよ。なにしろ1850CCのエンジンだ。分解掃除するのに永遠ともいえる時間をついやしたんだ。当然ながら、こいつはハーレーよりずっと頼りになる」
「とうぜんね」わたしは、レイの情熱に巻き込まれつつあった。
「かなり馬力がある。バイクなんだが、インディアンそのものの重さは200キロほど。こういう大型バイクにしては比較的軽いほうなんだ。これみよがしな感じがないところがいいだろう? たぶん、走っているバイクの中では、こいつが最高にいかしていると思うよ」
「ほんとうにピカピカだわ。こんなにクロムメッキしてあるバイクなんて、見たこともないわ。それにこのフェンダー!」わたしは口笛をふいた。
「スカートつきフェンダーっていうんだ。インディアン独特のものでね、メタルが車輪の両サイドを深く覆っているんだ」
「よし、それじゃ、ひとっ走りしよう」
レイが二つのヘルメットに手を伸ばすのを見て、わたしは息を呑んだ。日ごろから、バイクを「わあ、かっこいい」という気持ちの半分、「やだ、危ないじゃないの」という気持ち半分でみていたのだ。バイクに乗ったことなんて一度もなかったし、自分は平凡な物質主義者だと信じているわたしは、そんなことは刺青をして鼻輪をつけている不良少年や不良少女に任せておけばいいと思っていた。』
--COMMENT--
初めて手にしたジェイン・ヘラーのロマンティック・ミステリー。人気テレビドラマ「ソープ・オペラ」のシナリオライターのデボラが、都会につかれ母親の住むフロリダ・スチュワートへ引越し、ハンサムな医師の殺害事件に出くわす。田舎町スチュワートの様子、ユーモアたっぷりの会話、とくに、いつも姉妹喧嘩になってしまう姉のシャロンとの、とことんやりあうシーンは見もの。私の好きなアン・タイラーもそうだが、元気で奔放な40歳ぐらい女性が主人公になる物語がアメリカでは多いいし、ひとつのトレンドですね。
 引用部分は、地元の大工さんのレイの愛車インディアンについてで、女性ライターのわりに車にも凝った演出がなされている。ほかに、母のオールズモビル・デルタ88<…船でいうならクイーンエリザベス二世号ほどの大型車で、1リットルあたり4.2キロぐらいしか走らない…>、エボラが買った中古車82年型ポンティアック<…走行距離が16万キロ以上でなにしろ安さだけ、物語の後半では故障ばかり…>、姉が好きになったいやらしい弁護士のロールスロイス・コーニッシュ、レイの自家用車ホンダ<これも故障で肝心なときに動かない…>などが登場する。そう言えば、ジャネット・イヴァノヴィッチのステファニーの母親の車も58年型のビュイックで、チョー昔の大型アメリカ車の設定が一緒ですね。(2002/10/21)


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