lagoon symbol
HIAASEN, CARL /カール・ハイアセン

ストリップ・ティーズトヨタ・レクサスSTRIP TEASE, (c)1993北沢和彦訳 扶桑 1995

『「ガールフレンドになってくれ」「なんですって?」「こういうのはどうだ・・・」彼のまぶたがぴくぴくと震えた。
「内陸大水路に面したアパートメントというのは? それに車−あたらしいトヨタ・レクサスは? 仕事なんかやめて、女王みたいに暮らせる」
「冗談でしょう。ガールフレンドになるだけでそんなに?」
「ほしいものはなんだっていい」
「ワーオ」エリンは今がチャンスと見てとった。
「ねえ、ディヴィ、ひとつ質問してもいい?」
「なんなりと」
「あたし、あなたとセックスしなくてもいいんでしょ?」ディルベックは当惑ぎみに眼をほそめた。「まあ、いまは」唇が農耕馬そっくりに動いている。』
--COMMENT--
 フロリダを舞台にして、ダンサーの前夫と下院議員からの執拗な追及を仲間とともにかわすユーモア・ミステリー。会話がとても楽しく、レナード風。ミ・ムーア主演で映画化『素顔のままで』。
最新の車がたくさん登場。ダンサー仲間がホンダ・アキュラ、別な事件の主犯の妻のトヨタ・カムリ、下院議員のリンカーン・コンチネンタル、エリンのフォード・フェアレーンなど。

トード島の騒動レンジローヴァーSICK PUPPY (c)1999佐々田雅子訳 扶桑 2001

『イーホウ・ジャンクションの北で、汚れたピックアップトラックがローヴァーのバックミラーに姿をあらわした。トラックはぐんぐん追い上げてきたかと思うと、ストウトのバンパーから車3台分後ろの位置につけた。ストウトはフレンチフライをかじりながら、電話でお喋りしている最中で、それほど気にもしなかった。しかし、一時間ほどしてから、トラックがまだ後ろにいるのに気がついた。さすがにおかしいと思った。南に向かう車はそう多くはなかった−なんでこの馬鹿は追い越していかないんだ? ストウトはローヴァーを駆り立て、90マイル以上のスピードで吹っ飛ばした。だが、トラックはぴたりとついて離れなかった。
 SUVを持つ裕福な白人の例に漏れず、パーマー・ストウトはカージャックにあうのではないかという絶えざる恐怖の中で生きていた。高級な4x4が冷酷な黒人やラテン系の麻薬ギャングのひいきの車だということはわかっていた。そういう集団の中では、レンジローヴァーはフェラーリ以上の憧れの的といわれていた。』
--COMMENT--
 もうムチャクチャ楽しめるフロリダ・ユーモア・ミステリ。こんどはフロリダの小島に橋ををかけてもうけようとする開発業者、頼りにしている州知事(なんとトヨタのセールスマンあがりで、販売店をいくつも持つようになった人物)、ロビイストのストウトなど一癖ある連中を相手に、ちょっとおかしな、おせっかいな環境保護派の若者が開発にストップをかけ始める。会話もしゃれていて楽しく、登場人物もそれぞれ個性的。そうそう、ロビイストのかわいい妻が、ふらふらと、その若者についていってしまうくだりは、アン・タイラーばりで、文中にも、タイラーの本がでてきたりするのでボクも嬉しくなってしまう。
 クルマは紹介しきれないほどでてくるが、ストウトが前に買ったトヨタ・ランドクルーザーについては・・嘆きの種以外の何ものでもなかった、電動式の窓はショート、CDプレーヤーは故障、四輪駆動はバックのときにしか機能しない・・とか、知事が気のある秘書嬢に、トーラスを止めてカムリを原価で斡旋しようと声をかける等々、ハイアセンは、よほどトヨタをくさしたいなんか思いがあるんですかね。話の準主役は"プードル"というふざけた名前のラブラドルレトリーヴァなので、原書タイトルはそこからきています。それにしても、100キロもありそうなラブラドルが PUPPYってのも笑えますね。(2001.7.28)

殺意のシーズンMGTOURIST SEASON (C)1986山本光伸訳 扶桑 1989

『明け方、目を覚ましたブライアン・キーズは、冷たく乾いた空気に驚かされた。ジーンズに足を突っ込み、そこいら中をかき回してセーターを捜す。それから屋外に出て車のエンジンをかけた。愛車のMGは夏向きの小型スポーツカーとしては最高だが、今朝のように冷え込むと、エンジンがなかなか目覚めないという難点がある。キーズはエンジンを暖めるのに、たっぷり十分を費やした。
 マイアミから高速道路にのって北上し84号線に入る。フォート・ローダーデールを起点に、州を横切る騒々しい輸送トラックの通り道だ。空はどんよりと灰色に曇り、風が強い。だが道路は車であふれかえっていた。メタリックパープルのボートをひきずって走るカスタムバンやステーションワゴンの行列がえんえんと続く。――いつもと同じ、週末の民族大移動だ。
 ここ数年、文明社会はこの84号線をたどって、広大なエヴァーグレースの外周をじわじわと侵食しつつある。キーズは西に向けて車を走らせながら、チェーンソーやブルドーザーの快進撃ぶりを目のあたりにすることができた。かっては霧に閉ざされた牧草地であり、荒涼たる松林であった場所が、いまや隠退者向けのハウストレーラーの駐車場と化している。樹齢数百年になんなんとするイトスギの木立は、いつのまにかセブンイレブンやコインランドリーに姿を変えた。自然の風景のそこかしこに胞子のように散らばっているのは、開発者たちの夢―分譲マンションだ。』
--COMMENT--
 杉並図書館で見つけたハイアセンの個人名著作の処女作。ユーモアたっぷりだし、自身がマイアミ・ヘラルド紙の記者時代から抱いていた故郷マイアミへの深い愛着が色濃く描かれていて、とても面白く読めた。
 キーズと親しいマイアミ警察刑事アル・ガルシアのダッジ、キーズを疎ましく思っているほかの刑事の「黒いボラーレ」、オレンジ・ボール・クィーンの家の「BMW、リンカーン、真新しいフォルクスワーゲン」、パレードの山車に使われたダットサン・小型トラック…なども登場する。(2004.12.18)

ロックンロール・ウィドーメルセデスのコンヴァーティブルBASKET CASE (C)2002田村義進 訳 文春 2004

『ドーナツ・ショップの前で、ジャネットは小洒落たメルセデスのコンヴァーティブルを指差して「わたしの車が修理から戻ってくるまで、貸してもらっているの。ラクエルっていう修道女から」くすっと笑って、「わかるでしょ。修道女の格好をしたストリッパーよ。みんなすごく親切なの。本当よ、ジャック」
「おれのために祈るように言っておいてくれ」わたしは助手席に身を乗り出して、ジャネットの頬にキスをする。
「もう一度だけあの歌を聴かせてもらえないかしら。とても気に入ったわ」
「六万ドルの修道女用の車のなかなら、もっと気に入ると思うよ」
カーステレオからCDを取り出し、ジャネットの手のひらの上に置く。後部座席に手をのばして、ハードディスクのコピーが入った袋を取る。「きみのお兄さんがつくった全ての曲が入っている、きみのものだ。』
--COMMENT--
 いつものフロリダを舞台に、大物ロック歌手の変死に疑問をいだいた地元ローカル新聞の死亡記事記者ジャック・タガーが活躍するユーモアたっぷりのクライムノベル。
 ロックスターの妹ジャネットは黒のマツダ・ロードスター、ジャックの女性上司のシルバー色のアキュラ・クーペ、バックコーラスたちのサターン・コンヴァーティブル、ジャック自身のマスタング…などぴったしこん!!の車がたくさん登場する。(2005.2.15)

幸運は誰に?エコノラインLUCKY YOU (C)1997田口俊樹訳 扶桑 2005

『国税庁は、自分たちの関心の高さを強調するため、平床トラックと二人の不愉快な男をチャブのところに差し向けると、彼の特別仕様のフォード・エコノライン・ヴァンを没収した。国税庁のその職員にとって、車を見つけるのは造作もないことだった。人魚の姿をしてイッカクにまたがった裸のキム・ベイシンガーの大きな絵が車体の側面に入念に描かれたヴァンを探せばよかった。チャブは映画『ナインハーフ』に出てくるこの美しいジョージア出身の女優に夢中になり、愛と献身の証としてこの絵を思いついたのだった。
 いずれにせよ、この愛車のエコノラインの差し押さえが、彼にとってアメリカ政府に対しての悪感情を抱く契機となった。さらに、彼の未払いの税金を肩代わりして支払うことを拒み、どこにいけばヴァンが見つかるか、国税庁の職員に教えた両親に対しても、同じような怒りの矛先を向けたのはいうまでもない。』
--COMMENT--
 フロリダの片田舎グレンジで男運につきはなされていたジョレインが毎週買っていたロトがなんと2800万ドルの当りに。その宝くじがネオナチはぐれもの2人(引用のところのチャブがその一人)に奪われてしまう。
 フロリダの自然保護に賞金を使いたいジョレイン、グレンジの超おかしな住民、彼女を助ける新聞記者のとりまき、はぐれものの軍団のちょーちんけな連中…と、錚々たる変人ばかりの登場人物の正真正銘の抱腹絶倒!!保証つきのキャラと行動!!!! 本書を読んで、にやにやしないページがあったらペイバックしてもいいんじゃないかと思わせるほど。
 いかれぽんちの片割れの"キャンディのような真っ赤なダッジ・ラム"、新聞記者トムの"ブルーのホンダ"、ちんけ軍団にリクルートされたコンビニ店員の"塗装のはげた、かなり古い型のシヴォレー・インパラ、偽の障害者用駐車許可証つき"、ファミレスのウェイトレスのカレシの"ミアータ、あとでムスタング・コンヴァーティブルの新車に替わる"、記者の自宅を放火する法律助手のハーレー・ダヴィッドスン…などなど登場車のほうもの賢覧豪華!!(2006.3.6 #404)

大魚の一撃ロールスロイス・コーニッシュDouble Whammy (C)1987真崎義博訳 扶桑 1990

『最初、ゴールトは、自分の釣りの腕前があがり、トーナメントで優勝できるようになれば、この敵意も薄れてくるだろうとタカをくくっていた。だが、判断の甘さのせいもあって、事態は悪化する一方だった。
 たとえば、デニス・ゴールトはトーナメントにはかならず赤紫色のロールスロイス・コーニッシュを運転していった。こんな高級車がボートを牽引してフロリダ・ターンパイクを走っていけば、周囲の注目をあぶるのは当然であり、それが船着場に群れる釣り師たちの牧歌的な雰囲気をだいなしにするのも当たり前だった。
 ゴールトが少ない獲物に落胆して戻ってくると、タイヤの空気が抜かれていたり、車が木の下に移動され、カラスの糞にまみていたりすることもしょっちゅうだった。しかしゴールトは、こと個人的な好みに関しては頑固だった。父親が運転していたロールスロイスこそ、自分の乗るべき車だった。彼はピックアップ・トラックが嫌いだったが、それに乗っていればバス仲間への道も開けていただろう。コーニッシュに乗っているかぎりデニス・ゴールトにチャンスはなかった。』
--COMMENT--
 バス釣りのトーナメントで行われている不正行為を暴く証拠写真をとってほしいと頼まれた元マイアミ一流紙カメラマンのデッカーが、奇人ガイド(とてつもない読書家だが)とか、フロリダ警察やマイアミ警察の知人の刑事たちの助けを借りながら(途中では命も狙われるが…)、ドタバタ劇をかいくぐる。
上出のゴールト、とてつもなく奇行ばかりのガイド、TV局を持っている教会牧師、殺人請負人の元プロボクサーなど、登場者全員がちょーおかしな人物ばかり、だけどなんか憎めないいキャラクターなんだねこれが。まさにフロリダ・ユーモア大作間違いありません。変な車も数え切れないほど登場するので、覚えているだけを紹介。
 トーナメントの不正を最初にみつけて始末されてしまったバス愛好家の<黄色のフォグランプつきのブレイザー・トラック、ランプは450ドルもした>、地元紙記者の<新しいトヨタ・フラットベット・トラック、"ラン"と呼んでいましたが"4Runner"を指しています>、ゴールトの尻軽妹の<オレンジ色のコーヴェット>、不正グループの<濃い緑色のフォード・小型トラック>、デッカー自身の<地味なグレーの1979年型プリマス・ヴォラーレ:デトロイトがこれまで生産した車種の中で、もっとも印象に残らないスタイルの車><レンタカーの白いサンダーバード>、デッカーの元妻の<ファイヤーバードとジャガー>、トーナメント優勝商品の<四輪駆動のダッジ・ラム、※2万ドルの賞金、バス釣りボート、バカンス用トレーラーに加えての!!>、TV釣り番組スターの<ジープ・ワゴニア、妻はエルドラドの新車>、ハイウェイの追いはぎたちの<みすぼらしい1974年型の茶色のコルドバ>、マイアミ警察刑事の<ダーク・ブルーのクライスラー・セダン>、大リゾート開発の湖で行われるトーナメントにでかける<ペンキの剥げかかったおんぼろボートをひっぱるごみ用11トン・トラック(T_T)/~~~>などなど。
 おまけに…、マイアミで有名な??ひどい交通マナーの部分をちょっと引用しよう、
『トーマス・カールに言わせれば、パルメット・エクスプレスウェイはニューオーリンズのどの道路よりも、オーランドの国道4号線よりも酷かった。トーマス・カールはつねに迅速かつ機敏な運転を自慢していたが、その自信はパルメットで粉々に砕け散った。轟音を響かせるセミ・トレーラーやマフラーをひきずる車高の低いチューンド・カー、チェリー色のポルシェが両脇をどんどん追い越していく。まるで彼の車がセンターラインに立ち往生しているかのようだった。マイアミのドライヴァたちに関する噂は、トーマス・カールもかねがね耳にはしていたが、これで家に帰って、噂はすべて本当だったと言える。連中のスピードときたら、こっちが悪態をついてやる暇さえもないと。』
(2006.4.9 #408)

顔を返せジャガーXJ6Skin Tight (C)1989汀一弘訳 角川 1992

『ケモはボネヴィルを車庫から出して<ささやきのシュロ湯治園>まで走らせたが、受付はドクター・グレイヴラインはこちらにいませんと言った。受付はケモの顔面の芝居がかった地勢に目をとめて、急患ということで先生の自宅に連絡を取ろうかと言った。ケモはけっこうだと礼を述べた。
 診療所を出たケモは建物の横に回りこんだ。そこは従業員の駐車場になっている。グレイヴラインの新車、しゃれたジャガーXJ6がちゃんと駐車してあった。ミック・ストラナハンに以前のを吹き飛ばされてすぐ買い替えたのだ。セダンは深みのある赤に塗られていた。キャンディ・アップルとでも言うんだろう、とケモは推量した。もっともジャガーを乗り回すようなやつらは、もっと気取った名前で呼んでるんだろうが。窓ガラスはなかをのぞかれないように灰色にくすませてある。盗難予防警報装置をしかけてあるんだろうと思って、ケモはドアにもボンネットにも手を触れないように注意した。』
--COMMENT--
 フロリダ検察局をやめて今は干潟の船屋に隠遁している元捜査官が何者かに狙われるようになり、昔の美容整形外科医がらみの失踪事件の犯人を追う。奇想天外な変な登場人物(主人公もかっこう良すぎるし)には、笑わせられるシーンがたっぷりではあるが、筋立てが粗っぽく、こなれていない翻訳も読みにくく全般としてはいまいちか。
 主人公ミックの"古びたクライスラー・インペリアル"(←捜査官時代のクルマでしょうね)、整形外科医のところで看護婦をしていたマギーの元夫が撥ねられた"マイアミ・グランプリに出走中のフェラーリ"、整形外科医に雇われた殺し屋ケモの"ロイヤルブルーの1980年型ボネヴィル"、ミックの元妻の結婚相手(弁護士)の"5万7千ドルのマセラッティ"…など。(2006.4.18 #410)

珍獣遊園地クライスラー・ルバロンNative Tongue (C)1991山本楡美子訳 角川 1994

『7月16日、ひりひりするほどの暑い南フロリダで、テリー・ホエルバーはマイアミ国際空港のエイヴィスのカウンターに立ち、派手な赤のクライスラーのルバロン・コンヴァーティブルを借りた。初めは、性能がよく燃費のいいダッジ・コルトに決めたのだが、妻が、だめよ、一生に一度ですもの、かっこうよくいきましょ、と横槍を入れたのだ。
 で、マイアミのドライヴァー気質を見越して、特別衝突防止装置付の赤いルバロンにした。家族−妻のゲリ、息子のジェイソン、娘のジェニファー−をコンヴァーティブルに押し込み、さっそうと高速道路へ向かった。
 カー・ゲームが好きな子どもたちは早速行きかうルバロンの数をかぞえはじめた。ホエルバー一家がスナッパー・クリークに着く頃には早くも17台を数えるに至った。「しかも全部がレンタルとは」テリーはつぶやいた。彼は馬鹿をみた気がした。マイアミの旅行者は全員が赤いルバロンのコンヴァーティブルに乗っている。<中略>
 フロリダ・シティに近づくころ、雨が降り出した。さもありなん、コンヴァーティブルの屋根は動かなかった。何かがひっかかっているか、ダッシュボードのボタンを間違って押したのかどちらかだろう。一家はアモコのガソリンスタンドを見つけ、フルサービスの給油ポンプのそばに車をとめて、どしゃ降りの雨が止むのを待った。それみたことか、かっこういい車なんて言うから、とテリーは言ってやりたくてたまらなかったが、妻はずっとペーパーバックを読む振りをして顔を上げなかった。』
--COMMENT--
 引用は本書の冒頭部分となり、フロリダ観光に来た一家が借りたルバロンで幸先のよくないスタートをするところだが、さらに走行中に大きなネズミが投げ込まる。なんとこのネズミが絶滅危惧種の最後の二匹の片割れ…であり、いよい"フロリダ野生動物保護ミステリー"ハイアセンの、真面目かつクレージーな大人のユーモア炸裂冒険ロマンが始まる。
 絶滅危惧種ネズミを頼まれて盗んだ人のいい二人組みの"1979年型クライスラー・コルドバ:泥棒に入って逃走する時にエンストしてつかっまてしまった"、その二人組みがまた盗みにいくときに使う"エル・ドラゴとレンタカーのカトラス"、舞台となるノース・キー・ラーゴの二流テーマパークの広報担当副社長の"額面どおりの3,500ドルで買った赤いマツダ"、テーマパーク記念入場者の賞品候補車が"最初は4万ドルのコルヴェットで、次に2,500ドルの1964年型のフォード・ファルコン、次次案の1966年型のシヴォレー・コルヴェア、結局はニッサン300-Z"、ぬいぐるみのあらいぐま役の女優志願の"1979年型ビュイック・エレクトラ"などなど登場車も大うけモノばかり!!。(2006.5.7 #413)

虚しき楽園ジープ・チェロキーSTORMY WEATHER (C)1995酒井昭信訳 扶桑 1998

『若者たちが近づいてくるのは、姿が見えるずっと前から音でわかっていた。じきに後方から、一帯にスヌープ・ドフィー・ドッグを鳴り響かせ、ハリケーンで割れなかったわずかな窓をびりつかせて、改造して馬力をあげたジープ・チェロキーが走ってきた。チェロキーはスナッパーを追い抜き、角を曲がって姿を消すと、そのままブロックを一周してきて、もう一度後ろから追い越していった。
 スナッパーはにやりと笑った。ははあん、このピンストラップのせいだな。ガキども、おれを金持ちと思っていやがる。
 スナッパーは歩き続けた。さらにもう一周してやってきたチェロキーは、もはやけたたましいラップ・ミュージックを響かせてはいなかった。馬鹿どもが、これじゃ、さあ見てろ、いまからこのおっさんを襲うぞ…と宣伝しているようなもんだ。
 チェロキーがうしろに迫るころあいを見計らって、スナッパーはひょいと車道側に寄り、歩みをゆるめた。同時に、肩にかけたトニー・トーレスの散水用ホースをおろし、輪を作る。チェロキーが真横にならんだ。若者はいった。
「ヘイ、クソジジイ」
「おはようさん」
スナッパーは平然と応じ、ゴムホースの輪をすばやく若者の首にかけ、車からぐいと引きずりだした。若者は銃を取り落とし歩道に転げ落ちる。スナッパーはすかさずその銃を拾い上げ若者の胸を踏みつけ、片手でホースを思い切りねじり上げそいつの首をしめあげた。』
--COMMENT--
フロリダを襲った今世紀最大のハリケーンで、保険金詐欺をもくろむもの、ハネムーン中のカップル、自然保護を信奉する世捨て人のもと州知事、トレーラーハウスが潰れて死んだ母親のあだ討ちをする息子…一癖二癖もある登場人物−へんちょこりんな行動ばかりする連中だが憎めないというか反対に、とても魅力的な連中が織り成すスラップスティック・コメディ。フロリダとフロリダの人々(田舎ゆえの素朴さやでおせっかいが魅力)が大好きなハイアセンの真骨頂ミステリ!!
《主な登場車》ハリケーンから避難中の(父親から借りた)レクサス、オーガスティンの元カノジョのトヨタ・スープラ、トレーラーハウスのセールスマンの妻が駆け落ちして乗っているフォルクスワーゲンのヴァン、あだ討ちに出かける息子のキャディラック・クーペ・ドォヴィル、所有車当てがお得意のシボレー・ルミナ(中流の定番)とニッサン280Z 、もと建築監視員の妻のクリーム色のビュイック・エレクトラ、災害救援に向かう宣教師たちのダッジ・ミニバン、エピローグに出てくるインフィニティQ45(ミステリには滅多に登場しない)など。(2006.5.17 #414)

フラッシュジープ・チェロキーFLUSH (C)2005千葉茂樹訳 理論社 2006

『「落ちつきなさいな。その銃は本物じゃないから」シェリーはいった。「ライターよ」
シェリーが引き金を引くと、明るい青い炎が銃口にともった。
「なかなかよくできているでしょう? やっかいな連中を脅すには十分」
一時間以上国道を走り続けている。とくに目的はないようだ。ぼくに話さなければならないことがあるんだなといいながら、ライス・ピーキングの話でとりみだす。ライスがいかにだめなやつで、そんなライスのことを心配している自分がバカバカしくなる、といったようなことだ。そして、さめざめと泣いて、しばらく鼻をすすって落ちついたかなと思うと、また一から始まる。
 シェリーが車をUターンさせて「あたし、いったいどこに行くつもりだったけ?」とつぶやいたときには、もう、シュガーローフキーにさしかかっていた。帰り道、シェリーはマラソンのセヴンマイル橋のたもとにあるパーキングエリアに車を止めた。そこは、海に沈む太陽の写真を撮ろうとカメラをかまえた観光客でごった返していた。曇っていてグリーンフラッシュが見られる状況ではないし、頭が混乱していて、じっと立って夕陽を見ているような心境でもなかった。』
--COMMENT--
ハイアセンがティーン向けに書いたロマンチックでユーモアたっぷりの家族もの。自然保護のために一生懸命になって度をすごし留置場にぶちこまれてしまう情熱家の父親、父をなんとか助けようとする主人公の少年ノアと妹、一時は離婚まで考えたけどなんとか踏みとどまって家族を守ろうとする母親… ヤングアダルト向けだけでは勿体無いほどの味わいです。
 引用は、違法現場を押さえるため協力してもらう元カジノ船の女性バーテンダーと彼女の"グリーンのチェロキー"でドライブしているシーン。ノアが生まれたのが"1989年型シボレー・カプリス"の車内:キーラーゴからマイアミの病院に向かっている途中だった。父親を助けてもらう資金にしようと売り払うつもりだったのが97年型ダッジのピックアップ・トラック。(2006.7.6 #424)

復讐はお好き?クライスラー・コルドバSkinny Dip (C)2004田村義進訳 文春 2007

『そこにはウェスト・ボカ・デューンズ第二分譲地という名前がついているらしい。
「デューンズ…、砂丘だって?」ミック・ストラナハンは言った。「海岸から15マイル以上も離れているのに」
「チャズは第一分譲地が希望だったの。ゴルフ場に面しているから」ジョーイ・ペローネは答えた。「でも、そのときにはすでに完売していたのよ」
「どの家も同じに見える」
「実際に同じなのよ」ジョーイは営業マンの口調をまねて続けた。「このモダンな分譲地にたつ307戸の邸宅は、主寝室が西側にあるか東側にあるかの違いだけで、すべて同じつくりでございます。なお、プールはオプションとなっております」中略
「あなたは島暮らしが似合っているわ、ミック」ジョーイは言って、ダッシュボードを叩いた。
「いまどきこんな車に乗っている人はいない。すくなくともプッシー・マグネットとは言えない」
「えっ?」
「チャズの言葉で、イケてる車のことうお」
クライスラー・コルドバは走るアンティークだ。言っておくが、君が尻に敷いているのは、最高級のコリンシアン・レザーなんだぜ」
「いまは見るかげもないわ」
 それはミックが本土に来たときに使っている車で、たいていディナー・キーの係船地のそばのイチジクの木の下にとめっ放しになている。錆びだらけで、あちこちガタがきているが、巨大なエンジンだけは奇跡のようによくまわる。』
--COMMENT--
 待ちに待ったハイアセンのフロリダ・スラップスティック・コメディは、期待通り最高の面白さ。結婚記念で乗ったクルーズ船から突き落とされた妻ジョーイがなんとか生き延びて、その夫に復讐する…というだけだけだが、おかしくない登場人物は一人もいない!!というほど、会話といい人物描写といい、楽しませてくれる。とくに、悪徳農場主の部下のチョー変人ボディーガードと老人ホームの老女とのかかわりなんか、とてもほのぼのとさせくれる絶品キャラクター。読みやすく気のきいた翻訳も好感がもてる。
 引用は、ジョーイを助けた孤島に住むミックと、夫のことを偵察に行くシーン。ミックの車は、『顔を返せ』では"古びたクライスラー・インペリアル"だったけど、やはりクライスラーが似合う。ニシキヘビを家で飼っている刑事の"グレーのフォード"、ジョーイのトヨタ・カムリ、夫の"黄色のハマー"、ミックがレンタルする"緑のサバーヴァン"、ボディーガードがエーヴィスで借りる"黒のグランド・マーキー"、そのあと棚ボタ金で買う"アップルレッドのF150"など。(2007.7.7 #486)

麻薬シンジケートを撃てカルマン・ギアPowder Burn (C)1981平井イサク訳 サンケイ 1987

『メドーズは27番街を北に向かって車を走らせていった。<中略>フラグラー通りとの交差点の近くで、黒と金色のトランザムがメドーズの車の前に割り込んだ。メドーズはこういうときにおとなしく引っ込んでいる男ではなかった。リトル・ハバナには、車の運転に関して独自の不文律があり、男が慎重に運転していると、粋がって割り込もうとする者が必ず現れるのだ。
 メドーズは無意識のうちにギアを落とすと、トランザムの前に出た。カルマン・ギアのエンジンが咳き込むような音をたてた。メドーズの車はすでに12年も走り続けてきたぽんこつ寸前という代物で、4本のシリンダーがきちんと点火しなくなってからもうかなりたっていた。』
--COMMENT--
 ハイアセン作品(※モンタルバーノと共著)の初訳本であり、以降のマイアミ・ミステリのスタイルの基となっている。以前の妻が自動車事故に巻きこまれたのを目撃した建築家メドーズが麻薬組織の標的になる。ストーリー展開が冗長で途中でギブアップしましたがm(__)m
 主人公のおんぼろカルマン・ギア、市警警部の兄の"サハラ・ベージュのベンツ450SEL"、同僚刑事の"ぴかぴかに磨き上げた77年型マスタング"などが登場する。(2007.7.24 #492)

迷惑なんだけど?フォード・エクスプローラーNature Girl (C)2006田村義進訳 文春 2009

『飛行機がタンパの空港に着陸した際の衝撃は普通以上に大きかった。ユージェニー・フォンダはコンコースで最初に見つけたバーに入り、BGMで流れていた曲が“マルガリータヴィル”だったので、マルガリータを注文した。
ボイド・シュリーヴはビール。グラスをあげて言う。「自由に乾杯」
「言うと思った」
「どうしたんだよ。新しい人生の門出だっていうのに」
「ここでどんな車を借りるつもり」
「サターンだよ、普通の」
ユージェニーは口笛をふいた。「やっぱりね」
「サターンの何がいけないんだい」
ユージェニーは笑う。「セコくばい? どうせ奥さんのカードで払うんでしょ」「ちょっとくらい羽目をはずしてもいいんじゃない。たとえばキャディラック・エスカレードにするとか。会社の出張じゃないのよ。わたしたち、遊びにきているのよ」
「わかった、わかった。いちばんデカい車を借りるよ」…中略…
 エイヴィス・レンタカーのオフィスへ行くと、カウンターの前で45分待たされたあげく、結果的には、ありふれたフォード・エクスプローラーしか借りることができなかった。キャディラック・エスカレードは残っていなかった。ふたつのカメラケースを持った中年男が最後の一台を借りてしまっていたからだ。』
--COMMENT--
 ハイアセンの長編第13作は、12歳の息子と暮らす、正義感の強すぎる母親が主人公。夕食時にかかってきた電話セールスの男にキレて説教しようとばかりに無人島におびき寄せるが、他にも変人奇人がたんと集合してフロリダ・スラップスティックが繰り広げられる。
 引用は、そのセールマンが彼女とフロリダに到着するシーン。SUVでも、やはり憧れはキャディラックということのようだ。(2009.8.28 #604)


作家著作リストH Lagoon top copyright inserted by FC2 system