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HIGGINS, JACK /ジャック・ヒギンズ

地獄の季節ミニ・クーパーA SEASON IN HELL, (c)1989早川書房,1991

『「あれがいま言っていたショーンです」とジョージが言った。
「ええそうね」と言って彼女は立ち上がった。「行きましょう」
「ちょっと待ってください。まだビールが残っている」
「早く、ジョージ!」とサラはぴしゃりと言い、店を出た。
 外ではイーガンが古い年式の赤いミニのドアの鍵を開けていた。
サラとジョージはすばやくメルセデスに乗り込んだ。それと同時にイーガンのミニが走り出した。「ミニ・クーパーか」とジョージが言った。「あんなものはもう今では製造されてませんけど、でもあれはレーシングカーみたいにスピードが出るんですよ」
「彼のあとを追ってちょうだい、ジョージ」
「なんですって、タルボットさん、何をしようっていうんです?」とジョージはイグニッション・キーを回しながら言った。』
--COMMENT--
久しぶりのヒギンスの作品。
イギリスのSASをやめた主人公のイーガンが巻き込まれる事件のミステリーであり、彼の車がミニ・クーパーであり、ヒギンスらしい選択といえる。
 ほかにもたくさんの車が登場するが、全部きちんと車名が表現されており、アルファ・ロメオ、ロールス、ベントレー、ジャガーなど登場人物に合わせた設定がなされており、心憎い。
 ヒギンスは、飛行機にもこだわり、小説毎にいろいろな飛行機が登場するが、この本では双発小型機のセスナ・コンクゥェストが出て来る。
 H.パターソン、J.グレアム、H.マーロウなど別ペンネームもくわえると、すでに26冊が翻訳される巨匠の一人ではあるが、やはり60年代末から、70年代に欠けての作品が最も活力に満ちていたように思います。「真夜中の復讐者」1969、「鷲は舞おりた」1975、「脱出航路」1976あたりが、ぼくとしては大好き。(91/05)

復讐の血族ダイムラーEdge of Danger (C)2001黒原敏行訳 角川 2005

『ベルは古いダスター・コートを出してもらった。ポケットが大きく、銃床を折りたためばアーマライト銃が楽に入る。サウス・オードリー通りを歩き、まもなくそのイタリア料理店を見つけた。ダイムラーが停めてあり、運転手がライトをつけて新聞を読んでいた。
 道路地図を調べたお陰で、ファガースンの車が帰りにどう走るかはわかっている。レストランを出て、パーク・レインを左に進み、カーゾン・ゲートでUターンして対向車線に移り、キャヴェンディシュ・スクェアに戻るはずだ。ベルはパーク・レインを渡り、暗いハイド・パークの柵を乗り越え、木の下の闇に潜んだ。持ってきた暗視ゴーグルを着け、レストランの店先を監視する。
 やがてファガースン、ディロン、ジョンスンの3人が出てきて、ダイムラーに乗り込んだ。ベルはアーマライト銃を出し、銃床をのばして、待ちかまえた。夜も遅いので交通量は少ない。ダイムラーはカーゾン・ゲートで方向転換して速度をあげた。ベルは後部車輪を狙って撃った。ちょうどその時、ディロンは公園で光が閃くのを見た。タイヤが破裂して、車体が左に振れ歩道に乗り上げる。ファガースンはドアに身体を叩きつけられた。ジョンスンは床に両膝を着く。
「襲撃だ」ディロンは言った。「発射炎が見えた」
車を飛び出し、公園の柵を乗り越えて、ワルサーを抜いた。』
--COMMENT--
ショーン・ディロン・シリーズの9作目。ベドウィンの血筋をもつイギリスの名門ラシッド家兄弟が次々に仕掛けるテロにディロンらが立ち向かう。このごろのヒギンズもののとおりで、犯罪者グループはやたたらに殺しまくり、ディロン側も簡単に撃退したり殲滅させたり…全編アクションと言えなくもないが、ドンパチしかないというのも寂しい。
 ラシッド家のランド・ローヴァーやメルセデス、ディロンが使うスズキ、ショーグン(パジェロの欧州名、と注がつく)、ミニ・クーパーなど英国人好みの車がたくさん登場する。(2005.12.24 #390)

審判の日リンカーンDay of Reckoning (C)2000黒原敏行訳 角川 2004

『湿気の多い三月の、マンハッタンの夕刻、一台のリンカーンがトランプ・タワーの前で停止した。雪の季節はとうに去り、いまは土砂降りの雨だった。ジャック・フォックスは後部座席、ルッソが運転席、ファルコーネが助手席に座っていた。歩道際に寄せた車からファルコーネが降りて、傘をひらいた。
フォックスが言った。「二時間ほど休憩してろ」ポケットから百ドル札を一枚出した。「食事でもしてくりといい。用がるときは携帯で呼ぶ」
「わかりました」ファルコーネがトランプ・タワーの玄関まで付き添った。「ドン・ソラッツォによろしく」
フォックスはファルコーネの肩を叩いた。「アルド、ボスはお前が忠実なことをよくご存知だよ」』
--COMMENT--
ショーン・ディロン・シリーズの8作目。マフィアの不正を取材していたジャーナリストの妻が殺されたため、夫とディロンがその首謀者の裏事業をことごとく壊滅させ復讐する…無敵の主人公たちは相変らずの興ざめではあるが、よくいえば切れのよいアクションだけは楽しめる。
 上記のリンカーンは、マフィア御用達車以外ではミステリーで見かけない車だ。ほかは、ディロンのミニ・クーパー、ロンドンの助っ人のレンジ・ローヴァー、同ギャングのトヨタ・ヴァンなど。(2006.1.7 #393)


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