HILL, REGINALD ／レジナルド・ヒル

幸運を招く男モリス・オックスフォード BLOOD SYMPATHY, (c)1993 早川,1639: 『「まったくなんてやつだ」彼は受話器を置いた。
「今夜は遅くなるわけにはいかないんだ。ジーナと劇場に行くことになっていて･･･」
彼はジョーを値踏みするように眺めた。
「もしや、きみはわたしと方向が同じじゃないだろうね。シックススミス？」
　ジョーはため息をついた。確かにそうだった。おおまかにいえば、ラシラス団地のコンクリート造りの建物は、カニングズビー・ライズの偽チューダー様式のヴィラから迫撃砲を撃ち込める程度の距離にあった。
「送りますよ」彼はいった。
　古いモリス・オックスフォードはあちこちガタピシいったりキーキー鳴ったりしたが、エンジンは完全無欠だった。ジョーはクロスワードの才能はないかもしれないが、こと機械となると、魚の夕飯を期待して喉をゴロゴロ鳴らしているホワイティさながら、エンジンを回転させることができた。』
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レジナルド・ヒルが新しい私立探偵ジョー・シックススミスを誕生させた。
小柄で禿げた黒人の元旋盤工、家族は黒猫一匹と、なんとも風変わりな素人探偵である。
　こんなキャラクターなので、車も頷ける選択がされている。(96/11)
異人館メルセデスSLK THE STRANGER HOUSE (C)2005 松下祥子訳早川 2007: 『彼女は外に出た。バックミラーに小さい十字架と聖クリストファーのメダルを下げた黒いメルセデスSLKが彼女のフォーカスの横に駐車してあった。誰の車か、考えるまでもない。彼女は橋を渡った先のスティンバンクに目をやった。細い道で、かなり傾斜がきつそうだ。歩いていくうちにトーストのエネルギーをすぐ消費してしまうといけないので、食料を持っていったほうがいい。
　彼女は車に近づいてドアをあけ、グラブボックスからチェリー・ライプの最後の一個を取り出した。赤いミラー・レンズのレイバン・プレディターズもそこに入っていた。これはマーティーからのプレゼントで、サムは親友同士だからゆるされるぶしつけな態度で受け取り、こう言ったのだった。
「ありがとう、でも、行くのはイングランドのケンブリッジで、太陽を拝めるチャンスは熱帯雨林より少ないって話よ」するとマーティーは答えた。「あたしが心配しているのは太陽なんかじゃなくて、あんたのそのバジリスクみたいな目のほうよ。一目にらまれると、たいていの男は急に歯医者の予約があったのを思い出すんじゃない。そんなで、どうやってイギリスの男の才能を試そうっていうの？」』
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　ノン･シリーズ作品。イングランド北西部カンブリア州の小さな村イルウエストが舞台。祖先を探しにやってきたオーストラリア人女子学生と、スペインからきたカソリック教徒にまつわる歴史を調査しにきたスペイン人の若者が過去の事件を解き開いていく。
　数学を専攻するあけっぴろげな女子学生サム（サマンサ）のキャラクターが独特で面白い。フォード・フォーカスはそんな彼女が借りているレンタカーでぴったり、一方、以前は司祭を目指した真面目な若者の車が上記のメルセデスSLKなのだがちょいゴージャスすぎるなぁ。ほかに、郷士のレンジローバー、その娘のワーゲン・ポロなどが登場する。(2007.4.21 #472)
ダルジールの死フォード・フォーカス THE DEATH OF DALZIEL (C)2007 松下祥子訳早川 2008: 『8時半きっかりに、彼はフォード・フォーカスに乗り込んでいた。車は目的にふさわしく、曖昧な青っぽい緑色だった。…中略

　一時間半後、二人はハザセージ村に近づいていた。ほかの人間の運転なら一時間後だったろうが、ロッドは第十一戒"前方一マイル以上に車がないときでない限り、追い越すなかれ"というのがあると考えているらしく、しかも速度制限はすべて、2パーセント強のゆとりを加えて、細心に守られていた。
「よく運転するのか、ロッド？」しばらくたって、パスコーは訊いた。
「でかい玉突き衝突以来、あんまりしていません」青年は震え声で言った。
なんだって！　パスコーはぎょっとした。ところがそのとき、ロッドがにやにやしているのが目に入り、からかわれているのだとわかった。
「みんなにのろいと思われているのは承知です」ロッドは言った。…中略

　二人は城を出て車を走らせていた。運転しながらミセス・キューリー-ホッジとの出会いについて報告しなければならないとなると、ロッドのスピードは半分に落ち、あまりのろのろしているものだから、道路を横断しようとするキジは立ち止まり、餌はないかと路上を調べてから、脇へ退くのだった。』
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　ダルジール・パスコー・シリーズの19作目は、上司のダルジール警視が瀕死の重傷で生と死の間をさまよっている間に、パスコー警部がテロ対策組織に協力して捜査することになる。しかしダルジールの唯我独尊風の行動でテロ組織を追われ、ついにとことん単独捜査で突っ走る。もって回ったストーリー展開をちょっと我慢すれば、会話もデテールも登場人物の性格も、英国ユーモアづくしで大いに楽しめる。ウェールズ人、イングランド人、ヨークシャー人の気質の違いなど抱腹絶倒もの。
　引用は、対テロ組織の"超安全運転"ロッドに運転させたときのシーン。第11戒にしろキジにしろ、思わず唸ってしまう。パスコーのいる中部ヨークシャー警察にも、ちょっとピンぼけの若い巡査がいたり登場人物の多彩さには事欠かない。この巡査が轢かれそこなった黒いジャガー、イスラム教徒学生の婚約者の"緑色のスコーダ"なども登場する。(2009.3.21 #586)
ベウラの頂ディスカヴァリー On Beulan Height (C)1998 秋津知子訳早川 2000: 『「昨日の朝、この道の上のほうで車を見かけませんでしたか？」
「車？ああ、あのディスカヴァリーのこと？　ええ、またあそこにいたわ。なぜ？まさか、あの車が……」
「いえ、疑っているわけではありません」ノヴェロはきっぱり言った。「ただ、数台、捜査対象から除外するために確認が必要な車があって、その一つなんです。」
「そうよ、グリーンのランドローバー。地元の車ね。中部ヨークシャーの文字がついえいたから。それに今年登録した車だったわ。それから数字の一つは六だったわ、たしか。でも、ごめんなさい、ほかの数字は思い出せない」
「大したもんですよ」メモをとりながらノヴェロは言った。「でもあなたは“また”と言いましたね？」
「いえね、この二、三週間のあいだに四、五回見たのよ。だから車のナンバーのことを覚えていたんだと思うわ。わたしってすごく注意力散漫だから、もし一回しか見ていなかったら、たぶん007のナンバープレートをつけた黄色いポルシェだって言ってたかもね。で、これからどうするの？　緊急手配みたいなことをするの？」
「いえ、そんなドラマチックなことは、ミセス・ディケンズ」ノヴェロは言った。』
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　ダルジール・パスコー・シリーズの15作目は、ダム建設のために湖底に沈む山村でおきた少女失踪事件が15年たってまた再発する。本作品でも、ダルジールが目をひからせているものの、主にパスコーと引用にでてくる若い女性刑事のノヴェロが活躍する。15年間も経過した事件を振りかえるため登場人物がめちゃ多く、また込み入ったストーリーになっていて余程忍耐力がないと読み通せない長編ではあったが、珠玉のようなサスペンスでもあることも確か。
　引用あるような、失踪事件が起きた山道で見かけられた車が一台一台捜査され、他には古書店主のサンダーバード、ノヴェロのおんぼろゴルフ、定年退職直前の古株警部のラーダなどが出てくる。(2009.3.30 #587)
午前零時のフーガローヴァー、ニッサン350Z Midnight Fugue (C)2009 松下祥子訳早川 2011: 『ダルジールが出て行ったすばやさに、ジーナ・ウルフはあっけにとられた。
彼女は家を見張っていたのだ。人気がないと思っていると、ふいに玄関ドアがぱっとあき、太った人物が現れた。あのサイズに騙されるな、と警告は受けていた。ヘンリー八世も太っていたが、陽気な王と同様、アンディ・ダルジールはあの体重を利用して、邪魔な人間をすべて押しつぶす。とはいえ、あんなに太った人があんなに速く動くとは、彼女は予想もしなかった。
　彼は排水口をおりるタランチュラのごとく車に滑り込み、するとおんぼろ車は一発でエンジンがかかり、オーナーの意外な速さに劣らぬ驚くべきスピードで出て行った。自分のニッサン350Zが追いつけないとは思わなかったが、慣れない道では目を離さずにいる必要があった。
　彼女がシートベルトを締め、駐車場所からすっと出て追跡を始めたとき、ローヴァーは300ヤード先のT字路に達し左折した。-中略-
　七、八分後ローヴァーは＜大聖堂専用＞といかかれた駐車場に曲がりこんだ。
またしてもびっくり。この男について聞かされた話しには、信仰をほのめかすものは何もなかった。』
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　ダルジール・パスコー・シリーズの第22作は、前作での大怪我のあと勇んで職場復帰し、知り合いの首都警察の警視長から頼まれた失踪人探しに奔走する。24時間の間に様々な人物と過去が絡み合みあう重奏のストーリーは読者にとっても大きな緊張を強いられる。とても面白いけど展開をきちり押さえるのにおおきなエネルギーも必要。
　引用はダルジールが日にちを間違い日曜日にヨークシャー警察へ出勤するシーン。失踪した男の妻が警視を追跡する…が、その後にもう一台のVWゴルフの男女が追いかける。議員がわざと乗るややおんぼろのヴォクソール・コルサ…普段はアウディA8を使う警察本部長のBMWx5、失踪者の古いアストラなどたくさんの車が登場。(2011.6.14 #690)

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