lagoon symbol
HOYT, RICHARD /リチャード・ホイト

シスキューの対決ダットサンSISKIYOU, (c)1983早川,1988

『タクシーを拾おうとしてわたしたちが歩き出すと、カーターがどこからともなく現れた。彼もほっとした顔つきだった。
もっとも、一瞬気がかりな表情もみせた。街のなかで車を尾行するのは厄介な仕事だ。しかし、カーターにとってすべては順調に運んだ。控えの要員が機転をきかせて、ダットサンで彼を拾いにきたのだった。
ダットサンはすばやい動きで、わたしたちのタクシーの後ろへくっついてきた。こっちは走行距離計に16万マイルという数字の出たプリマスだった。
 鉄道駅の出札口のかわいこちゃんが、空港ターミナルのこぎれいだがおたかくとまった女性職員と張り合っている。彼女に君の方がずっといいよ、と言ってやりたかった。たとえ彼女が地方短大しかでていなくて、正しい歩き方を教え込まれていなくともかまわない。気ままにあっちこっちへ搖れる、生地のままの自由奔放なおしりのほうがいい。』
--COMMENT--
オレゴン州南部のスティームボートという土地で魚釣りをしていた私立探偵ジョン・デンスンのところに女性の死体が流れて来るという一風変わった出だしで話がはじまる。
 英国情報部員のチームが使った車がダットサンであるが、よくミステリーものにでてくるフェアレディではなさそうである。多分、マキシマあたりではなかろうかと思います。
 引用の後段にでてくるくるように、冗談、ギャグ大サービスの軽快で、楽しい筋運びのアクション・ミステリーといえます。(92/2) 

ハリーを探せフィアット12830 for a Harry (C)1981浅倉久志訳 早川 1990

『サンダーはひどく真剣な顔になった。「『われわれは、今日、この都市のここでそれをつぶさに見たのです』」
「わぉ、なんと厳粛!」シェイが目をまんまるにしてみせた。
「そこで、《ゴッドファーザー》のテーマが流れると思いきや、どっこい生理用品のCMだった。若い娘が、ハンサムな彼とテニスをしたいのに、できなくてつまんない。ところが、ブランドを変えたとたんに、彼女はコルベットの運転席でその彼といちゃいちゃしている。一日中テニスでバテたけど、最高にしあわせ…」
サンダーはヒッ、ヒィ、と笑いながら自分のデスクへ帰っていった。
私は経費明細に記入した《フィアット128、1300CC、4ドア、付属品―ピレリ・ラジアル・タイヤ、AM/FMラジオ、タコメーター》
 その伝票をパウエルに差し出した。彼は信じられないという顔でわたしを見た。
「間違いなくハロルド・ボールキンの手に渡るようにしてくれ、払ってくれるから」』
--COMMENT--
 私立探偵ジョン・デンスン・シリーズの訳出3点目は、シアトルの新聞社内で賄賂を受け取っている悪徳記者を探し出すためにジョンが記者に化けて調査をする。いきいきとして軽妙なスラップ・スティック・スタイルが楽しめる。
 主人公の車が引用に登場するフィアット128(フィアットに乗る私立探偵は珍しい)であり、乗車中に何者かに銃撃されて車をおしゃかにされてしまうシーンもある。その後はフォード・フィエスタをレンタルする。(2008.3.4 #536)

デコイの男フィアットDecoys (C)1980浅倉久志訳 早川 1988

『リーアンはビクトリアからポート・アンジェルスまで一時間半の船旅のあいだ、一度もポルシェを離れなかった。ハモンドもリンカーンの中を動かなかった。パメラ・ユーはフィアットのなかでリーアンを見張っていた。カイユースへの旅にパメラのBMWを使ったのは、ここにきて実に好都合だった。彼女は私のフィアットの内部を一度も見ていないのだ。私は上の階にいって新聞を読み、紙のボールにはいったクラム・チャウダーを食べた。まずくはなかった。
 みなさん、車におもどりください、とフェリーのアナウンスが告げたとき、わたしはまたみぞおちにしこりを感じながら、客室からの階段を下りた。いよいよ終幕のはじまりだ、しかし、ハモンドのおとりを正しく見抜いたかどうか、まだ自信がない。』
--COMMENT--
 銃をもたない、いつも生のカリフラワーをつまみにビールを飲む心優しい私立探偵デンスンの第一作。しゃれた会話、派手な立ち回り(いつも依頼主の女性探偵に助けれるのだが)…滅法女性に弱く優しい、豊富なトピック(アボリジニが走ってカンガルーをいかに掴まえるかなど)、たくさんの愉快な登場人物、スピード感のあるストーリー展開など大変面白い。そう、チャンドラー、ハメット、ロスマクなどこの当時のミステリの香りを思い出しますね。
 引用は、何かは分かっていない密輸品の運び屋のおとりになって、カナダからアメリカに戻るフェリー船上のシーン。この作品からデンスンの真っ赤なフィアットがたっぷりと登場してくる。実は"おとりフィアット"もあるとかタイトルの<デコイ>がじわっと効いている。デンスンがタグを組む新聞記者の"十万マイルのおんぼろカブトムシ"やFBIの車なども出てくる。そうそう、シアトル市内で尾行をまくのにモノレールが使われていました。シアトル万博 (1962年) の時に開業したもので検索すると、不思議な複線構造がずいぶん話題になっていて一度見てみたいものだ。(2008.5.23 #546)


作家著作リストH Lagoon top copyright inserted by FC2 system