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HUNTER、STEPHEN /スティーヴン・ハンター

クルドの暗殺者トヨタTHE SECOND SALADIN, (c)1982 新潮社,1991

『「あなたとフレンチーはそんなおかしな世界にいたのね。ポール。そんなところに足を踏みいれなくて、ほんとによかったわ。あれが私の車よ」
二人はフォート・マイヤーの軍用地と墓地を区切る煉瓦の壁の所まで達していた。そのすぐ向こうに陸軍の駐車場があり、汚れた黄色いトヨタが一台止まっている。
 マリオンが微笑むと、その顔が束の間明るく輝いた。昔は実に美しい女性だった。それに較べてフレンチーは醜いとしかいいようのない容貌をしており、チャーディーは常々、これほど美しい女性の忠誠を得ている彼の能力に感心していたものだった。 』
--COMMENT--
いまちょうど湾岸戦争後問題化している、イラク北部山岳地帯のクルド族の暗殺者がアメリカ高官を復讐のため一人で狙う。
その暗殺者と共に戦った元CIAの“カウボーイ”が、この企ての裏にある事実を解きあかしていく。
 文中の“トヨタ”は急に出て来るのであせってしまうが、やはり元CIAのフレンチーの妻だったマリオンのクルマであり、今は大学教授を夫にしているので、多分カローラあたりが似つかわしいし、納得できる。
 暗殺者がメキシコから国境をこえるが、メキシコの情景でそのほかいろいろな車が登場する。53年型デ・ソート、59年型エドセル、63年型ファルコン、80年型メキシコ製シヴォレーなど、メキシコらしい古いクルマが多い。
 また、現場工作の仕事ににあこがれる若いCIA局員が初めて実際の敵に追われる場面毎に、ル・カレの小説を思いだしながら行動する様子が描かれており、とても興味深い。(91/05)

ブラックライトメルセデスS600BLACK LIGHT (c)1996公手成幸訳 扶桑社,1998

『レッドは十時に到着すると、グレイのメルセデスS600をそこの街路上の、いたずらをされたり、盗まれたり、切符を切られたりする恐れのないもはもちろんのこと、触れられる心配すらない場所に駐車した。フォートスミス北方のクリフ・ドライヴにある家族の居宅から、その日の仕事に備えて頭をすっきりさせながら、一人で車を転がしてくる時間が楽しみになっているから、運転はいつも自分でする。とはいっても、彼はきわめつけのプロの男ふたりが乗り込んだ黒いシボレー・カプリースに先導されており、彼らはシグ・ザウアーP229セミオートマティック40口径拳銃の携帯をアーカンソー州から許可されていて、上着の下のホルスターにそれを携えていた。そろってタフで、冷静で、迷いのない優秀な射手だ。どちらも、すべての拳銃の弾丸と、ほとんどの散弾銃の弾を食い止める性能をもつケヴラーのセカンドチャンス防弾チョッキを身につけている彼らがレッドから遠く離れることはけっしてないのだ。 』
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久しぶりのハンター邦訳5作目で、上下800ページもの長編でちょっと疲れましたね。父親が、40年前、逃走中の脱獄囚との交戦で亡くなったとされる点に疑いをもち、真犯人を追うのだが、カーチェイスや、山中でのスナイパーとの死闘など派手なアクションがなかなかの見もの。最近は、こんなアクションものが少なくなってきたので、なつかしい感じすらする。(98/08)

極大射程ホンダ・シビックPoint of Impact (c)1993佐藤和彦訳 新潮 1999

『デートがあるとか、送ってもらう約束をしてしまったとかいわれるのが心配だった。しかしニックはついていた。ロヨラ通りにある連邦ビルの反対側の路上に車を停めて待っていると、午後五時三十五分にサリーが一人でビルから出てきて、通りを渡り、専用駐車場に入った。三分後には金色のホンダ・シビックが出てきた。
ニックは走り出した車をつけながら、彼女の住所を教えてもらったことがあるかどうかを思いだそうとした。ひたすら後にくっついていくと、サリーはインターステイト10号線を東に向かい、ポンチャトレーン湖畔で高速を降り、そのあとはジェンティリー・ウッズ方向を示す標識どおりに進んだ。やがて<フィル・ア・サック>で車を停めた。数分後、ビニール袋をふたつ下げた彼女が出てきたとき、ニックは行動に出る潮時だと判断した。
「サリー! おーい、サリー」
ニックは駐車場を走ってサリーを追いかけたが、その声に振り向いた彼女の可愛い顔に浮かんだ警戒の色をみて、たまたま居合わせたなどという嘘が通用しそうにもないのを瞬間的に悟った。』
--COMMENT--
久々に訳出されたs.ハンターの作品で、その後の「ダーティホワイトボーイズ」「ブラックライト」に登場するボブ・リー・スワガーが初めてでてくる。ベトナム帰りの伝説のスナイパーの彼が罠にかけられ、FBI捜査官ニックとともその秘密組織を暴く。まあ、ストレートで伝統的なアクションものだが、読み出すと止められなく展開のうまさと、極限の精度で1300mもの長距離狙撃をおこなう詳しい描写とか男ぽい筋立てが気に入りました。邦訳タイトルも、うまい!! 引用したシーンは、解職されたニックが元同僚のサリーから情報を得るため待ち伏せするところ。シビックはぴったりの設定ですね。(1999/03/03)


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