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IZZI, EUGENE /ユージン・イジー

地上90階の強奪マーキュリー、キャデラックTHE BOOSTER, (c)1989早川,1992

『彼の車は二台とも、波板スチールのトラック・ドアに面して置いてあった。えび茶のキャデラック・クーペ・デヴィルの新車。ぴかぴかに磨いてあり、頭上高く吊るされた裸電球の光を反射して輝いている。その隣にあるのが、1978年マーキュリー・マーキス・ブルーム。こちらも真新しい。351ウィンザー・エンジン搭載で、大きなショックにも耐えられる。重々しく、がっしりとして、頼りがいがある。キャデラックは前輪駆動だが、マーキュリーはずっと重い。彼はマーキュリーを選んだ。
 1階部分には2階に通じる階段もなければ、エレヴェータもないので、警報装置は取り付けていなかった。もっとも、車には2台とも、けちな自動車泥棒を遠ざけておくために警報装置がついていた。といっても、プロの自動車泥棒にかかれば市販の警報装置などひとたまりもないから、車を通りに出したときには、彼らから車を守ろうとしての何の意味もない。ヴィンセントは念のために、重いスチールの巻き上げ式トラック・ドアに、リモコンの開閉装置をつけていなかった。  ヴィンセントはマーキュリーのところまでとって返し、警報装置を切ってドアをあけ、ハンドルの前に座ると、エンジンをかけてアイドリングさせた。
 彼はトラック・ドアまで歩いて行ってボタンを押し、ドアが半分ほど巻き上がったところで止めた。それからマーキュリーまで戻り、ドアに吹き付けられて盛り上がった雪を蹴散らせながら、激しい吹雪の中にゆっくりと車を出し、通りへと通じるドライブウェイに乗せ、また外の出た。』
--COMMENT-- 老金庫破りの相棒のヴィンセントがマフィア抗争のネタになる録音テープを厳寒に見舞われているシカゴのシアーズ・タワー90階の金庫から盗み出す。そのヴィンセントの車が上記のもので、プロフェッショナルらしい雰囲気を伝えてくれる。 この二人の間の友情と、パートナーを組むシカゴ警察刑事の友情が熱く語られているため、シアーズ・タワーへ侵入するアクションそのものはさらりとしていて若干物足りない。(95/01)


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