lagoon symbol
JAMES, P.D./P. D. ジェイムス

策謀と欲望ゴルフ、フィエスタほかDEVICES AND DESIRES, (c)1989早川書房,1990

『その時、彼女の姿が見えた。銀色のゴルフがすごい勢いでドライブ・ウェイから飛び出てきて、東に向かってスピードをあげたのだ。金髪の上に毛糸のキャップをすっぽりかぶっていたが、キャロリンとすぐわかった。向こうが自分やフィエスタに気づいたかどうかわからなかったが、ジョナサンは反射的にブレーキを踏み、殆ど視野から消えるまでやり過ごしてから、後を追った。
 車は海岸沿いの道を北に曲がり、発電所のところで陸方向に、そして再び北に曲がった。
 ジョナサンはフィエスタゴルフの横に止めて、キャロリンの青と白のキャップを目で追いながら、後をつけた。埠頭にきて、すぐにボートに乗り込む姿が見つかった。今がチャンスだ。キャロリンと話さなければ。ジョナサンは小走りに近づいた。15フィートほどの船外機の小型ボートだ。女性二人は操縦席に立っていた。ジョナサンが近づくとキャロリンが振り向いた。「あなた、一体どういうつもりなの」』
--COMMENT--
 イギリス・ノーフォークの原子力発電所のある岬の寒村でおきた殺人事件をめぐっての、まさに英国調の本格推理クライム・サスペンス。女流作家らしく、女性の心の揺れ動きを木目細やかに表現し、緻密に無駄なく構成されたプロットはさすがと感じさせる。
 ゴルフやフィエスタ以外にも、ジャガーやBMWなどそのオーナーの性格にマッチした車が多く登場しており、作者の周到な気配りがすごい。
 英国、アメリカでベストセラーになり、日本でも91年ミステリーのベストワンに選ばれた。(92/08)

灯台アルファ・ロメオTHE LIGHTHOUSE (C)2005青木久恵訳 早川書房 2007

『5分後、着替えをすませた二人は出かけられる態勢になっていた。ケイトはピアーズと一緒に地下駐車場に降りた。アルファ・ロメオのドアの前でピアーズはケイトの頬にキスをして言った。「夕食をつきあってくれてありがとう。朝飯をありがとう。それからその間の何もかもありがとう。その謎の島から葉書を送ってほしいなあ。6語書いてくれれば十分だよ…”あなたがここに一緒にいるといいのに、愛をこめて、ケイト” もしそれが本当なら充分なんてものじゃないや」
 ケイトは笑っただけで答えなかった。リア・ウィンドウに<赤ちゃんが乗ってます>のステッカーをはったヴォクスホールが出ようとしていた。そのステッカーを見ると、ピアーズはいつも頭にくる。彼はダッシュボードから手書きのカードを掴み取り、ウィンドウに貼り付けた。<暴君ヘデロが乗っています>とあった。』
--COMMENT--
 アダム・ダルグリッシュ警視シリーズの翻訳13作目は、5人以内のVIPだけが訪れることができるロッジしかないカム島でおきた殺人事件を捜査する孤島もの。ただし、客とスタッフで15人しかいないのだが、なかなか犯人像が浮かび上がってこなかったり、ポケミスで400ページ!!とひっぱられて、読むのにかなりの忍耐力が必要。それに登場人物の名前とキャラクターが憶えにくく、最後まで登場人物紹介ページを参照しつつ読み進めなければならなかった。
 舞台となる島にはバギーしかなく、車は上記引用のケイト警部(本作の主人公)の彼がらみのところだけであった。ただし、<赤ちゃん…>になぜそんなに過剰反応するのか訳が分からなかったけどね? それにしても85歳にもなる著者の力作ぶりには頭が下がります。(2007.9.4 #505)


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