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Johansen, Iris /ジョハンセン・アイリス

爆風黒いトヨタの四輪自動車THE SEARCH (C)2000池田真紀子訳 二見書房 2003

『尾行されている。
サラはもう一度リアビューミラーを確かめた。黒いトヨタの四輪自動車。家を出て数マイル走ったところで眼にとまった車が、まだ後ろをついてくる。車通りの少ない道に入る前に、あの四輪自動車の運転手を調べた方がいい。サラは繁盛している<テキサコ>のガソリンスタンドに車を乗り入れて降りた。「待ってて、モンティ」
大きく6歩で道に戻り、まんなかに立ちふだがった。四輪駆動車が急ブレーキをかけ、ほんの数フィートを残してかろうじうて停車した。
「何やってるんだ」砂色の髪をした男が窓から頭を突き出した。「もう少しで轢くところだった」
サラは肩越しに振り返ってガソリンスタンドの様子を確かめた。よし、大勢がこちらを気にしている。「あなた、誰?」サラは車の脇へ回った。「誰なの、どうして尾行しているの?」
「尾行などしていない。僕は――」男はそう言いかけたが、ふいに微笑んだ。「ばれてしまったならしかたない。ヘンリー・スミスです。フランクリンから言われて、お宅からあなたを尾行してきました』
--COMMENT--
以前『スワンの怒り』を読んだ記憶があって、ひさしぶりに手にしたロマンスandサスペンス作家もの。ゴールデンレトリーバーの捜索犬モンティとその訓練士サラが主役になる流れは新鮮だったが、<白熱のラストまでノンストップの超一級のエンタテイメント>ほどには、いまいち詰があまいような感じだったね。(2004.2.23)

そして さよならを告げようランドローバーNo One to Trust (C)2002池田真紀子訳 ソニー・マガジンズ 2004

『「着陸は無理だな」ガレンはヘリコプターを目で追った。カーマイケルは三たび上空を通り過ぎ、山肌を覆う木々と距離をおいた。ガレンはドミニクを抱え上げると、ジープの後部座席に下ろした。「乗るんだ。一番近い野原までの道順を教えてくれ」
「初めから野原に向かえばよかったのよ」エレナはバリーを抱き上げて助手席に座らせた。「あとからなら何とでも言えるさ、そうだろう? ほかに手がるなら、まるでパレードみたいに田舎道を車で練り歩きたくはなかった」ガレンは声を張り上げてフォーブスを呼んだ。
 その時、フォーブスはすでに駆け足でこちらに向かってきていた。「車が二台、山を登ってくる。一台は新型のセダン、もう一台はランドローバーだ」
ガレンは悪態をつき、エレナのほうに顔を向けた。「どう思う?」
「どう思うかって? この一帯の住民は日々の生活にも困るほど貧しいの。車などもっている人はほとんどいないわ。チャベスに決まってる」
「連中の車と出会わずに山を越えられる道はあるか?」
「ないわね。道は頂上より手前で終わってるの。ここから七、八キロ先で」』
--COMMENT--
南米コロンビアの麻薬王チャベスを拘束するため、その鍵をにぎる元女性ゲリのラエレナ、そして彼女と息子をアメリカに救出する傭兵ショーン・ガレンが主人公。チャベスからの追撃に逃げているばかりのようなところがあるが、気軽に読み進めやすく楽しめる。
 過剰に残酷なシーンがないのは結構だけど、エレナとガレンが最後には結ばれてしまうという終わり方は、ロマンティック・サスペンスらしいというか、ちょいと余分だね。
車を使った移動シーンは多いが、車名がでてくるのは上記引用の部分のみ。ごくオーソドックスな起用だ。
p.s. たいした誤植ではないのだが、訳者あとがきの年月が『二〇〇〇四年』となっていた。まぁ校正漏れをしやすいところだけどね?(2006.1.17 #395)

その夜、彼女は獲物になったジープDead Aim (C)2003池田真紀子訳 ソニー・マガジンズ 2005

『アレックスが振り返ると、すぐ後ろの車のまばゆいヘッドライトの光に目を射抜かれた。
「モンティが賢いのは認めるわよ。でも交通ルールを理解しているとは思えないわ、サラ」
「それはどうかしら」サラは眉をひそめた。「ふだんならこんなふうに吠えたりは…」ふと表情が晴れる。「良かった、追い越してくれるみたいこのままやり過ごすわね。何をそんなに急いでいるのかしら? こっちは制限速度で走っているのに、まるで…」
 モンティは脇のウィンドウに飛びつき、後続車が横に並びかけると、甲高い声で盛んに吠え立てた。「落ち着きなさい、モンティ。何でもないんだから」
しかし、何でもなくはなかった。銃だ。大変だ。「伏せて!」アレックスは手を伸ばすと、サラの上体を斜め下のドアに押し付けた。
ウィンドウガラスが砕け散った。
サラがうめき声をもらした。弾が当ったのだ。セーターの肩に血の染みが広がっていく。サラは崩れ落ちるように突っ伏した。
ジープは横向きにすべり始めた。ヘッドライトの光が30メートル下の谷底を照らしている。』
--COMMENT--
原因不明のダム決壊現場で不審なヘリを目撃してしまったフォトジャーナリストのアレックスと救助犬モンティのオーナーのサラとが乗った車が襲撃を受けて事件が始まる。
 ストーリーの組み立ても、サスペンスたっぷりのプロットも十分楽しめる作品。女性作家にしては……、なんて言っては差別になるけど、よく出来ていて、さすがベストセラー作家の実力だ。命を狙われる緊迫したシーンが続く中で、しっかり恋しちゃうなんていう"甘いロマンス"は、女性読者を意識してのことかしら?
 ただ、前作『そして さよならを告げよう』も訳のわからない邦題だったけど、本作タイトルもひどい。まるで内容イメージとかけ離れていると思うし、編集者のセンスを疑てしまう。タイトルも、カバーデザインも、とても恥かしくて人前ではひらけない本です。
 引用にでてくる車は、"ジープ"としか言っていない。米国では、チェロキー(グランドチェロキー含む)よりも、昔のジープぽっいラングラーの方を指しているような感じだが?? ほかに、アレックスを護衛する警察車両の"青いトヨタ"、隠れ家から逃亡するするときに使うランドローバー(ジョハンセン・ミステリに、よく登場する)、サラの夫の"ベージュのサターン"など。陰謀組織側のスナイパが使う"薄茶色のトヨタ・4ランナー"は、今までこの手のミステリーでは初めての登場。(2006.1.22 #396)


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