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KERR, PHILIP /フィリップ・カー

エサウカマロESAU (C)1996東江一紀・後藤由季子訳 徳間 1998

愛車シヴォレー・カマロに乗り込んだとき、鐘楼の時計が6時を打った。これは時間の浪費かもしれない、ジャックの電話の受話器がはずされていたのは、彼がヨセミテへフリー・クライミングに行ったときに知り合ったどこかの娘といっしょだからかもしれないなどと思いながら、スウィフトは内陸へ車を走らせ、州間道路を東へ、ディアブロ山州立公園およびダンヴィルの方角へと向かった。ジャックに会って、昼までにバークレーへ戻りたかった。
 道路の滑らかさは、北カリフォルニアのドライバーたちの偏狭さとは好対照だった。早朝で、道には数台のトラックしか走っていないにもかかわらず、トラック野郎たちが、真っ赤な275馬力のクーペを運転する女を、自分たちの男らしさに対する挑戦と見なしたらしいのだ。何度かスウィフトは中指をつきつられるはめになった。こういうとき、男と猿は変わらないと思ってしまう。どちらも、少しも重要でないことを巡って戦える。
 ダンヴィルは、起伏のある牧草地とキャンプ場にかこまれた小さな町で、ディアブロ山からコントラスコタ・カウンティ・バスに乗って少しのところにある。60年前、町の有名な住人は、劇作家のユージン・オニールだった。しかし、オニールは地元の人々に忘れ去られ、現在、はアメリカ登山界の第一人者、ジャック・シャクルトン・ファーニスだ。』

--COMMENT--
 ヒマラヤの秘峰マチャプチャレで発見された原人のまだ新しそうに見える頭蓋骨に端をはっし、探検隊が組まれ、壮大なロマンと科学とアクションの山岳冒険スリラーが展開する。インド・パキスタン紛争の影が渦巻くなか、宇宙偵察衛星事故までからませるのはやりすぎの観もあるけど、久々の大々エンターテイメントだった。
 引用は、カリフォルニア大・バークレー講師の古人類学者ステラ・スウィフトが調査隊結成をジャック・ファーニスに頼みに行く場面。車のシーンはここだけだった。(2006.8.3 #426)

密送航路ミアータA Five Year Plan (C)1997後藤由季子訳 徳間 1999

『ホームステッドを出た今、デイヴはできるだけ長い時間を戸外で過ごしたかった。ということは、コンバーティブルだ。そして、《ヘラルド》のスポーツ欄に、探していたものを見つけた。マツダの販売店が、スポーツカーのセールをやっていた。デイヴはタクシーをつかまえて40番ストリートをダウンタウンの西へ向かい、バード・ロードのマツダについて30分後には、CDプレーヤーなどのアクセサリーつきで、走行距離がたった14,000マイルの96年型ミアータで再び東の海岸をめざしていた。
 新鮮な空気や、日光や、スポーティなシフトレバーや、ラジオの音楽−CDは持っていなかった−を楽しみ始めたとき、北に曲がってセカンド・アヴェニューに入ろうと信号で車を停めて、ふと横になんだ車を見ると、3時間足らず前に、ホームステッドの舎房から彼を出したタマルゴの目と目が合った。刑務所看守は、きっかり1900ドルの古いオールズを運転しており、ほぼ10倍の価格の車に乗ったデイヴを見て、まるで脳溢血の見舞われたかのように、ソファー並みの大きさの下あごをがくんと落とした。』

--COMMENT--
 前作『エサウ』がなかなか面白い山岳冒険物だったし、この作品も大西洋ヨット運搬船を舞台にする…というので期待して読んだ。が、もうなかなか船出しないわ(250ページ目あたりから、ふぅーう)、船が大西洋にでてもヨット・オーナーや船員のわざとらしいおしゃべり(映画、文学、TVについての博識ぶった話題)ばかりでうんざり。なんというアクションもないままに、妙などんでん返しでフィナーレ。
 マイアミのマフィアの弁護士のBMW、コスタリカで乗るレンジ・ローヴァー、マフィアの片腕のジャガー(当人が本は3冊しか読んだことがなく、そのうちの一冊がジャガーのオーナー・マニュアル…というのが笑える)、主人公が以前姉にやった"赤のぽんこつムスタング"など。「…ジミー(訳注 GM製の車のこと)…」というのが出てきたけど初耳だ。シヴォレー・ブレーザーど同シリーズのGMC JIMMYという車種がありJIMMYと言えばこれを指すように思うけど。前作でも気になったが、どうも本書の翻訳もかなりやばい。(2006.8.3 #428)


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