Chris Knopf /クリス・クノップ
私が終わる場所 | ポンティアック・グランプリ | The Last Refuge (C)2005 | 熊谷千寿訳 早川見 2007 |
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『母が死んだとき、中古家具屋に来てもらって、家にあったものをぜんぶ買い取らせた。… 親父が残した67年型ポンティアック・グランプリは手放さなかった。手入れをして、いまでもロングアイランドの東端をぐるぐると走っている。夏のあいだはなるべく裏道を走る。このばかでかい車にはやたら大きなエンジンが積んであって、交通渋滞があると、すぐオーヴァーヒートしてしまうのだ。
あまりにでかくて、信じられない形の車体なので、67年型グランプリがデトロイトの生んだ最速の量産車のひとつだということは、あまり知られていない。しかも、親父と二人でGTOの四速トランスミッションに換えたので、さらに速くなった。塗装がはげてさび止めが見えているが、さびの出てくるたびに継ぎ充てをしている。けっこう楽しいものだ。
親父があまりこの車をめでることはなかった。ほんの数年、乗り心地を味わっただけで、いきつけのニューヨーク市のバーで殴り殺されてしまった。』
--COMMENT--
米国の実業家でもある著者のデビュー作だそう。MIT出身のエンジニアだった主人公サム・アキーロが仕事、家庭に見切りをつけてロングアイランドの元親父の家に戻って隣家の老婦の死亡事件を追うことになる。エルモア・レナードの犯罪小説風ではあるが、主人公があまりに知力あふれ、悩みのあまりない世捨て人…Going my way…というか、かっこうの良すぎるところがいまいち。莫大な価値のある土地がらみの犯罪もややこしすぎて食傷気味ではあったものの、サウサンプトンあたりの風景がしっかり書き込まれているところはなかなか良かった。
引用にでてくるポンティアック・グランプリについては、よほど入れ込んでいて、自慢げに随所に登場させている。<…ウィンドウをおろすと、グランプリは故障したB-52のような音がした。67年当時は、空気力学などあまり考慮されていなかった。ウィンドノイズをかきけすためには、圧縮比10:1、385馬力、426ft・lbのV8自然吸気エンジンが必要だった…>等々。
ほかには、酒場の主人の"錆びの目立つフォード・エコノライン">、マフィアの男の"大きく黒いBMW740ILセダン"、アキーロと同じような半世捨て人弁護士の"ウッドパネルのついた黄色い1978年型フォード・カントリー・スクエワイア"、不動産業者の"60年代初期の角ばったリンカーン・コンチネンタル"などが登場する。それにしてもストーリーにまったくつながらない邦訳タイトルは酷い。(2008.1.23 #530)
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