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Michael Koryta /マイクル・コリータ

さよならを告げた夜シボレー・シルバラードTonight I Said Goodbye (c)2004越前敏弥訳 早川 2006

『シャワーを浴びて着替えをすませ、あけた冷蔵庫の前に立って夕食の中身を考える。数少ない選択肢を検討して、そろそろ食料の買出しへ出かける頃合かと思ったとき、電話が鳴った。
「リンカーン、会いたいの」エイミーの声で元気がなかった。
「どうした」わたしは訊いた。返事がない。「エイミー? どうしたんだ」
「いいから来て、着いたら話す」
電話が切られ、私はため息をついて冷蔵庫のドアを閉めた。夕食はお預けだ。キーをつかんで部屋を出た。
 以前はジープに乗っていたが、最近それを下取りに出して、中古4年使用のシボレー・シルバラードのピックアップ・トラックを手に入れた。大きな車が好きなわたしは、可変サスつきの四輪駆動車があれば、クリーヴランドの冬が吐き出すどんな悪天候にも立ち向かえると思っている。エイミーとジョーはこのトラックを見て、よくせせ笑うが、この馬鹿でかい代物に乗って先を急いでいるときは─今がまさにそうだが─大概まわりの車が道を譲ってくれる。  エイミーのアパートの前にある駐車場に乗り入れて、まず目に留まったのは彼女のアキュラだった。置いてるのはいつもの場所だが、車体の側面とトランクのいたるところに大きな凹みがあり、四つの窓は全て割られ、フロントガラスには蜘蛛の巣状のひびが入っている。
 わたしはエンジンを切ってトラックからおり、呆然と見つめた。』

--COMMENT--
 クリーヴランドの私立探偵リンカーン・ペリーが相棒のジョーや、上の引用にでてくる新聞記者エイミーの助けをかりて、殺された別の探偵の事件と失踪したその男の妻と娘を追う。よくありがちなプロットそのものだが、元警官の主人公、仲間、依頼人の父親など人物像がしっとりと描かれているし、会話もしゃれていて、オンタリオ湖河岸の街の風景描写もなかなかのもので気に入りました。なんと21歳の著者のデビュー作だそうだ。すごい筆力だこと。
 殺された探偵の"トヨタSUVとレクサス"、その父親のビュイック、ロシア・マフィアの"黒のリンカーン・ナヴィゲーター"、エイミーの嫌味のカレの"白いレクサス"などがでてくる。  この頃は、レクサスが米ミステリの定番登場車になったような感じるほどよく出てくる。ただ、オーナー像は嫌味なやつだったり、成金イメージだったりが多いようだ。
 リンカーンは、引用部分のとおり大型車にこだわっていて他の場面でも、クリーヴランドのタワー・シティ駐車場の小さな区画が"どう見てもジオ・メトロやホンダ・シヴィック向けだ"とこぼしたり、サウスカロライナで借りたレンタカーが"ちっぽけで忌々しいフォード・コントア"でがっかりなどと言わせている。(2006.11.10 #444)


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