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KRUEGER, WILLIAM KENT /ウィリアム K.クルーガー

狼の震える夜トヨタBoundary Waters (C)1999野口百合子訳 講談社 2003

『ジョーはオフィスに行き、二、三分でスケジュールを片付けた。ローズに電話して、夕食に遅れると言った。オーロラを夕闇が覆うころ、自分のトヨタに乗り込んで、アイアン・レイク保留地に向かった。セアラ・ツー・ナイヴスに、彼女の夫と息子をむりやりバウンダリー・ウォーターズへ連れ去った男たちが消息を絶ち、どこにいるかわからないと伝えなければならない。
 フロントガラスにはボタン雪が張り付きはじめている。ヘッドライトの光で、しけった雪が羽虫の群れの中の蛾のように霧雨に混じっている。
 アロウェットの郊外で、彼女は車を片側に寄せ、ウェンデル・ツー・ナイヴスのトレーラーハウスへの曲がり角に停めた。トレーラーも外の建物も、暗闇とみぞれのせいでほとんど見えない。だが、その向こう側で、湖岸のヒマラヤ杉の枝を通して光がちらちらしているのに気づいた。』
--COMMENT--
 アメリカインディアンのアニシナアベ族(部族数としては4番目、別名オジブワ族)が住むミネソタのバウンダリー・ウォーターズを舞台にした元保安官コークのシリーズ第2作。アニシナアベ族の血をひく女性人気歌手が消息を絶った湖沼地帯への捜索と、その女性を追う男との壮絶な戦いが大自然をバックに繰り広げられる。 私好み!ぴったりのアドベンチャー・ミステリにはトニイ・ヒラーマン以降久しぶりだ。
 引用は、町にいるコークの妻ジョーが捜索隊の消息を気にかけるシーン。コークの車は定番ブロンコ、女性歌手の義父の黒のレクサス、アニシナアベ族の樵の"埃だらけの青いフォード・レンジャー"、カジノ経営者の黒いリンカーン、保安官の"タマラック郡保安官事務所の記章がついたランドクルーザー"、失踪した女性歌手の赤いメルセデスなど。(2009.5.3 #592)

凍りつく心臓カワサキのバイクIron Lake (C)1998野口百合子訳 講談社 2001

『「こんばんは、コーク」神父は手を差し出し、二人は握手した。力強い握力で、コークを外の嵐から家の中へ導いた。
 トム・グリフィンは黒い服を着て、彼にしては珍しく聖職者のカラーをつけていた。公式の場や宗教的な職務をとりおこなうとき以外は、ブルージーンズフランネル・シャツ、ハイキングブーツといった服装を神父は好んだ。老齢のケルジー神父がセント・アグネス教会をとりしきる手伝いをするため、それにアイアン・レイク保留地に住むカトリック教区民を担当するために、彼は一年半前にオーロラに来た。まもなく四十歳になるころで、善意とエネルギーに満ち溢れている。
 夏には、大型の古いカワサキのバイクに乗って保留地の裏道を疾走する姿が見られた。冬には、たいていカワサキのスノーモービルを使った…というわけで、彼は保留地で敬意をこめて"セント・カワサキ"と呼ばれていた。』
--COMMENT--
 著者のデビュー作は、ミネソタのアイアン湖畔の町オーロラを舞台に、他殺された老判事と少年の失踪事件を元保安官コークが追う。次作『狼の震える夜』にくらべるとあまりアドベンチャー的な見せ場は少なく、主人公の窮地が何度も他の人に助けられるなど都合のよすぎるストーリーなど、処女作らしい荒っぽさが目についた。
 引用以外には、コークの赤いブロンコ、別居中の妻のトヨタ、カジノ支配人が若い頃乗っていたハーレー、ローカル紙編集人のトーラス、上院議員の白いBMWと白いメルセデス・セダンなど。(2009.5.16 #594)

月下の狙撃者フォード・コントゥアThe Devil's Bed (C)2003野口百合子訳 文芸春秋 2005

『モーテルの事務所で、ボーはマックス・エイブルマンの所在を聞き、10号室だと言われた。ボーのコントゥアのほかに、駐車場には二台しか停まっていなかった。10年はたっている、ほこりだらけの緑色のシボレー・ピックアップ。新しいぴかぴかの赤いマスタング。ピックアップは10号室の斜め前に停めてあった。
 ドアをノックしても応えはなかった。10号室からは何一つ聞こえない。ノブを試してみがロックされている。ボーは踵を返して自分の車に向かった。背後で、10号室のカーテンがわずかに開いたのは見なかったし、後頭部に投射された小さな赤い点には気づきようもなかった。ボーを見送りながらナイトメアが「バン!」と呟いたのも聞くことはなかった。』
--COMMENT--
 これまで邦訳された唯一のノンシリーズで、大統領夫人を警護するシークレット・サービスのボーが夫人を狙う謀略を追う。コーク・オコナー・シリーズ…辺境の地の大自然がバックになる勇壮なサスペンスを期待すると外れる。
 引用に登場する主人公の車がコントゥアで、日本ではほとんど馴染みがない。北米で1995年から2000年まで販売されたフォードのミドルクラス・セダン。地味なデザインだし、これといった特色もない…販売は振るわなっかようだ。他には、シークレット・サービスの女性上司のセーブル、これも地味のお手本だが、などが出てくる。(2009.6.3 #596)

二度死んだ少女ブロンコBlood Hollow (C)2004野口百合子訳 講談社 2009

『いちばん近い町のミネソタ州オーロラからは32キロあり、広大な森林に囲まれて、隣人とよべるような存在からは可能な限り離れている。母屋のほかに、100メートルほど南のブラックベア湖の岸辺に小さなゲストハウスがあり、ウォーリー・シャノーが捜索救助活動の本部を設けたのはそこだった。
 朝出発してから、コークは昼近くに一度本部へ戻り、手早くサンドイッチを食べてエネルギーを補給した。そのとき、ゲストハウスは活気に満ちていた。スノーモビルを乗りつけたいまは、ひっそりと静まり返っている。10台以上のほかのマシンは樹間に停めてあった。スノーモビルを運んできたトレーラーは、連結されないままからっぽで置いてあり、連結部は雪に埋もれていた。トレーラーを牽引してきたトラックやSUVは既に避難していた。残っていたのはコークの古い赤のブロンコとタマラック郡保安官事務所のランドクルーザーだけだ。
 激しい雪で、視界はほとんどきかなかった。それでも、大きな母屋と、灯りのついていた窓辺に立った背の高い人影が凍った湖のほうを眺めているのが見えた。』
--COMMENT--
 元保安官コークのシリーズ第4作は、大晦日に行方不明になった女子高校生の捜索が行われた(引用のシーン)た。そして雪解けの季節になって、ようやく遺体が見つかり現場検証から容疑者となったアニシナアベ族の少年の無実を信じるコークが妻の弁護士とともに真犯人を追う。
 少年がイエス・キリストに出遭うなど、ユニークな挿話が興味深かったものの、二転三転する犯人像や、最後の数ページでがらりと思わぬフィナーレを迎える点が、わたしにはちょっとね…
 登場する車すべてに車名が付与されていて、その数は作者が偏執狂じゃないか?と思わせるほど。全部はムリだが以下。遺体を発見したハネムーナーの赤いダッジ・ネオン、妻(弁護士)のトヨタ、少女の父の銀色のエルドラド、保安官の妻のゴールド仕様のPTクルーザー、少年の母の青いブレーザー、少年の黒のレンジャー、神父の黄色のノヴァ、女性写真家のワゴニア、保安官のBMW、保安官の娘の赤のミアータ、警官のグレーのパスファインダー等々。(2009.6.21 #599)

煉獄の丘ランドクルーザーPurgatory Ridge (C)2001野口百合子訳 講談社 2007

『「わたしの判断が間違ってなければ、きみは多少の泥を被ろうがびくともしないはずだ。それに、タマラック郡の有権者はどうしようもない噂好きではあっても、そういう汚いキャンペーンには眉をひそめるだろう」
シャノーは手をのばしてランドクルーザーのドアを開けた。
「考えてみるべきだ、と言っているだけだよ。じゃぁな」
「ああ、ありがとう、ウォーリー」
 シャノーは車をUターンさせた。タイヤがなぎ倒した細い跡が、道端のカラスムギに残された。保安官がいなくなったあと、コークはしばし陽光の中に立って、乾燥した熱気にこもるバッタの羽音に耳を傾けた。その音は、爆発寸前に導火線が燃える音を思わせた。』
--COMMENT--
 元保安官コークのシリーズ第3作は、環境保護戦士と名乗るグループの製材所爆破を発端として、さらに誘拐につながる事件をコークが追う。前半は遅い展開だが、後半には誘拐された母子二組と犯人グループの一人の元船員が危機を脱しようとするあたりはなかなか見もの。ただし、田舎町にしては次々に事件が起きすぎだし、その犯罪も妙に込み入りすぎて不自然な感じが否めないなぁ。
 引用は、引退する現保安官から、次の保安官に返り咲いてほしいと言葉をかけられるところ。自然の描写は素敵だ。ほかには、コークのブロンコ(第一作から同じ)、元海軍特殊部隊員のフォード・エコノライン・ヴァン、木こりのフォードF10ピックアップ、元船員の"自作キャンパーシェルをつけた古い青のダッジ・ピックアップ"、製材所オーナーの新車のエクスプローラー、コークの妻のターセル(前作まではただトヨタとしか書かれていなかった)、ローカル紙の記者の"海老茶色のトーラス・ワゴン"などが登場する。(2009.7.16 #601)


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